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双星の継承者  作者: まさな
■序章 事象地平線の奇襲 ― Operation Horizon Strike ―
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●プロローグ 人類最後の賭け

「各員傾注! これより作戦の最終確認を行う。我々は一○○(ヒトマルマル)後、ガイアBH1ブラックホールの裏側、事象の地平線に近い座標Ω(オメガ)に全軍をもって向かう。


 マザーボルバの計算では、99.96%の確率でここにネクサスの大規模生産拠点『(ハイヴ)』が存在する。ターゲットはこの兵器工場、および生体兵器すべてだ。これらを破壊し、敵の増殖を一気に断つ。放置すれば、敵は増殖と変異を繰り返し、いずれ人類の戦力と資源を凌駕(りょうが)するだろう。


 ()()()()()()()()()()()ということだ。これまで我々は何度も後手に回ってきた。敵の姿、生態、目的、科学レベル、未だ全貌(ぜんぼう)がつかめていない。


 だが、忘れるな。我々は銀河最強の覇者である! 次は我々が奇襲を仕掛け、ヤツらを驚かせる番だ。各員、奮闘せよ! 銀河同盟と全人類の未来のために」


 モニタの演説が終わると、ブリッジで副艦長が口を開いた。


「それでは司令部作戦に基づき、我々『ヴァルキリー艦隊』の方針を決めます。戦術参謀ライアン中佐、プランの説明を」


「そのことだが、ハルト、お前がやれ。ここは発案者に説明させるのが一番良い」

 急に指名され、俺は焦った。


「ええ? ライアン教官、こんな時に何を」


 ぺーぺーの新人がこのような艦隊会議で発言していいのだろうか。


「おい、オレは今、教官なんかじゃないぞ、気を引き締めろ、ハルト・レオンハート少尉。これは訓練でも演習でもない、実戦だ。まぁ、退役間際で時代遅れの戦術教官まで引っ張り出されるようじゃ、お前の初陣としてふさわしくないんだがな」


「オホン、では説明を、少尉。あまり時間がありません」


 そうだな、上官の命令だ。


「はっ、失礼しました」


 俺は敬礼して、説明に入る。


「この戦術プランは戦略級のラグナロック作戦を戦術レベルへと落とし込んだもので、奇襲の最大効果を狙います」


「つまり?」


「ヴァルキリー艦隊は短距離ワープを行い、敵本拠地の裏側に強行。本隊の攻撃と同時に、奇襲を仕掛けます。敵を挟み撃ちというわけです」


 3Dホログラムの戦術図を動かしながら、俺は説明する。


「無謀だわ。小数戦力で挑むなんて、しかも作戦地域から外れてるじゃない」


「ソフィア・クローディア中尉、あなたの感想は求めていませんよ。これは艦隊の戦術会議ですからね。せめて発言は挙手してからにしなさい」


「申し訳ありません、副艦長。では」


「発言を許可します」


「航行管制士として意見具申させていただきますが、ワープ直後は艦隊の航行が一定時間、制御困難となります。シールドも再展開でエネルギーが不足しているときに、敵の正面攻撃を受ければ、陣形を整えるどころか、回避不能であっという間に大破することでしょう」


 クローディア先輩の指摘はもっともだが、想定済みだ。


「その点は考えてあります。重力制御を切り、ブラックホールの引力を利用すれば、艦をある程度は動かすことが可能です。また、レーザーではなく、スラスターミサイルを使用すれば、照準も安定することでしょう」


「なるほど……それなら可能でしょうね。艦長、いかがでしょうか?」


「うん、なかなか面白いじゃないか。敵の意表を突くという点において、これほど見事な作戦はない。あとは我々の敵が、驚くという感情を持ち合わせているかどうかだがね……ま、それはどちらでも構わないか。どのみちやることは変わらんのだ。ヴァルキリー艦隊に通達! ワープで敵の裏側に出る。以降、この戦術コードネームをホライゾン・ストライクと命名する。以上、送れ」


「はっ、直ちにワープ座標送れ」


「戦術リンクシステム同期開始、マザーボルバによる作戦成功率判定は92%」


「ワープエネルギー充填開始、現在12%」


 まさか自分の案がそのまま採用されるとは思っていなかったので、緊張する。これで失敗したらと思うと、俺はとんでもないことを言ってしまったかもしれない……。胃が冷たくなってきた。


「ハルト、もっと肩の力を抜け。戦闘は長丁場になる。始まる前からそれじゃ持たんぞ」


「はぁ、ですがライアン中佐、作戦成功率が微妙です。せめてあと3%あれば……」


「ふん、AIの予測なんぞ、当てにするな。当たろうが外れようが、そりゃ占い師と一緒だぞ。本当の未来は誰にも分からんのだ。だからこそ忘れるな、最後に選んで決めなきゃならんのは、いつだって人間だってことをな」


「そうですね」


 未来は誰にも分からない。その点に異論はなかった。

 量子次元コンピューターがいくら進化しようとも、この世の全部をリアルタイムで計算することは到底不可能。世界はバタフライ効果でほんの些細(ささい)なことから、すべてつながっている。


 ただ、それでも――誰かが成功すると言ってお墨付きをくれるほうがずっと安心できるじゃないか。


「きっと上手く行くわ」

「先輩?」


 てっきり作戦に反対していると思ったので、クローディアがそう言い出すのは少し意外だった。


「だって、私が戦術シミュレーション対決で負けたことがあるのはあなた一人だけですもの。常に私の予測を斜め上に超えると言う点では、ええ、誇りなさい、レオンハート少尉」


 やれやれ、なんだか屈折した賞賛だ。


「はっはっ、お前も根に持つヤツだなぁ、クローディア。士官学校時代の勝ち負けなんぞどうだって良かろうに」


「別に根に持っているわけじゃありません。自分の慢心を戒めるためにも、失敗はキッチリ覚えているだけですから」


 それを聞いたライアン中佐が顔をしかめ、口をへの字にする。


「ハッ、お前ら、真面目すぎて酒がまずくなる。よし、作戦が終わったら、オレの部屋に来い。安酒しかねぇが、勝利の美酒の良さってのを教えてやろう。やみつきになるぞぉ?」


「お断りさせて頂きます。私、お酒は嗜みませんから」

「なにぃ? 上官の祝杯も断るたぁ、あきれたヤツだな」

「なんとでも、アルハラですよ、中佐。そろそろワープ開始です。私もコンソールに戻らないと」

「おお、そうだな、引き留めて悪かった」

「いえ」


 俺も重力制御の遮断に備えた方が良さそうだ。大きく息を吐く。

 ――ついに、実戦だ。

よろしくお願いします。

BGMに「おお、女神よ」などをかけると、テンションが上がります。

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