表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第三巻 商人から支配者へ① ――守るための取引と暴力

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

95/288

第95章 夜を支配する者

数名の狼のような兵士が彼をしっかりと押さえつけ、ユリアンはいじるようにナイフを回しながら、楽しげな笑みを浮かべていた。

「ゼール様、申し訳ありませんね。私たちもこんなことをしたくはないんですよ。でも、あなたの愚かな父上が事態をここまで見苦しくしたんです。ご安心を──私はこう見えても経験豊富です。だから、そんなに痛くはしませんよ。それに、あなたはもう“貴族様”じゃない。ただの捕らえられた強盗団の頭領です。……もし自分をまだ貴族だと名乗りたいなら、伯爵様の前で“自分が強盗団を率いていた”と認める覚悟が要りますけどね。」

冷たい言葉とともに、ユリアンは刀を振り下ろした。

肉を断つ鈍い音。次の瞬間、ゼールの小指は切り落とされ、彼は豚を屠るような悲鳴を上げた。

切り落とされた指はほどなく、一通の手紙とともにヴァールのもとへ届けられた。

しばらく呆然としていた彼は、やがて怒りに震え、叫び声を上げた。

「……あああああっ!この下郎が!よくもこのヴァール・フレッチャーを侮辱したな!この手で捕まえて、生きたまま皮を剥いでやる! すぐに兵を集めろ、今すぐだ!この忌まわしい木の砦を粉々にしてやる!」

フィルードの決断――それは完全にこの子爵を狂気へと追い込んだ。

その夜、ヴァールは食事もそこそこに怒りのまま攻城戦を開始した。

しかし、結果は惨憺たるものだった。日没までに百人以上の犠牲を出し、砦はびくともしなかった。

そのころ、フィルードは指揮所から離れ、石工たちと共に山頂へ登る新たな経路を探っていた。

険しい山壁に鑿を打ち込みながら、彼は静かに笑う。

(俺がこうして動いている間にも、相手は焦りで自滅していく。愚かな貴族ほど扱いやすいものはないな……)

ようやく山頂にたどり着くと、彼は夜風を浴びながら峡谷全体を見下ろした。

敵の陣営、食料庫、馬小屋、兵舎――すべてが手に取るように見える。

フィルードは羊皮紙を広げ、戦場の見取り図を描き込んでいった。

陣に戻ると、彼はチェリルを呼び出し、簡単な食事を取りながら作戦を打ち明けた。

「今夜、夜襲を仕掛ける。……何か意見はあるか?」

チェリルは肉を噛みちぎりながら、口角を上げた。

「団長、ようやくその時が来ましたね。前に買った奴隷たちの中から、夜目の利く者を選抜しておきました。最近は訓練も続けていて、かなりまとまりが出てきています。今なら、かつての私たち以上に動けるはずです。」

「ふむ……何人だ?」

「百人ほどです。うまく動かせば、あの貴族どもに“夜の恐怖”を思い知らせてやれます。」

「よし。出発は夜明け前だ。兵には直前まで知らせるな。……密告を防ぐためだ。」

そう言いながら、フィルードは懐から簡略な地図を取り出し、指で三つの丸をなぞった。

「まず、食料庫。次に馬小屋。最後に農奴兵の野営地。この順番だ。火を放ち、混乱を拡大しろ。馬は連れて行けぬが、馬糧に火をつけて逃げ惑わせればいい。農奴兵には恐怖を刻み込め。殺す必要はない、叫び声を上げさせろ。それで十分だ。終わったらすぐ撤退しろ、追撃は不要だ。」

チェリルはその冷徹な戦略に一瞬息を呑んだ。

(……やはりこの人は、ただの戦士じゃない。計算と胆力、その両方を持つ“支配者”だ)

夜明け前、空がわずかに白む頃。

百名の影が闇に紛れ、敵陣を大きく迂回して忍び寄る。

チェリルは周囲を観察し、見張りの一人が舟を漕ぐように居眠りしているのを確認した。

手を振ると、八人の熟練傭兵が静かに動き出す。

濡れ布で口を塞ぎ、腕を押さえ、刃が閃く――。

首筋を深く断ち切られた兵士は、声を上げる間もなく崩れ落ちた。

鮮血が夜風に散る中、誰も表情を変えない。

彼らにとって、命を奪うことはただの“作業”に過ぎなかった。

哨兵を六人仕留めたのち、一行は野営地の近くまでたどり着く。

「……よし。突入後は焚き火を消せ。余計な戦いは避けろ。」

チェリルは低く指示を出し、背の大剣を引き抜いた。

その刃が月光を反射し、一瞬だけ銀色に輝いた。

闇の中で、彼らは影のように動く。

焚き火が次々と消され、まもなく巡回の十人組と鉢合わせた。

「誰だ!? そこにいるのは――」

言葉が終わる前に、鋭い閃光。首筋から血飛沫が弧を描いた。

十人の兵が一瞬で倒れ、悲鳴が野営地に響く。

もう静かにする理由はない。

「行けぇぇっ!」

怒号とともに、百人の影が突入した。

最初の目標、食料庫。

守備の鉄甲兵が数十人いたが、恐怖で動きが鈍い。

「マイトン、あいつらを押さえろ! 残りは火を放て!」

命令と同時に、松明が宙を舞い、穀物の山に突き刺さった。

火が走り、瞬く間に炎が燃え上がる。

敵兵は混乱に陥り、抵抗もままならない。

彼らを蹴散らすと、チェリルたちは次の目標へ向かった。

干し草の山に火を放つと、燃え盛る炎に照らされ、混乱はさらに拡大する。

あちこちで悲鳴と怒号が交錯し、統率は完全に崩壊した。

(ふふ、団長の読み通りだ。これで明日の戦いは……勝ったも同然だ)

炎が夜空を焦がし、敵陣の混乱は頂点に達した。

その光景を遠くの砦から見つめながら、フィルードは静かに笑う。

「いい火だ……夜は俺たちのものだ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ