第97章 戦争賠償─沈黙する貴族、嘲笑う勝者
ヴァールはそれを聞いて眉をひくつかせ、しばらくしてから、かすれた声で言った。
「……何を望んでいる? 私は子爵という地位にあるが、手元には多くの資源がない。そうでなければ、部下に危険を冒させて副収入を得させたりはしない。」
フィルードは、彼の感情が落ち着いたのを見て、心の中で密かに安堵の息を吐いた。
――よかった。ここで暴発されて心中なんてされたら、せっかくの勝利が無駄になるところだった。
彼にとって、もはやこの老いぼれの命などどうでもいい。必要なのは「結果」――つまり、利益だけだ。
「私の要求は高くはない。あなたが三千金貨を出すだけで、あなたと部下全員を解放することができる。」
それを聞いたヴァールの顔が一瞬にして真っ赤に染まった。
「お前は……本当に際限なく貪欲だな! 三千金貨だと!? よくそんなことが言えるな! それは考えない方がいい! 私はせいぜい千金貨を渡す。その上、戦場に置き去りにした私の装備を返してもらわなければならない! さもなければ、我々が話し合いを続ける必要はない!」
怒りに震える声。しかし、フィルードは冷ややかに笑った。
「いくら払おうと、私が鹵獲した装備をあなたに返すことはない。それと、千金貨ではせいぜいあなたの部下を解放するだけだ。あなたは子爵だということを忘れるな、北域全体を見てもそう多くはいないのだぞ。」
――まったく、まだ自分の立場が見えていないらしい。
勝者と敗者の間には、もはや交渉の余地などないというのに。
ヴァールは顔を歪め、咆哮した。
「二千金貨は出せる! だが、装備は必ず返してもらわなければならない! これらの装備がなければ、私の領地は終わりだ!」
「それは私には関係ない。」
フィルードの声は静かで、氷のように冷たかった。
「あなたが攻撃を選択した以上、代償を支払うのは当然だ。もし私が敗北していたら、その結末はもっと悲惨だっただろう。――野営地には少なくとも鉄鎧二百、鉄鋲付き革鎧三百、さらに無数の普通の革鎧がある。それらの総価値は、金貨数千を軽く超える。非常時にこれほどの装備を揃えるなど不可能だ。あなたのその程度の金では、買い戻すことすらできない。」
「……ここで何が身代金だと言っているのだ?」
ヴァールの顔に怒りと焦りが入り混じる。
だが、フィルードの視線は微動だにしない。
「私を何かで脅そうとするな。あなたの部下の小指を切り取った時、私の態度は示したはずだ。」
その声は淡々としていたが、言葉の一つ一つが刃のように鋭かった。
「この世は、兵さえ持っていれば、誰も私に手出しはできない。……私の忍耐は限界が近い。数分の猶予を与えよう。その時が来たら、強制的な手段を講じる。」
沈黙。
その場に重苦しい気配が広がる。
ヴァールは顔を伏せ、拳を震わせた。
――この若造に、ここまで言わせるとはな。
フィルードの内心では、冷静な計算が続いていた。
(……殺すのは簡単だ。だが、それでは何も残らない。せっかくの勝利を血で濁すだけだ。それより、彼から最大限の「代償」を引き出すほうがはるかに有益だ。)
長い沈黙の後、ヴァールのかすれた声が再び響いた。
「四千金貨は出せる。だが、装備はどんなことがあっても返してもらわねばならない。……その上、今後はいかなる形でもあなたに報復しないという契約も結べる。もしあなたが装備を返さないなら、我々は捕虜のままで構わない。あなたは我々をずっと養っていればいい。結局、領地に戻っても安全ではない。これらの装備は、我々の領地の八割の資産を占めているのだから。」
――往生際の悪い奴だ。だが、ここまで言うということは、もう限界が近い。
フィルードは小さく息を吐き、額に手を当てた。
「……五千だ。」
短く、しかし確実に突き刺すように言い放つ。
「言い値だ。これを出せば装備を持ち帰ることを許可する。それ以下なら……あなたを監禁しておこう。そうすれば、多くの人が“あなたを救うために”自ら金貨を届けに来るだろう。」
ヴァールの顔がみるみる青ざめていく。
敗北者の誇りが粉々に砕かれていく音が聞こえるようだった。
「……あなたの望み通りにしよう。」
絞り出すような声で言い、彼は深く項垂れた。
「最近は情勢が緊迫しており、私の領地でも金銭の消耗が大きすぎる。」
そして、しばらくの沈黙の後、苦しげに言葉を続ける。
「今、私の手元にこれだけの金がない。何か別の物で相殺することはできないだろうか?」
フィルードは少し考え、顎に手を当てた。
――まあ、ここで折れてやるのも悪くない。
「……今は秋の収穫期だ。あなたの領地の食糧で相殺しても構わない。ただし、輸送力はこちらにはない。あなたが責任を持って運んでこい。私に一ポンド運ぶごとに、銅フェニー半枚の利益を与えよう。一往復で銀貨二十枚の儲けになる。領地中の牛車、馬車、ロバ車までも動員して運べばいい。」
ヴァールは、もはや魂の抜けたように頷いた。
この程度の利益など、もはや目にも入っていない。
こうして二人は正式に契約を結んだ。
一つは戦争賠償契約、もう一つは相互不可侵条約。
簡単に言えば、ヴァールはいかなる方法でも報復してはならないというものだった。
この契約には法的効力があり、もし破れば王都で告発される。
――つまり、完全勝利だ。
フィルードは内心で薄く笑った。
敵を屈服させ、なおかつ法の名のもとに縛る。
これほど痛快な勝ち方が他にあるだろうか。
ヴァールが武器を置くと、フィルードは彼にふさわしい貴族の待遇を与えた。
側近の部下一人を領地に戻して金貨を取りに行かせることを許可する。
だが、待つ間にも様々な者が訪ねてきた。
「ヴァールを解放しないでほしい」と懇願する者、
「一日五十金貨で買い取りたい」と叫ぶ者、
「二千金貨を一括で払う」と取引を持ちかける者。
――まるでハイエナだな。
だが、五千金貨に比べれば、これらは取るに足らない。
丸五日が経過した。
ヴァールの部下がようやく金貨を運んできた。
奔走の末に集まったのは四千二百金貨。
まだ八百金貨が足りなかった。
現在、半身鉄鎧は一揃い二十金貨に値上がりしている。
フィルードは四十着の鎧を差し引き、残りを食糧で補わせた。
弓矢に関しては、合計百四張の制式長弓を完全に確保。
食糧も約五万ポンドのライ麦を回収し、領地の維持には十分だった。
数日後、ヴァールは残存兵をまとめ、ようやく領地へと去っていった。
その間、フィルードは街に人を送り、さらに数十張の強弓を購入。
三百本の徹甲矢じりを特注させ、
シャルドゥンには五十台の弩床の製造を命じた。
十日後――全てが完成。
調整を経て、五十台の弩車が姿を現した。
フィルードはユリアンとライドンに領地の補給を任せ、
自らはマイク、ブルース、そして百人の奴隷兵を率いて出発した。
目的は――あの“魔獣の群れ”だった。
道中、フィルードは奴隷兵たちの目を覆い、視界を奪った。
わざと水辺に潜らせ、遠回りをさせ、彼らの位置感覚を狂わせる。
(……このルートを覚えられては困る。あの場所は、俺だけの秘密の狩場だ。)
三日をかけて、ついに盆地へ到達した時、
フィルードはゆっくりと目隠しを外した。
「……ここだ。」
奴隷兵たちは息を呑む。
彼らの目の前には、深く切り裂かれた峡谷。
その奥から、獣の怒号のような咆哮が響く。
「全ての弩車、弦を張って、準備!」
フィルードの声が轟く。
「私が“放て”と言うまで、誰も撃つな!」
――狩りの時間だ。




