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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第三巻 商人から支配者へ① ――守るための取引と暴力

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第85章 交渉の砂時計が落ちる時、戦場は動き出す

チェリルが言い終わると同時に、草むらの影から数名の兵士が飛び出してきた。

「お前たちは何者だ? なぜ夜中にここへ来た?」

 槍を構えるその姿には、疲労と焦りが滲んでいた。

 チェリルは、落ち着き払った笑みを浮かべる。

(……やはり、追い詰められてるな。喉も乾き、目にも余裕がない)

「私はブラックスウォーター傭兵団の士官だ。今夜ここに来たのは、幸運だと思うぞ。さっさとお前たちのリーダーに通せ。遅れたら、お前たちでは責任を取れないだろう?」

 その堂々たる態度に圧されたのか、兵士たちは慌てて姿勢を正した。

「す、すぐに報告してまいります!」

 その時、別の兵士が興味深そうに近づいた。

「兄ちゃん、水……持ってるか?」

 喉は乾ききり、唇はひび割れていた。

 チェリルは黙って頷き、水筒を一つ放り投げる。

 それを受け取るなり、兵士たちは争うように水を飲み始めた。

(……想像以上に切迫している。二日も山に籠もっていれば当然か)

「兄ちゃん、見苦しいところを見せたな。俺たちは二日間ここで足止めされてる。食料はまだあるが、水がもう尽きそうなんだ。……あんたたちは、本当に助けに来てくれたのか?」

 チェリルは小さく首を振る。

「断言はできない。お前たちのリーダー次第だ。――金を払ってでも命を賭ける覚悟があるかどうか、だな。」

 兵士の目が揺れた。

「……金か。そりゃそうだよな。でもな、この山には五つの勢力がある。一番でかいのが三百人、あとは百人ちょっと。あそこを説得できれば、残りはなんとかなるはずだ。」

「助かる。情報感謝する。」

 チェリルは軽く頷き、心の中で微笑んだ。

(交渉材料は揃った。あとは、向こうの覚悟を見るだけだ)

 その時、先ほど報告に行った兵士が戻ってきた。

 案内されるまま、山頂にあるテントの前にたどり着く。

 チェリルは胸を張り、堂々と中に入った。

「ブラックスウォーター傭兵団所属、チェリルです。諸勲爵殿にご挨拶申し上げます!」

 テントの中には、疲れきった数名の貴族。

 その中で一番若い男が眉をひそめた。

「命懸けでここまで来た理由はなんだ?」

「もちろん、あなた方を助けるためです。ただし――戦う覚悟が残っているならば、の話ですが」

 若者が言葉を発するより早く、他の勲爵たちが鼻で笑った。

「たかが傭兵団が、大きな口を叩くな。我々は八百人以上いる。お前たちの百や二百で何ができる?」

「山の下の獣人どもは、泥でできているとでも思っているのか?」

 チェリルは笑みを崩さなかった。

「誤解なさらぬよう。我々は百人や二百の小隊ではありません。今回は半数の兵だけで来ていますが――総勢四百五十人です。

 その中には、超凡者一名、全身鉄甲兵一名、鉄甲兵八十名、鉄板付き革鎧を着た兵百五十名。残りも二重装備の革鎧。刀盾兵三十名、弓兵三十名。――これでも、救う資格がないと?」

 テントの空気が一瞬にして変わった。

(やっと黙ったな。……やれやれ、偉そうな貴族どもだ)

「本当だと証明できるのか?」

「信じられぬなら、これ以上話すことはない。ご武運を。」

 踵を返そうとしたその時、若い勲爵が慌てて叫んだ。

「ま、待ってくれ! 我々が疑ったのは悪かった。……その、ブラックスウォーター傭兵団とは、あの――フィルード団長のところか?」

 チェリルの足が止まる。

「……おや、団長の名を知っているとは。」

「もちろん! ダービー城でも有名です。あのフィルード殿の部下なら、話は別だ!」

「なら話は早い。だが――時間はない。夜明けまでに決断してもらう。」

 チェリルは淡々と続けた。

「報酬は金貨千枚。これは命の代価です。現金がなければ装備・物資・奴隷でも構いません。

 それと――お尋ねします。あなた方の中に超凡者はいますか? いないなら、我々は引き受けません。

 作戦は単純です。あなた方が正面で戦い、我々が奇襲して決定打を与える。それが条件です。

 さらに、殲滅後のすべての装備は我々が回収します。」

 その言葉を告げると、ざわめきが走った。

 若い勲爵が困ったように言う。

「……千枚は、さすがに高い。我々の全財産をかき集めても六百枚が限界だ。」

 チェリルは表情一つ変えず、静かに言った。

「命の価値を値切る者に、救いはない。我々は慈善団体ではない。

 この砂時計が落ちきった時、私は山を下る。」

 テーブルに置かれた砂時計の砂が、さらさらと流れ始めた。

 チェリルの視線は冷たく鋭かった。

(さて、貴族様方――お前たちの“覚悟”を見せてもらおうか)

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