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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第三巻 商人から支配者へ① ――守るための取引と暴力

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第93章 戦場を支配する者

「向こうには何人いる?名乗りは上げたか?」

 フィルードは眉をひそめて尋ねた。

 ケビンはすぐに首を振る。「どこの勢力かは言っていません。人数は千人以上です! それに、中には鉄甲を身に着けた兵士も少なくありません!」

 ――鉄甲兵を持つ規模……あの辺りの領地で、そんな軍備を整えられる貴族は限られている。

 心の中でおおよそ察しをつけると、フィルードは静かに言った。

「行って見てみよう。」

 すぐに二人は木製の砦の上に到着した。見上げた視界の先――峡谷の外、わずか二百メートルの地点に、大軍が整然と並んでいた。

 ざっと見積もっても千五百は超えている。

 隊列の最前列には二百人以上の鉄甲兵。その背後には鉄飾り付きの革鎧を着た精鋭が四百以上。残りは粗末な革鎧の農奴兵。

 まるで「見せつける」ための軍勢だった。

「お前たちは何者だ? 王国の特許を得た開拓領を公然と包囲するとは、正気か!?」

 フィルードの声が谷間に響く。

 全身鉄甲の頭領は、あざ笑うように大声で返した。

「はははっ! 木を削って火を焚く程度の者が、ずいぶんと大きな口を叩くではないか。包囲された今、お前に何ができる?」

 ――何ができるか、だと?

 フィルードの口元に冷笑が浮かんだ。

「お前は誰かのために来たのだろう。だが、もし私が“ある事実”を外部に公表したら……あるお方の名声に傷がつくのではないかな?」

 先頭の貴族はしばし沈黙した後、鼻で笑った。

「若造、そんなことは皆わかっている。言おうが言うまいが、大した違いはない。今すぐあの者たちを引き渡し、さらに三千金貨を差し出せば、この件は水に流そう。さもなくば――貴様ら一人残らず皆殺しだ!」

 フィルードも同じように笑った。

「攻め込んでから言ってみろ。ただし覚えておけ――お前が私の領地に手を出した瞬間、今度はお前の領地が地獄を見る番だ。

 伯爵様には報告させてもらう。公正を求める気はない。ただ、お前を潰す“大義名分”があればそれでいい。」

 相手の顔に、一瞬だけ迷いの影が浮かんだ。

 だがすぐに怒声が響く。「伐採を始めろ!」

 兵たちは峡谷の周囲で木を切り始めた。攻城兵器を作るつもりだ。

 フィルードもすぐに兵を動員した。

 ――この程度の木製砦を破るには、彼らの力では足りない。

 彼はまず戦闘経験のない奴隷たちを前線に立たせ、百名ほどの古参兵に監視を命じた。

 森で伐採された丸太は川沿いを通じて砦へと運ばれ、正午には敵が簡易な雲梯を完成させた。

 昼食後、谷の入口へと進軍開始。

 城壁上の奴隷兵たちは初陣の恐怖で体を震わせていた。

 敵が百メートルほどまで接近した瞬間――

「撃てぇっ!」

 百人以上の弓兵が一斉に弦を鳴らした。矢が雨のように降り注ぎ、空気を裂く音が響く。

 こちら側のわずか三十名の弓兵もすぐに反撃を開始。

 ――数では劣るが、高所の利はある。

 矢が交差し、死が舞う。

 フィルードは敵陣を睨みつけながら、冷静に動きを観察していた。

 その時、後方にいた貴族が素早く馬を降り、高台に駆け上がった。

 距離およそ九十メートル。

 彼は弓を構え、一瞬で矢を放つ。

 矢は城壁上の老傭兵の胸を貫いた。

 ――速い! まるで超凡者の域だ。

 フィルードが反応するより早く、老傭兵は血を吐いて崩れ落ちた。

「……っ!」

 フィルードは歯を食いしばり、自ら弓を手に取る。

 「ヒュッ」――矢が風を切って飛んだ。

 狙うはあの貴族弓兵。

 だが相手は冷笑を浮かべ、腕の手盾を首元に上げて防いだ。

 鋭い衝撃音。

 ――貫けない!? 魔力を込め、徹甲矢じりを使ったというのに。

 舌打ちをしつつ、フィルードは再射を止めた。

 防げるなら、三度でも防ぐだろう。無駄撃ちは禁物だ。

「ケビン!」

 フィルードが怒声を上げる。

「通訳を連れて後方の森へ行け! 豚頭族に我々が包囲されていることを伝えろ。

 そして聞け――城壁に上がり、敵を討つ勇気ある者がいれば、伐採隊の小隊長に任命し、待遇を上げる。さらに伴侶を与えると!」

 ケビンは力強く頷き、峡谷の奥へと駆け出した。

 ――時間を稼げば、援軍が来る。問題はそれまで耐えきれるかどうか。

 その時、谷の入口から攻城部隊が突進してきた。

 「投槍を放てぇ!」

 千人隊長の号令が飛び、無数の槍が雨のように降り注ぐ。

 上からの投射。避けようもなく、農奴兵たちは次々に倒れ、雲梯がドスンと音を立てて落下した。

 ――まるで麦を刈るようだ。

 戦死者が増えるたび、後方の貴族たちの顔に焦りが滲む。

「弓兵を前進させろ! 奴らを黙らせろ! このままでは農奴兵が尽きるぞ!」

 命令と同時に、敵弓兵が四十メートルまで前進。

 矢をつがえ、城壁の上に一斉射。

 フィルードはすぐに叫んだ。

「全ての奴隷兵は退け! 長槍兵は下がれ! 鉄甲兵、前へ出ろ! 盾を高く掲げて防御!」

 無数の矢がカンカンと音を立てて弾かれる。

 やがて敵の射撃が止み、静寂が訪れた。

 ――来る。次の波が。

 雲梯が再び立てかけられ、精鋭歩兵たちが登り始めた。

 「鉄甲兵、後退して待機! 長槍兵、構え!」

 フィルードの号令と共に、奴隷兵たちが丸太を掴んで投げ落とす。

 「うあああっ!」

 丸太が木梯を叩き、兵士たちをまとめて弾き落とした。

 ――だが矢が飛ぶ。避けきれない。数人の奴隷兵が矢に貫かれて倒れた。

怒りに燃えたフィルードは軟弓を掴み、矢を次々と放つ。

次々と敵兵が倒れ、十名を射抜いたところで、遠くの超凡弓兵が再び彼を狙う。「チッ……!」

フィルードは慌てて全身の鉄甲に着替えた。

だが重い。動きが鈍る。

――それでも、退く気はない。

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