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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第三巻 商人から支配者へ① ――守るための取引と暴力

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第91章 「有言実行」の代償を思い知れ

 フィルードは冷ややかに息を吐いた。

「俺の忍耐が完全に尽きる前に――消えろ。さもないと、二度と立ち去ることはできなくなるぞ。……信じるか?」

 その声には、凍りつくような静けさと殺気が混じっていた。

 赤ひげの山賊は鼻で笑い、あざけるように言った。

「ハッ、正面からやり合っても勝てねぇのは認めてやるよ。でもな、俺たちが逃げたいと思えば、お前らの貧弱な騎兵じゃ追いつけねぇだろ? 大人しく金を出せ。そうすりゃ、商隊を疲弊させずに済むんだぜ?」

(ふむ、交渉のつもりか? この俺に?)

 フィルードの口元がゆるく歪んだ。

 次の瞬間、彼の手には特製の魔力弓が握られていた。

「ヒュッ」

 矢は稲妻のように空を裂き、150メートル離れた山賊の馬の首筋を正確に射抜いた。

 「ブスッ」

 悲鳴を上げた軍馬は、その場で高く跳ね上がり、赤ひげを地面に叩きつけた。

 フィルードは淡々と手を振る。

「前進。見習い傭兵は十夫長の指示に従え。」

 その号令に応じ、兵たちはまるで機械の歯車のように整然と動き出す。

 鉄鎧をまとった百余の兵士が前に出るたび、大地がわずかに震えた。

(見ろ、この士気。この統率。これを“傭兵”と呼ぶのは、もはや侮辱だな)

 赤ひげは馬から転げ落ちながらも、すぐに別の馬に飛び乗った。

 だが――またしてもフィルードの弓がうなりを上げた。

「ヒュッ!」

 二射目の矢が馬の首を貫き、馬は再び倒れる。

 距離はすでに百メートルを切っていた。

(逃げ道を塞ぐのに十分な距離だ。さて、どう料理してやるか)

 フィルードは声を張り上げた。

「弓兵は両手武器に持ち替え! 刀盾兵とともに突撃、首領を生け捕りにしろ!」

 ライドンが「了解ッ!」と吠え、全身の鉄鎧を鳴らしながら最前列へと躍り出た。

 その巨体と斧の振り抜きが空気を裂くたび、後方の傭兵たちは歓声を上げる。

「団長様が見てるぞ! 一歩も引くな!」

 戦場の空気が熱を帯びる。

 赤ひげの首領は焦りに満ち、歯ぎしりをした。

「くそっ……なんでこんな怪物どもが……!」

 三頭目の馬に跨ろうとした瞬間、またしても矢が飛ぶ。

 「ブスッ!」

 馬が崩れ、彼は叫び声を上げながら転げ落ちた。

「卑怯な真似をしやがってぇぇ!!」

 怒声とともに剣を構えたが、そこへライドンの巨大な斧がうなりを上げる。

「死ねぇぇえええッ!」

 金属の衝突音が轟いた。

 赤ひげの剣は受け止めたものの、圧力に耐えきれず半歩、二歩と押し下げられていく。

(悪くない力だ……だが、“本物”の兵士と戦ったことがないな)

 赤ひげは魔力を込めた一撃を振り下ろした。

 しかしライドンの全身鎧はドワーフ製――刃は弾かれ、浅く傷が刻まれただけ。

「……終わりだ」

 ライドンの一撃が鎧の胸を潰す。

 赤ひげは数歩後退し、息を呑む。

 そこへフィルードの号令が飛ぶ。

「包囲しろ! 一人たりとも逃がすな!」

 包囲網が完成する中、赤ひげは最後の気力で叫んだ。

「全騎兵、撤退しろ! 俺のことはいい、執事に伝えろ……俺は何も言わねぇと!」

(あぁ……まだ部下思いか。だが、だからこそ救えん)

 ライドンが前に出て、渾身の一撃を叩きつける。

「ドゴッ!」

 赤ひげの身体は宙を舞い、地面に叩きつけられた。

「……動くな。その首、刈り取るぞ」

 ライドンの斧が首筋に触れた瞬間、彼の全身が震えた。

 すでに逃げた騎兵はわずか七、八人。

 戦場の勝敗は決していた。

 フィルードはゆっくりと歩み寄り、笑みを浮かべた。

「な? 俺は言っただろう。“今のうちに立ち去れ”と。

 もう遅いんだよ。今さら何を言っても無駄だ。」

「……卑怯者め。男なら正面から……」

 その言葉を聞いて、フィルードは軽く笑った。

「お前の言う“男らしさ”なんて、俺の前じゃ通用しない。

 俺は結果で語る男だ。――“有言実行”とは、そういうことだ。」

 そう言って、彼は淡々と拷問の準備を始めた。

 竹串を一本ずつ、山賊の爪の間へ。

 馬車の揺れが手元を狂わせ、狙いが定まらない。だが、構わない。

「ぐぁあああああっ!! 話す!話すからやめてくれぇ!」

 フィルードは小さく息を吐き、つまらなそうに言った。

「期待外れだな。せめて片手分くらいは我慢してみせろよ。

 “強者”を名乗るなら、それくらいの根性を見せろ。」

 赤ひげは泣き叫び、泥のように崩れ落ちた。

 フィルードは鼻で笑い、馬車の外へと視線を向けた。

(脆い。これが北境の“脅威”か……? 笑わせるな)

 そして彼は、次の獲物を狙うように低く呟いた。

「さて――次はどんな“試練”が待っている?」

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