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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第三巻 商人から支配者へ① ――守るための取引と暴力

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第87章 夜を駆ける ― 闇を裂く逆襲の狼煙!

「よし! 一千金貨も惜しまないんだ、この程度の端金がなんだ! お前の言う通りにしよう!」

最も勢力のある青年が拳を握り、断言する。その目はもう迷いを捨てていた。

この決断が、自分たちの命運を左右することを理解しているからだ。

他の数名の勲爵士たちは顔を見合わせ、わずかにためらいを見せたが、やがて全員が頷いた。

――覚悟はできた。もう後戻りはできない。

チェリルは前に進み出て、兵士たちの集団の前に立った。

冷えた夜風が、彼のマントを揺らす。

その瞳には、燃えるような意志が宿っていた。

「人は、一生のうちに階級から脱する機会など、そう多くはない。だが、勇気ある者だけが、その扉を開けることができる!」

一瞬の静寂。

そして――轟くような歓声が沸き起こった!

「うおおおおおおおおっ!!!」

「やってやるぞ!!」

「俺たちは奴隷で終わらねぇ!!」

チェリルは手を上げ、彼らを静めた。

その声は不思議とよく通る。

「志願者を募る。行きたくない者は申し出ても構わない。命を懸ける覚悟のない者は、ここで去るがいい。」

次の瞬間、76名のうち15名の兵士が、おずおずと前に出た。

恐怖と迷いが、彼らの背中に影を落としている。

「……一生奴隷でいい。死ぬのは嫌だ」

彼らはそう呟き、闇の中に消えた。

チェリルは一瞥しただけで、興味を失った。

(臆病者に用はない。生き残る価値もない。)

残った61名の兵士たちの目には、強い光が宿っていた。

――ここで死んでもいい。だが、奴隷としては終わらない。

その決意が、夜気を震わせる。

数名の勲爵士たちは最高の武器を取り出し、兵士たちに与えた。

ほとんどが半身の鉄甲をまとい、かつてない精鋭部隊が形成される。

チェリルはさらに命じた。

「全員、匕首か短刀を携帯せよ。夜襲では命綱となる。」

やがて夜明けが近づく。

野営地の全ての水が集められ、兵たちは静かに喉を潤した。

その水の味は、まるで最後の晩餐のようだった。

(……この夜で、俺たちの運命が決まる。)

チェリルは心の中で呟き、両手剣の柄を強く握る。

そして――彼は号令を下した。

「出発だ。闇を切り裂け!」

61名の精鋭が、音もなく山を下る。

だが、その動きはすぐに獣人たちに気付かれた。

「豚頭族がこちらに気づいたか……上等だ」

チェリルは口角を吊り上げ、笑った。

「この豚頭族にかまっているな! そのまま中央に突っ込め! 奴らの寝床を地獄に変える!」

「兄弟たち、巻き返しの好機は今だ! 突撃ッ!!」

轟音と共に奴隷兵たちは野営地へ突入。

チェリルはその背後に続き、夜闇の中で両手剣を振るう。

刃が閃くたび、血が飛沫のように舞った。

「起きろ! 人間どもが――」

叫ぶ間もなく、豚頭族が一体、斬り伏せられた。

眠っていた者、武器を手にしていない者から次々と切り殺されていく。

(これが……人間の怒りだ!)

チェリルは冷笑を浮かべ、敵陣の奥を睨んだ。

「油断した報いを受けろ、獣ども!」

目覚めたボア・マンが怒声を上げる。

「グオオオオッ!!」

その巨腕が一人の兵士を掴み、首を締め上げた。

噛み殺される寸前、兵士は短刀を引き抜き、首筋へ突き立てる。

「ブチッ!」

血が噴き出し、豚頭族の巨体が崩れ落ちた。

テントの中では、悲鳴と怒号が入り混じる。

チェリルは入り口付近からその様子を冷静に見つめていた。

(……混乱は上出来だ。ここからが本番だ。)

野営地は地獄絵図と化し、同士討ちすら起こっている。

チェリルはその隙を突き、獣欄へと向かった。

そこには大量の家畜と五十頭の馬。

彼は息を潜め、炎の光が照らす干草の山を見つめた。

「……火だ。」

チェリルは火打石を取り出し、草に火をつける。

瞬く間に炎が燃え広がり、野営地を紅蓮の海に変えた。

「さあ、踊れよ獣ども――これは人間の反撃の狼煙だ!」

燃え盛る炎の中、豚頭族たちは混乱し、怒鳴り、走り回る。

チェリルは微笑みながら、闇に溶けるように退いた。

一方その頃、フィルードは遠くからその光景を見ていた。

燃え上がる炎が夜空を裂く。

「……やはりやったか、チェリル。」

フィルードは深く息を吸い、軍に号令をかける。

「全軍、前進! 獣人の野営地を包囲する!」

空が白み始める。

山上の連合軍が一斉に雄叫びを上げて突撃した。

豚頭族は混乱し、互いに殴り合い、殺し合う。

その隙に、人間たちは怒涛のように攻め込んだ。

「人間どもが来たぞぉぉ!!!」

「構うな! 殺せぇぇぇっ!!」

もはや理性などなかった。

血と炎が入り乱れる地獄の中、フィルードは叫ぶ。

「全員! 獣欄を守れ! 馬を奪われるな!!」

兵たちは狂気に駆られたように突撃する。

ブルースとユリアンが先頭に立ち、両手武器を振るい、敵を薙ぎ倒す。

弓兵たちは狙いを定め、矢を放つ。

フィルードの矢が唸りを上げ、馬に飛び乗ろうとしたボア・マンの首を貫いた。

「ブチッ!」

血しぶきが上がり、獣が崩れ落ちる。

「よく聞け! 獣人に馬を乗り逃げさせるな!」

「ブルースは馬小屋を囲め! ユリアンは前方で突撃を防げ!」

「マイク、騎兵を呼び戻せ! この夜を制するぞ!」

夜明けの光が差し始める中、

フィルードたちの雄叫びが、炎に包まれた戦場に轟いた――。

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