第88章 闇夜に閃く矢―豚頭族を狩る
命令を受けた数名の千夫長は素早く反応し、フィルードはいつものように冷静沈着な表情で、馬小屋の中に潜む獣人たちを次々と射殺していった。
矢が放たれるたび、短い悲鳴が響く。九人目を仕留めた頃には、残りの豚頭族たちは完全に怯え、頭を出す勇気すら失っていた。
「ブルース、突入だ」
落ち着いた声で命じると、ブルースは即座に部下を率いて突撃し、馬小屋内の獣人を完全に殲滅した。
――一瞬のうちに、獣人たちの片腕ともいえる戦力は潰えたのだ。
「マイク、お前は騎兵を率いて、この馬をすべて遠くへ避難させろ。ブルースはユリアンの側面を守れ。俺たちは前進する!」
「ぬるいべい(同盟軍)はもう持ちこたえられない、急ぐぞ!」
命令が飛び、千夫長たちはすぐさま行動を開始する。
兵士たちは緊張感を保ちつつも、慣れた足取りで戦場の中心へと進んでいった。
連合軍の兵士たちは、先ほどまでの血気に逸っていた雰囲気を失い、冷静さを取り戻していた。
しかし、目の前のボア・マン(豚頭族)の恐ろしさに、誰もが本能的な恐怖を覚え始めていた。
――だが、俺は違う。
フィルードは静かに息を整えながら、内心で笑う。
(恐怖?それは弱者のものだ。俺の矢は、恐怖すら貫く。)
名目上の連合軍首領である青年は、全身鎧をまとい鋭い両手剣を構え、ボア・マンの首領と激しく渡り合っていた。
その瞬間、フィルードは気づく――ボア・マンの手元に魔力が閃き、その力が一気に膨れ上がったのだ。
「やれやれ……強化魔法か。面倒な奴だ。」
巨大な鉄斧が唸りを上げ、青年は吹き飛ばされた。
彼もまた超凡者だが、肉体の差は埋めがたい。
ボア・マンの圧倒的な膂力に、青年の動きは次第に鈍っていく。
「ここで終わらせるわけにはいかない。」
フィルードは弓を引き絞り、冷静に狙いを定めた。
しかし――放たれた矢を、ボア・マンは後退してかわす。
「反応速度も化け物か……面白い。」
その隙に青年は転がりながら立ち上がり、ボア・マンの周囲を回り込みながら応戦を続ける。
だが、それは時間稼ぎに過ぎなかった。
一方、もう一人のボア・マンの首領は巨漢の人間の超凡者と激突していた。
互角――いや、むしろ人間側がやや優勢か。
(あいつ、やるな……あの筋肉、俺といい勝負だ。)
フィルードは小さく笑うと、すぐさま次の判断を下した。
「早く一人を倒さなきゃ、青年の首が飛ぶな。」
軍隊は前進を続け、時折前方の獣人を槍で突き倒していく。
戦場の喧噪の中でも、フィルードの視線は一点の迷いもなく標的を追っていた。
「全連合軍兵、突入を止めろ! 俺たちの隊列の前には来るな!」
千夫長の怒号が響く。
不用意に突っ込もうとした連合軍兵は渋々両脇に散り、フィルードの軍勢は整然と進軍を続けた。
やがて、主要な交戦区域に突入する。
前列の槍兵たちは緊密な連携で、次々と獣人を串刺しにしていく。
挟撃を受けた獣人たちは混乱し、次々と崩れ落ちた。
フィルードの矢が唸りを上げるたび、敵の流れが止まる。
そして距離が百メートルを切った時、フィルードは矢を交換した。
「さて……ここからは本番だ。」
青年はすでに汗だくで、追い詰められていた。
「間に合うか……!」
焦燥を押し殺し、フィルードは魔力を矢に注ぎ込む。
狙いは首筋ではなく――足首。
「急所は守るが、足はどうかな?」
矢が空気を切り裂き、ボア・マンの足首に突き刺さった。
悲鳴が上がり、隣の巨漢の超凡者がすかさず長斧を振り下ろす。
「いい連携だ。」
骨が砕ける音が響き、ボア・マンは倒れ込んだ。
「この勇士よ! あの青年を助けろ、奴は限界だ!」
フィルードの叫びに、巨漢は即座に反応し突進する。
青年は逃げ回り、ボア・マンは狂ったように追う。
そこへ、巨漢が割って入った。
怒号と共に鉄斧がぶつかり合う。
魔力と魔力の衝突が爆ぜる中、フィルードはじっと矢をつがえていた。
(もう少し……振り上げた瞬間だ。)
ボア・マンが斧を振り上げた――その刹那。
フィルードの矢が閃き、首筋を正確に貫いた。
「ドスッ!」
その体は一瞬硬直し、巨漢が渾身の一撃を叩き込む。
「ドシン!」
鎧ごと肩甲骨を砕かれ、ボア・マンは倒れ伏した。
「……終わりだ。」
フィルードは静かに弓を下ろす。
周囲の兵たちは歓声を上げ、残る獣人たちは総崩れとなった。
豚頭族の首領二人が討たれたことで、戦いの流れは完全に決した。
最後の獣人たちが倒れた頃、青年が駆け寄ってきた。
息を切らしながらも、彼は興奮した様子で言った。
「フィルード団長、あなたに助けられました!
私はウェイリン・コールと申します、開拓騎士です。
この件は父――リオウ・コール子爵にも必ず報告します。
きっとあなたとの面会を心待ちにしているでしょう!」
フィルードは軽く頷き、わずかに口角を上げた。
(リオウ・コール……名前は聞いたことがある。だが今はそれより――)
血に染まった戦場を見渡し、静かに思う。
(これでまた、一歩“領主”への道に近づいたな。)
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