●第四話 情報
「お待たせしました。これが冒険者ギルドの登録証、ギルドカードです。依頼を受けるときや討伐部位の交換のときはこれを必ず提示してくださいね。無くした場合は再発行の手数料銀貨二枚がかかりますから無くさないように」
受け取ったギルドカードを見て、俺は驚愕する。
「なっ! どうなってる! このギルドカード、軽い金属素材で角の直角も精密そのものじゃないか!」
明らかに工場で生産されたような規格統一感。これが銀河同盟のギフトカードやメモリーチップですと言われても何ら違和感のないレベルだ。
「ふっふー、皆さん驚かれますが、これこそがっ、私たち冒険者ギルドが誇る超高度な技術の結晶です! ま、発掘された神々の遺産なんですけどね」
「待って、じゃあ、こんなものが大量に埋まっているというの?」
「んんー、さあ、そこまでは私も知りませんが……おっと、ギルドの秘密については口外禁止になっております。一切、お答えできません」
まあいい、教えてもらわなくても、解析すれば何かわかるだろう。
「ところで、この魔石を買い取ってくれると聞いたんだが」
俺は回収しておいた紫色の小さな球体をカウンターに置く。
「お、大きいですね。ええと、これって何の魔物だったかな……」
「ムーンベアだ」
「ええっ!? ム、ムーンベア!? いったい、どうやって」
「倒したんだが?」
どうも翻訳が上手く行っていないのか、受付嬢が何に驚いているのかよくわからん。
「ええええ?」
「お金にはできないの?」
クローディアが聞く。
「い、いえ、では買い取りします。大銀貨八枚です。ご確認ください」
受け取った半分、四枚をクローディアに渡した。フィーナにも渡そうとしたが、彼女は首を横に振った。
「いえ、それはハルトさんがお持ちください」
「だが……」
「いいのです。それを受け取る資格があるのは、あなたです」
「入関税や登録料で借りた分を返すだけだ」
「いいえ、それでは私の命を助けて頂いた借りを返せなくなってしまいますから」
仕方ないな。彼女がそれで気が済むなら、ここはありがたく受け取っておこう。お姫様ならお金には困っていないだろうし。
「他にご用件はおありですか?」
「ええ、王都やここの領主について詳しく知りたいの。情報料は払います。教えてもらえますか?」
フィーナが受付嬢に頼んだ。情報収集を優先するという方針は、すでに宿で話し合った。
「ええっと、王都や領主様の情報ですか? 基本的に、私たち冒険者ギルドは政治には不干渉という立場なので、ちょっとお答えしづらいというか……なぜ、そんな情報が必要なんですか?」
「ええと、それは……」
「俺たちはまだ王都を良く知らないので、今度、観光がてら行く予定なんですよ。できれば失礼の無いようにしたいですからね」
「そうですか。王都の観光スポットなら、中央広場の噴水が人気ですよ。あと穴場としては旧市街の古代水路かな。ああ、そうそう、リンツァートルテ! 月光亭のラズベリージャムとクルミをたっぷり載せた格子模様の焼き菓子なんですが、甘くてとーっても美味しいですよ! 絶品です!」
「そ、そう、ありがとう」
「いえいえ」
「あ、ではこれはお礼です」
「ふぉっ! 金貨!?」
だが、フィーナが差し出した金貨は、横からゴツい手が奪い取った。
「おい、嬢ちゃん、出し過ぎだ。王都の情報が聞きたければ、商人か情報屋を当たれ。そいつに聞いても金と時間の無駄だぞ」
「ちょっ、ヴォルクさん! なんてことを言うんですか。私はこのギルド一の甘党で、王都グルメにはメッッッチャ詳しいんですからね! あと、その金貨は私の!」
「その金貨を返しなさい」
クローディアが言うが、言って返すような相手ではないと思うぞ……
「フン、返さないと言ったら?」
「力尽くで取り戻すまでよ、はっ!」
素早くクローディアが跳ぶ。
男の右腕を両手でつかむと、彼女自身の両足も浮かせ、さらに右腕にぶら下がるように引っ張る。アームロックの一種、十字腕ひしぎだ。通常、この態勢で無理に我慢すれば、腕が脱臼するか、骨折。
――だが。
「ふん、面白い技だが、まだまだ力不足だな」
ヴォルクは立ったまま、余裕の表情だった。
「そんな! くっ」
逆にクローディアが足首を左腕でつかまれた。このままでは危険なことになりそうだったので、俺は迷わずパルスレーザーガンを抜き、男の脳天に向け構える。
「そこまでだ!」
「……そういえばお前は魔術師だったか。なら、ほれ、金貨は返してやる。それで装備を調えろ。次にここに丸腰で来ているのを見かけたら、二人ともひねり潰してやる」
ヴォルクは凍るような目で言った。間違いなく本気だろう。
「ヴォルクさん! 冒険者同士の喧嘩はせめてギルドの外でやってください。今度ここで暴れたら、罰金ですよ。あとその金貨は私のです!」
「けっ、誰でも知ってるリンツァートルテで金貨一枚はぼったくりすぎだ。それとな、王都で一番旨いのはソーセージの串焼きにエールだ、覚えとけ」
「きー!」
「大丈夫か、クローディア」
「ええ、でも何者なの、あの男。完全に肘関節が決まったはずなのに、ビクともしなかった」
「相手が悪かったんですよ。ああ見えて、うちのギルドじゃあ一番強いBランクですから」
となると、戦闘スーツなしでこの世界のBランク以上の冒険者とやり合うのは危険かもしれないな。
「次はフル装備で勝つわ」
「こらこら、軍規と未開惑星保護条約はどうした。それに、注目を浴びすぎだ。いったん出よう」
「そうね」
他の冒険者があんぐりと口を開け、驚いた顔でこちらを見ている。
「見たか、今の動き?」
「ああ、ありゃあどう見ても新人のFランクの動きじゃなかったぞ。しかも、あの兄ちゃん、『凶狼のヴォルク』をにらんだだけで止めやがった!」
「いや、あれはヴォルクのほうが相手にしなかっただけだ。だいたい、あいつら丸腰じゃねえか。ギルドを舐めすぎだ」
「申し訳ありません、ハルトさん、クローディアさん、私の配慮不足でした。まずは装備を調えに行きましょう」
「そうだな」
街中で戦闘スーツなんて着たら目立ちすぎる。ここでは、この世界の武装を考えたほうがいい。
「あ、あのぉ、私の金貨ぁあああっ!」




