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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第三巻 商人から支配者へ① ――守るための取引と暴力

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第92章 弩床と支配の手腕

「……言ったはずだよな。口で答えるより、痛みのほうが正直だって」

そう言って、フィルードは竹串をもう一本突き刺した。

赤ひげの首領はすぐさま悲鳴を上げ、全身を震わせた。

「ああ!や、やめてくれ!俺の父は子爵だ! 俺自身も男爵だ! 何でも望むものをやる! 命だけは……!」

フィルードはわざと手を止め、驚いたふりをして目を細める。

「なんだ、男爵様だったのか? それを早く言ってくれればよかったのに」

ゆっくりと振り返り、ユリアンに命じる。

「ユリアン、お前はなんて無礼なんだ。男爵様の手をこんなにも刺して……。

さっさとその汚い手をどけて、きれいな水を持ってきて男爵様の手を洗って差し上げろ」

「……了解です、団長」

ユリアンは鼻をこすり、心外そうな顔をしながらも従った。

(貴族だろうが盗賊だろうが、命乞いの顔は同じだな。力の差を理解した瞬間、人はこうも素直になる)

赤ひげの男爵はその場に縮こまり、まるで羽をむしられたウズラのように動けなくなっていた。

――その後、帰路につく一行の周囲を偵察していた騎兵たちは、誰ひとりとして近づこうとはしなかった。

彼らは先の光景を目撃していた。赤ひげの一党が、まるで紙人形のように壊滅させられた場面を。

今回は金貨を大量に得た帰路。荷物は軽く、足取りは実に軽快だった。

歩兵による襲撃もなく、五日後には無事領地へ帰還した。

領地の外では、すでに馬隊と豚頭族の奴隷たちが忙しなく動き回っていた。

監督官の怒声の下、峡谷の奥から木板が次々と運び出されていく。

切り分けられた板を川に投げ入れると、流れに乗って谷の出口まで流れ着く仕組みだ。

外では商人たちがそれを拾い上げ、荷車に積んでいく。

小商人たちは、迫りくる傭兵団の姿を見て緊張の色を隠せない。

「みなさん、そんなに構えないでください」

フィルードは微笑んだ。「私はこの開拓領の見習い領主であり、ブラックスウォーター傭兵団の団長です。

商売に来てくださって感謝します。我が領地では今、食料が不足していてね。

一車運んでくれれば十銀貨の利益をお渡ししよう。もちろん、専業にするほどの儲けではないけど……。

通りがかりのついでに持ってきてくれるだけで十分ありがたい」

商人たちは顔を見合わせ、愛想笑いを浮かべた。

(十銀貨……。悪くはないが、命を懸けるほどじゃないな)

そんな心の声が読めてしまうほど、彼の目は鋭かった。

(まあいい。最初から期待していない。いずれこの流通を掌握するのは俺だ)

フィルードは内心で薄く笑い、彼らの反応を無視した。

結局のところ、食料確保は自前で動くしかない。

彼の領地の産業構造はまだ「ついで」の取引で成り立っていた。

穀物を挽きに来た者が板を買い、板を売るついでに食料を得る──そんな循環だ。

だが、時間が経つにつれて木板の価格は下がり続けた。

フィルードもそれに合わせて値下げを進め、最終的には一枚一銅貨でも構わないと決めていた。

(その代わり、周辺の木材業者は全て潰す。経済戦は力の戦いと同じだ)

隊列は堂々と領地へと進み、ケビンが駆け寄ってくる。

「領主様、食料が底を突きそうです! 我々の消費量は毎日三千ポンド、月に九万を超えます!

商隊を組織して大量に購入する必要があります!」

「わかった」

フィルードは短く返した。

ケビンは続ける。「すでにジャッカル族に毒樫の実を集めるよう指示しました。

また、山の頂上には大量の木製穀倉を建設済みです。

木板は倉庫に入りきらぬほど積み上がり、私は生産を一時停止させました。

さらに、獣人の一部を割り当てて小屋建設を進めています」

「よくやった。数日中に俺がダービー城へ行って食料を買い付ける」

そう言って彼は、まっすぐシャルドゥンの工房へ向かった。

シャルドゥンは巨大な弩床をいじっていた。

その傍らには、試作品らしき数台の弩床が並ぶ。

前世で見た「三弓弩床」の設計を伝えたばかりだったが、完成度はすでに高い。

フィルードが入ると、シャルドゥンは無言で頷いた。それが彼流の敬意の表現だった。

「どうだ? 手応えはあったか」

「製作自体は難しくありません。ただ、威力を限界まで引き上げている途中です」

そう言って彼は並んだ弩床を示す。

「この中で最も威力が高いものは、二人同時操作で最大出力が出ます。

一人用はやや威力が落ちますが、それでも百〜百五十メートル先まで致命傷を与えられるはずです」

フィルードはうなずく。(百五十か……悪くない。だが、俺が狙う相手にはまだ足りない)

「君の弩床で魔獣を狩るつもりだ」

その言葉に、シャルドゥンの目が見開かれる。

「……魔獣を、ですか?」

「ああ。五匹ほどだ」

軽く言い放つその声に、工房の空気が一瞬止まった。

「それは……非常に危険です。やめたほうが……」

「心配はいらない。奴らの巣は盆地の中、絶壁に囲まれている。地の利はこちらにある」

(必要なのは恐怖心を捨てること。それが、強者と凡人を分ける一線だ)

シャルドゥンはやがて頷き、「ならば五十台ほど製造を」と進言した。

必要なのは百五十張の良質な弓だという。領地には材料が足りない。

「それも俺が用意する。数日後、ダービー城で買い付ける」

フィルードは迷いなく言い切った。

「矢尻は最高の鉄を使い、破甲力を最大限に。あの魔獣の皮膚は常識外れの硬さだ」

「了解しました」

「頼んだぞ、シャルドゥン」

技術談義を交わした後、フィルードは静かにその場を後にした。

翌朝、裏で糸を引く子爵に連絡を取ろうとした矢先――

ケビンが血相を変えて駆け込んでくる。

「団長様! 外に軍隊が! 谷の入口を包囲しています! 向こうの指揮官があなたとの会談を要求しています!」

(……なるほど。ようやく“次の相手”が姿を見せたか)

フィルードはわずかに笑い、立ち上がった。

その瞳には、戦場に立つ者特有の冷たい光が宿っていた。

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