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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第三巻 商人から支配者へ① ――守るための取引と暴力

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第73章 毒ドングリと鴨小屋、そして子爵の罠

ケビンは真剣な表情で首を横に振った。

「団長様はご存じないかもしれませんが……うちの領地に生えているカシの木は、全部“毒カシ”なんです。聖カシの木みたいに、実を少しだけ食べられるわけじゃない。リスですら、このドングリは一口も齧らないんですよ。とにかく苦い。それに、人間が数粒食べただけで下痢が止まらなくなります。」

(なるほど……毒か。だが、これはただのタンニン過多だろうな)

フィルードの頭は妙に冴えていた。毒ドングリ――おそらく通常のドングリよりタンニンが多いのだろう。加工さえすれば、毒性を抜ける可能性がある。もちろん、少し面倒な工程は必要になるだろうが。

「……俺には、この実を処理する方法があるかもしれない。だからケビン、この毒ドングリが熟したら、人をやって全部集めさせろ。谷の中だけじゃなく、周囲の領地まで範囲を広げろ。」

「!」

ケビンの顔が一瞬で輝いた。あの獣人どもの底なしの食欲に悩まされ、髪の毛がごっそり抜けるほど苦労してきたのだ。新しい食料の入手経路――それはまさに救世主のような知らせだった。

「団長様、ご安心ください! 秋になったら、可能な限り集めます。ただ、俺たちの力だけじゃ限界があると思います。……外部に買い取りの情報を流すのはどうでしょう? そうすれば、人間の開拓領地でも獣人の部族でも、俺たちを手伝って収集してくれるはずです!」

「……ふむ」

フィルードは、ケビンのその応用力に心底満足していた。

(やはり、そう遠くないうちにこいつは本当に“一人前”になるな)

二人はさらに森を歩き続け、数時間後――沼沢地にたどり着いた。

そこにはいくつかの簡易小屋が並び、二人の奴隷の少年が管理していた。二人が近づくと、少年たちは慌てて立ち上がり、深々と挨拶をする。

フィルードは軽く手を振って小屋の中へ。

すると――そこは連棟式の鴨小屋だった!

しかも、籐の籠には鴨の卵がぎっしりと詰まっている。沼地の縁へ慎重に歩み寄ると、水面にはアヒルが群れをなし、楽しげに泳ぎ回っていた。

この沼の縁は泥が豊富で、小魚やエビ、昆虫が大量に棲みついている。アヒルたちはそれを餌にし、さらに森へ行って青草まで食べているらしい。

「……ケビン。お前が見つけたこの飼育場所はまさに“天恵の地”だ! 今後もこの方法でアヒルを増やせ。ただし注意しろよ? 数を増やしすぎれば、魚もエビも食い尽くす。餌の量に応じて群れの数を加減しろ。――で、今の鴨の数はどれくらいだ?」

ケビンは胸を張って答える。

「それは奴隷の少年たちに観察させています。今は領地全体で五百羽以上のアヒルがいます。近くの町からかき集めてきたんです。値段は安いですが、自由民たちはあまり手放したがらないので、もっと増やすならダービー城に行くしかありませんね。ちなみに、ほとんど雌で雄は数十羽ほど。概算ですが、毎月一万個ほどの鴨の卵が収穫できます。正式な傭兵や士官たちに毎日一個配るには十分な量です!」

「……ははっ」

フィルードは驚嘆を隠せなかった。

(ケビンがここまでやるとはな……! 最初は混乱させず現状維持だけでいいと思って任せたのに。こいつ、本当に優秀じゃないか)

彼はケビンの肩を強く叩き、満面の笑みを浮かべた。

「ケビン、お前の成果には本当に驚かされたよ! 信じてくれ。俺たちがもっと発展していけば……いずれ、お前はこの大陸で最も優秀な政務官になるだろう!」

「団長様……!」

ケビンは少年らしく顔をほころばせた。その無邪気な表情は、彼がフィルードを同年代の仲間として扱っている証かもしれない。なにせ、この傭兵団で年齢が近いのは彼ら二人だけなのだから。

その後、二人は駐屯地に戻ると、フィルードはすぐに商隊を率いて出発した。

(徴兵される前に……できるだけ多く金貨を稼がなければならない)

今回は四百人を連れての行商だが、心境は大きく変わっていた。

(獣人が密集している今……中規模の部族に囲まれれば勝っても大損害だ。絶対に争いには巻き込まれたくない)

慎重に道を選びつつ、ダービー城で大豆十二台分の荷車を購入し、そのままドヴァ城へ向かう。

……だが。

「天は人の願い通りにはならない」とは、まさにこのことだ。

木造の砦の近くに差しかかったところで、マイクが慌てて戻ってきた。

「団長様! フランク子爵の砦が、大勢の兵に包囲されています! 目測で八百人は下らないでしょう。……どうしますか、迂回しますか?」

「すぐに迂回だ! 俺たちは首を突っ込まない! 商隊は南へ向かえ、そこからドヴァ城に進む!」

その瞬間、商隊は一斉に方向を変え、猛スピードで南へ走り出す。

しかし――間もなく、一人の少年騎兵が追ってきた。

「フィルード団長はどなたですか!? 我らのフランク子爵が、至急お話したいと……!」

「……俺がそうだ。だが、先に言っておく。俺はお前たちの争いには関与しない。もしそれが目的なら帰れ。それに、砦は封鎖されているはずだろう? どうやって出てきた?」

「お、俺は……子爵様が囲まれる前に派遣されたんです! あの、もし今回手を貸していただけるなら、鉄鉱山の分け前を一割差し上げると……!」

フィルードの眉がピクリと動く。

(……なんだと? 最初から俺に目をつけていたのか? しかも俺を騙す気か? 爵位すら持ってない俺が貴族と共同経営なんてしたら、いずれ山賊扱いだろうが!)

「帰れ。俺が承諾することはない。俺はただの平民だ。子爵と協力する資格などない。」

そう吐き捨て、再び行軍を命じた。

だが、少年騎兵は必死に食い下がる。

「団長様! まだ行かないでください! 子爵様は別案も用意しています! もし分け前の話を断られるなら、雇い賃として五百金貨を支払うと!」

「……っ」

その数字を聞いた瞬間、フィルードの足が止まった。

(五百金貨……!? 一回の行商でせいぜい四百金貨だ。それも二十日以上かかるのに。しかも今の利益は需給の崩れによる一時的なもの……いずれ落ち着く。つまり、商業ルートでは限界がある……)

彼は前へ進もうとした。だが――両足が地面に根を張ったように動かない。

気づけば、口から勝手に言葉が飛び出していた。

「……少なすぎる。もっと金を払え!」

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