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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第三巻 商人から支配者へ① ――守るための取引と暴力

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第78章 魔獣のニュース――その情報、俺に価値を示してみろ

この男はすでに極貧の身だった。

もはや貴族の誰がどの未亡人と関係を持っているか――そんな下世話な噂話に、フィルードの興味は一片もなかった。

「超常的な生き物に関することです!」

クリスが焦ったように叫んだ。

「私はその生き物の“正確な生息地”を知っているんです!」

――ほう。ようやく口を割る気になったか。

その言葉に、フィルードの目がわずかに細められた。

彼は兵士たちに顎をしゃくる。「手を離せ。話してみろ。情報が本物なら……命までは取らん。」

クリスは周囲の護衛たちを見回した。

その目に怯えと計算が混じるのを見て、フィルードは察し、周囲に下がるよう命じた。

静寂が訪れる。

焚き火の小さな音だけが、二人の間の空気を区切っていた。

「……この場所は非常に隠れたところにあります。私もかつて貴族の衛兵に追われ、逃げ場を失って水に落ちたとき、偶然そこを見つけたんです。

その後、何度も私を救ってくれました。長年討伐されずに生き延びたのは、この場所のおかげなんです。

だから……あなたに教えたら、見逃してください!」

――なるほど、命乞いか。だが“偶然見つけた”とは思えんな。

フィルードは頬杖をつきながら、淡々と尋ねた。

「本題に入れ。お前が言う“超常的な生き物”とは何だ? その場所とどう関係している?」

「もちろん関係があります!」

クリスは熱を帯びた声で続けた。

「その場所には“牛の群れ”がいます。普通の牛とは違う……三頭ほど、異様に大きいのです。一番大きいのは、二頭分の大きさがありました!」

――魔獣級か……いや、下手をすれば“変異種”の群れか。

フィルードの胸が高鳴った。

「その牛の群れ、攻撃性は強いのか? お前は狩りを試みたことは?」

「まさか! 彼らがヒグマを突き殺すのをこの目で見ました。普通の牛でさえ凶暴で、数は数十頭に及びます。その場所は……部下にも教えられません。

私の最後の逃げ場ですから!」

フィルードは目を閉じ、思考を巡らせた。

――野生の牛がヒグマを殺す? その異常性、ただの自然現象ではない。

魔力の濃い地脈か、あるいは“遺物”の影響かもしれん。

考えれば考えるほど、興奮が込み上げる。

彼は本来、クリスから盗賊の財宝でも吐かせようと考えていた。

だが――まさか、こんな“金より価値のある情報”を持っていようとは。

――生かしておく価値、あるな。

「……いいだろう。」

フィルードはゆっくりと口を開いた。

「お前の情報には満足している。数日後、その場所へ案内してもらう。もし本物なら――お前を領主府には渡さん。」

クリスの目に安堵と恐怖が同時に浮かぶ。

だがフィルードの視線は冷ややかだった。

――安心するのは早いぞ。利用価値が尽きれば、その喉を切るのも一瞬だ。

***

翌朝。

商隊は再び出発した。

道中、周囲は相変わらず獣人に破壊された開拓領が点在していたが、

昼にはその光景も消え、穏やかな人の生活が戻りつつあるのが分かった。

――ふむ、俺が潰した中型部族の影響が出てきたか。

やはり、力を示せば、敵は自然と退く。

峡谷領地へ近づくにつれ、人の往来が目に見えて増えていた。

穀物を挽きに来る者、木材を引き取りに来る者――彼らは皆、余った荷馬車を空で走らせるのを嫌い、

ついでに取引をしていくようだった。

さらに領地の外には、開拓領主たちのための木造小屋が建ち並び、小さな酒場まである。

――ほう。ケビン、やるじゃないか。

俺が不在の間にここまで工夫していたとは。

領地に入ると、ケビンが小走りで駆け寄ってきた。

「団長様、これは一体……!?」

フィルードは笑い、後方を振り返る。

「道中で二つの獣人の略奪部隊を潰した。これが戦利品だ。」

ケビンの目が輝き、車列に積まれた道具類を見て口を開けたまま動かない。

「これらがあれば、領地の建設がさらに加速します!」

「お前の努力があってこそだ。」

フィルードは木箱を受け取る。中には銅貨がぎっしり詰まっていた。

「これは今月の全収入で、約六金貨です。主に木板の販売で稼ぎました。

近隣の開拓領が食料と交換するために買っていきます。

最近は客が増えてきたので、酒場も開きました。ですが、人通りが少なくて……一日の利益は数銀貨ほどです。」

フィルードは彼の肩を軽く叩いた。

「十分だ。人が増えれば利益も増える。焦るな。」

――この若者には経営の才がある。いずれ任せられる。

「さて……秋の収穫期が近い。食糧価格は下がるだろう。

山頂に乾燥小屋を増設しろ。俺は大規模に買い込む。

ここは自給できぬ土地だからな、備蓄が命だ。」

ケビンは力強く頷いた。

「すぐに手配します。それと、団長様が連れ帰られた者たちは?」

「強盗どもは今夜、俺が尋問する。分けて監禁しておけ。

奴隷たちは能力別に分けろ。手先の器用な者は工房へ、不器用な者は伐採班だ。

全員、毎日数時間は兵士と共に訓練させろ。」

ケビンは深く頭を下げ、部下を率いて去っていった。

***

翌朝、フィルードは領地内のジャッカル部隊を派遣して、道中の偵察を行わせた。

モニーク城の大軍がどう動いているか、状況を確認する必要があった。

彼自身は荷を整理し、巨大な商隊を率いてダービー城へ向けて出発した。

その規模は壮観で、道中の人族の開拓領が皆、珍しそうに見物したほどだった。

――いい眺めだ。俺が築いた秩序が、こうして形になっていく。

一日進むうちに、かつて獣人が荒らした地域に入ったが、もはや襲撃隊の姿はなかった。

そしてついに、ダービー城へ到着。

フィルードは真っ先にブライアンを探し出した。

彼は満面の笑みで駆け寄り、店を従業員に任せると、そのまま酒場へ直行した。

「弟よ、今回は儲けたぞ! お前の“石鹸”、いくらで売れたと思う?」

――ふっ、ようやく本題か。

フィルードは杯を取り、軽く笑った。

「答えを聞く前に、まずは飲もうじゃないか――勝利の酒をな。」


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