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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第三巻 商人から支配者へ① ――守るための取引と暴力

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第99章 古の学院長と聚魔珠の遺産

目をこすりながら、フィルードはさらに読み進めた。

「もし魔力がまだ回復していないのなら、お前も中のものを大切に保管し、できる限り伝承していくのだ。ここには、お前が想像するような宝物はなく、書籍と種子だけで、せいぜい魔石が少し残っている程度だろう。最も価値のあるものといえば、あの聚魔珠だ。これは我々の時代でも貴重なものだった――」

「……聚魔珠、か」

思わず口の端が上がる。

魔法文明の時代でも“貴重”とされた遺物。そんなものが、この朽ちた地下庫に眠っていたとは。

「名前の通り、その役割は魔力を集めることだが、時々魔石を加えて、魔紋を自動修復させる必要がある。さて、話はここまでだ。これらの書籍は特殊な魔獣皮で作られているため、わずかな魔力があれば損傷しない。お前がさらに遠くへ進むことを願っている!」

ページを閉じた瞬間、フィルードは深く息を吐いた。

(……本物だな。この学院長、ただの学者じゃない。後世にこれほどの記録を残せるとは、見上げたものだ)

守銭奴の自覚がある彼でさえ、思わず胸が熱くなる。

「ったく、こういう連中がいるから時代は続くんだよな」

わざとらしく二滴、涙を絞り出す。演技も板についたものだ。

その後、フィルードはゆっくりと聚魔珠――あの紫色の水晶球へ歩み寄った。

光を放つそれは、まるで生き物のように微かに脈打っていた。

「……浮いてる、だと?」

驚愕よりも興奮が勝つ。

球の下にある巨大な石台は空洞化しており、中はすべて魔石で満たされていた――いや、“満たされていた”というべきか。今はすっかり力を失っている。

(千年以上、稼働し続けた痕跡……これを維持する魔力がどれほどだったか、想像もつかない)

彼が昔読んだ魔法使いの回想録を思い出す。

天地の魔力は一万年以上前に消散し、数千年前に衰退を止め、現在の薄い状態を維持している――

つまり、ここはとっくに寿命を迎えている。

「設計上の使用年限超過千年……まるで骨董品の自動人形みたいだな」

だがその残滓すら、今の時代では計り知れぬ価値を持つ。

フィルードは口角を上げ、眼前の書籍群を見渡した。

「ふふっ、いいじゃないか。これだけあれば、いくらでも商売できる」

彼にとって知識とは金だ。

他人には無用の書でも、異世界のよそ者である自分には宝そのもの。

石柱のそばに聚魔珠の使用説明書を見つけた。

それを読み、彼は唇を歪める。

「なるほど……超凡者なら誰でも使える、か。俺に使うなという方が無理な話だ」

魔力の送信を始めた。

何度も限界まで魔力を注ぎ、座して瞑想、回復、再び注入。

これを五、六回繰り返して、ようやく珠は完全に彼の支配下に入った。

「……ふう。まるで新しい腕を得た気分だ」

意識を集中すると、珠の内部構造までもが見えてくる。

(だが、取り込むことはできないか。まあ、今はそれでいい)

状態を確認してみると、結果は芳しくなかった。

魔紋の三分の一が詰まり、修復には少なくとも魔石二百個――金貨四万枚分が必要。

「四万か……最近の俺の資産は八千。詐欺と盗みと強奪の成果にしては、悪くないが……やれやれ」

肩をすくめつつも、内心は冷静だった。

(完全修復は後でいい。今は崩壊を防げば十分だ)

毎月魔晶を一つ補充すれば維持できる。

幸い、聚魔珠は未だ強力な魔力を放ち続けていた。

これを下手に動かせば、魔力は霧散し、二度とこの密度には戻らない。

(なら、ここを“魔力の井戸”として利用するのが最適だな)

そして、盆地から樹木が消えた理由にも気づく。

「……全部、この珠が吸ったのか」

樹木の木魔力まで啜り尽くす飢えた珠。黒い土壌はその死骸の残滓。

フィルードは念で魔紋を調整し、亀裂を塞ぎ、外部への魔力漏れを防ぐ。

その後、深く息を吐きながら地上へ這い出た。

外ではマイクとブルースが待っていた。

「どうでした、フィルード様?」

「……宝庫だった。だが大半は塵。残ったのは書籍と……一つだけ、とびきりの代物だ」

光の幕を指しながら笑う。

「これがその“代物”だ。拘束能力も魔力密度も桁違いだぞ」

マイクが報告する。「黒牛の仔牛を二十三頭、確保しました!」

「上出来だ。あれらは連れ帰って飼い慣らす。あの肉質と力なら軍馬代わりにもなる。谷の入り口にある死体や薬材は放っておけ。この場所は魔力が濃い、しばらく俺の修行場にする」

指示は矢継ぎ早だった。

軍の指揮はマイク、領地の管理はケビンへ。弩床と百人の奴隷兵は残す。

さらに金貨百枚を渡し、命じる。

「デビー城で弓矢を追加購入。秋の収穫が終わっているはずだから、食糧を大量に買い付けろ。情勢は読めない。金より食糧だ」

「……了解しました!」

マイクが頭を下げる。

「それと、ここのことは誰にも漏らすな。知られれば、俺たちの傭兵団は一瞬で潰される」

その声には、いつもの軽さが消えていた。

「領地の者があなたを尋ねたら?」

「城に用事があると言え。それで十分だ」

二人が去るのを見送り、フィルードは再び暗い洞窟の奥へと戻った。

(さて……ここからが本番だ。魔法文明の遺産、聚魔珠。これを使いこなせれば――俺の“王国”は、もっと面白くなる)

そして彼は笑った。

その笑みには、確かな自信と底知れぬ野望が宿っていた。

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