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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第三巻 商人から支配者へ① ――守るための取引と暴力

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第84章 この戦場、俺なしでは終われない――ボア・マンとの血戦!

フィルードは静かに頷いた。「それだけ分かれば十分だ。戻ってジャッカルマンの戦士たちを配置しろ。我々は――明日、出発する」

 その声音には、鋭い意志と、すでに勝利を見通しているような確信がこもっていた。

 周囲の将校たちは思わず背筋を伸ばした。誰もが思う。――この人がいれば、どんな敵でも勝てるのではないか、と。

 翌朝、夜明け前の冷たい霧の中を、二十台の馬車が堂々と進み出した。

 フィルードは念のため、随行部隊を四百五十人に増やしていた。領地はすでに両面囲いの防壁を完成させ、戻ってきた奴隷出身の壮年男性たちも訓練を受けていた。木製の壁の上に立つ彼らの姿は、もはや素人ではなかった。

 ――守りは固い。俺がいない間に崩れることはない。

 心の中でそう確認すると、彼は軽く息を吐いた。

 今回も広範囲の偵察体制を取り、商隊は丸二日をかけて前進した。

 道中、いくつもの戦闘を目撃した。人間側が優勢な場所もあれば、獣人側が押している戦場もある。だが、フィルードは一切介入しなかった。

 ――俺の目的は「戦争」ではなく「勝利」だ。無駄な戦いに手を出すつもりはない。

 そう思っていた矢先だった。

 ローセイとマイクが馬に乗って全速で戻ってきた。彼らの表情を見た瞬間、フィルードの眠気は一瞬で吹き飛んだ。

 「団長様!前方で二つの軍隊が交戦しています!」

 「略奪隊じゃない。正規の獣人軍団です!」

 フィルードの目が鋭く光る。「……正規軍団だと?」

 「はい、人間側は八百人以上。掲げている旗は様々なので、おそらく開拓領の連合軍です。獣人側は六百人ほどですが、その中に鉄の鎧をまとったボア・マン(ボアマン)の精鋭が百人!」

 マイクの報告は息をつく間もなかった。「人間側は山の上に追い込まれており、伐採された木々の量から見て、包囲されてしばらく経っているようです」

 ――ボア・マンの正規軍……。

 フィルードの眉間に皺が寄った。

 これほどの軍が近くまで来ていたのに、偵察は気づかなかったのか?

 「ローセイ百人隊長、説明を求める。」

 低く冷たい声が空気を凍らせた。

 ローセイは視線を逸らし、狼耳をしゅんと下げた。「そ、それは……」

 「言い訳は聞かん。お前の部下も含め、給料を一ヶ月分減給する。」

 その瞬間、ローセイの顔から笑みが消えた。

 昨日まで「金貨?食い物にならんだろ」と言っていた男が、今では銀貨一枚に目を輝かせる。

 ――人は変わるものだな。金は、何より強い魔法だ。

 フィルードは皮肉な笑みを浮かべた。

 怒ったローセイは、傍らのジャッカルマン兵士に一発蹴りを入れた。

 「てめぇのせいで給料が飛んだんだぞ!」

 兵士は尻もちをつき、涙目で見上げる。

 ――まるで犬の喧嘩だな。

 フィルードは額を押さえ、低く一喝した。

 「やめろ。私が罰を下した。お前が兵を殴る権利はない。」

 「……はい、団長様。」

 ローセイは即座に態度を改め、犬のようにしっぽを振った。切り替えだけは早い。

 フィルードは将校たちを呼び寄せた。

 「この区域を迂回するか、救援に加わるか。意見を聞こう。」

 ブルースが真っ先に首を振る。「かしら、無理だ。あのボア・マンたちは普通の獣人じゃねぇ。正面からぶつかったら、俺たちが盾にされるのがオチだ」

 ユリアンも同意する。「二人の超凡者ちょうはんしゃが混じっているはずです。団長様一人では……勝率は低いです」

 ――確かに、無謀な戦いではある。だが――

 マイクが一歩前に出た。「団長様、私は戦うべきだと思います。理由は三つ。

 一つ、正規軍がいるということは、この道が安全ではないということ。

 二つ、ここは領地から数日の距離しかない。もし放っておけば、いずれ奴らは我々の家を襲う。

 三つ、あの鉄の鎧。ハーフプレート以上の装備ですよ。奪えば我々の力になる。」

 的確で、冷静な分析だった。

 ――ふむ、やはりこいつは頭の回転が早い。

 フィルードは満足げに頷く。「その通りだ、マイク。今の我々に必要なのは“リスクを取る覚悟”だ。」

 「マイク、夜盲症のない兵を数名選び、夜中に山を登らせろ。敵の頭領と接触し、戦う意思を確かめろ。

 そして伝えろ。我々の援助は無償ではない。千枚の金貨、さらに戦後の鹵獲品はすべて我々のものだ。鉄の鎧だけは、絶対に譲るな。」

 マイクは力強く頷いた。

 選ばれたのは、誠実で公正な百人隊長――チェリル。

 「行け。お前の判断に任せる。」

 夜。

 冷たい風が吹き抜ける中、チェリルたちは三人で闇を這うように山を登っていた。

 ボア・マンの哨戒線を抜けるまで一時間。

 息を殺して進むその姿は、まるで影そのものだった。

 ――頼むぞ、チェリル。お前が道を開け。

 フィルードは遠くから見つめながら、静かに拳を握った。

 頂上に着いたその瞬間――。

 「ヒュン、ヒュン!」と空を裂く音。矢だ!

 チェリルは即座に盾を構え、仲間に叫ぶ。「防御しろ!人間だ、撃つな!」

 「向こうの兄弟たち、慌てないでくれ!我々は人類の軍だ!

 お前たちの頭領に――重要な話がある!」

 その声は夜の静寂を貫き、山頂にこだました。

 これが、後に語り継がれる“ボア・マン戦役”の幕開けだった。

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