表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第一卷 傭兵から商人へ① ――異世界サバイバルと最初の血

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/286

第9章 戦争の終わり

フェリエルは、地面に転がっている数枚の革鎧を見回すと、ゆっくりと満足げに頷いた。

そして状態がそこそこ良い一枚を拾い上げ、フィルードに差し出す。

「これはお前のものだ。」

渡されたのが一番ボロボロの鎧ではないことを知った瞬間、フィルードの胸に安堵が広がった。

(……よし、あの五枚の銅フィニーは無駄じゃなかった!)

彼は嬉々として鎧を受け取り、泥や血に汚れているのも気にせず、その場で素早く身につけた。

命に代えられるものなど、この世に存在しない――そう信じていたからだ。

フェリエルに礼を述べたあと、フィルードはさらに言葉を続ける。

「慈悲深きフェリエル執事。あなたの領地には、弓兵の予備が二人ほど残っていませんか? もし使い手がいないのなら……その弓、私に売っていただけませんか? ただ、今は資金が足りません。せいぜい五十枚の銅フィニーが限界です。これを頭金にして、残りは分割で返済します。それに、次回の戦闘にも必ず参戦し、命を賭けて働きます! そうすれば借金もすぐに返せるはずです!」

彼の必死な申し出に、フェリエルの口元には最初こそ笑みが浮かんだ。

だが「掛け売り」という言葉を耳にした瞬間、その表情がぴたりと固まる。

長い沈黙のあと、彼はフィルードの弓術を思い出し、やがて重々しく頷いた。

「……分かった。お前の条件を受け入れよう。ただし――完済までの間、毎月四枚の銅フィニーを利息として徴収する。たとえ一か月に満たなくても、一か月分として計算する。それが条件だ。」

「……!」

思ったより厳しい条件だった。

だがフィルードはほとんど迷うことなく、すぐにうなずいた。

(ふん、命を賭ける傭兵が、闇金の利息ごときに怯んでどうする!)

そう心で吐き捨て、彼は笑みを浮かべた。

――その直後だった。

「……あれは……?」

フェリエルが目を細めた先に、騎士ウォーカーの姿が現れた。

彼の従者の姿はなく、鎧は損傷し、片腕を押さえて血を流している。

さらにその背後からは、フェイン騎士と従者が怒号を上げながら迫ってくる。

「ウォーカー! この臆病者め! 小僧! 逃げるな、俺と決闘しろ! 貴様の腸をぶちまけてやる!」

その怒声が戦場に響く。

前を逃げるウォーカーの顔は、豚の肝のように真っ赤に染まり、屈辱に歯を食いしばっていた。

しかし反論もできず、ただひたすら鞭を振るい、馬を走らせるしかなかった。

「……っ! くそっ、本当に足手まといだ……!」

フィルードは冷や汗を流した。

(ただでさえ下手なのに、わざわざ前に出て状況をひっくり返しやがって……!)

周囲を警戒していた農兵たちも、すぐに槍を構えて領主を守る陣形を整える。

フィルードは素早く、手に入れたばかりの弓を手に取った。

それは八十ポンドを超える軍用弓。

木材も加工も、彼が使っていた猟弓とは比べ物にならない。

だが――虚弱なこの身体では、どうしても半弓までしか引けなかった。

ウォーカー騎士が百メートルに迫った瞬間、フィルードはその背後のフェイン騎士に狙いを定める。

だが、弦を引き絞ろうとした瞬間――。

「やめろ、フィルード!」

フェリエルの叫びが飛んだ。

「貴族を射殺すなど紳士にあるまじき行為! 重罪で裁かれるぞ! 貴族同士の戦いでも、命を奪ってはならん!」

「……な、なんだそれは……!」

理不尽なルールに、フィルードは思わず唖然とする。

(じゃあ俺たちは、貴族に殺されるのを黙って待てってことかよ!?)

だが彼はフェリエルの忠告を受け入れ、渋々弓を下ろした。

その後、ウォーカー騎士は歩兵の隊列に合流。

しかしフェイン騎士は退かず、周囲をぐるぐると回り続け、挑発するように睨みを利かせていた。

「……あの馬……」

フィルードの喉が鳴った。

従者が乗る馬は明らかに高価な代物。三分の一でも手に入れば、莫大な利益になるだろう。

「フェリエル執事……フェイン騎士を狙わず、従者だけなら攻撃してもいいですか?」

答えを待つ前に、二人の農兵弓兵がすでに矢を射っていた。

だが彼らの腕前では、馬上を疾走する従者に当てられるはずもない。

(……なら、俺がやるしかない!)

フィルードはすぐに矢をつがえ、従者の走行ルートを予測して弓を引いた。

――ヒュッ!

矢は空を裂いたが、惜しくも従者の背をかすめて外れた。

それを見たフェイン騎士は、たちまち表情を変えた。

「……っ! 腕の立つ弓兵がいる!」

危険を察した彼はすぐに馬の向きを変え、撤退の合図を出す。

だがフィルードは追撃をやめなかった。

再び弓を引き、息を殺して狙いを定める。

――ヒュッ!

鋭い音と共に矢が放たれ、ついに従者の背中を貫いた。

悲鳴を上げた従者は馬から転げ落ちる。

「……っ!」

フェリエルは呆然とその光景を見つめ、周囲からは大歓声が湧き起こった。

ウォーカー騎士も興奮を隠せず、叫ぶ。

「よくやった、若者! 必ず厚く褒美を取らせよう!」

顔を豚の肝のように染めたのは、今度はフェイン騎士の番だった。

従者を見捨て、彼は馬を駆けて撤退していく。

フィルードは震える手で弓を握りしめた。

(やった……本当にやったぞ……! 従者を落馬させるなんて、まるで夢みたいだ!)

こうして戦いの行方は決した。

ウォーカー騎士はフェインの荘園を一瞥した。

そこには老若男女が木の柵を守っていたが、落とすのは容易ではない。

農兵の傭兵たちに突撃を命じれば、恐らく全員逃げ出すだろう。

貧しい農奴から得られるものもなく、ウォーカーは即座に撤退を命じた。

戦勝ののち、領地に戻ったウォーカーはまず傭兵たちに報酬を支払った。

今回は勝利に気を良くしたのか、遅延は一切なかった。

最後に呼ばれたのは――フィルードだった。

彼は四人の敵を戦闘不能にし、その中には騎士の従者すら含まれていた。

功績は抜きん出ており、戦利品も三つ――鉄を嵌め込んだ革鎧、一頭の馬、片手剣。

革鎧は中古でも十五銀貨は下らず、剣も十五銀貨以上。

馬に至っては八十銀貨、帝国金貨三枚に匹敵する。

その三分の一が彼の取り分――およそ四十銀貨。平民にとっては莫大な財産だった。

さらにウォーカーは、彼を晩餐に招待する。

世の中を見たいと願っていたフィルードは、もちろん快諾した。

だが――。

彼が目にしたのは、想像とはまるで違う光景だった。

若い令嬢など一人もいない。料理を運んできたのは、白髪の混じった老女中ばかり。

「……これが……貴族の晩餐……?」

胸に広がったのは、栄光ではなく、失望だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ