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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第三巻 商人から支配者へ① ――守るための取引と暴力

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第72章 飛躍的に成長したケビン

「親方、俺はもう慣れました!」

ケビンは真剣な顔で首を振った。

「ゾーンじゃこの仕事は絶対できません。俺はもう、あの豚頭族奴隷たちの手の内を完全に把握しています。どこまで働かせれば限界か、どうやって食料を割り引いたり褒美を与えたりすれば、もっと働いてくれるのか……。全部、実践で身につけました。言葉じゃ説明しにくいですが、確かな経験です」

言葉に迷いはない。その目は、以前の少年のものではなく、すでに小さな領主のそれだった。

「それに――」

ケビンはさらに声を潜める。

「普段雇ってるジャッカルマンたちにも気を付けなきゃいけません。彼らは友好的に見えるけど、本当は下心だらけです。俺は毎日、奴らとゲリラ戦みたいな駆け引きをしてます。あと……俺は団長に最初から仕えてきた古株です。傭兵団の中でも一定の威信はあります。ゾーンじゃ無理なんです。あいつは商隊の従業員出身だから、利益ばかり優先して、戦力や威光が足りない」

ケビンの声は次第に熱を帯びていった。

「代われるのは、親方かマイクだけです。でも、お二人は傭兵団の柱ですから離れるわけにはいきません。だから残るのは俺しかいないんです。親方、安心してください。俺は本当に慣れました。もう問題は起こしません!」

――成長してやがる。

フィルードはじっとケビンを見つめ、心の中でそう呟いた。

人間はプレッシャーで急速に成長する。その傾向は少年時代に特に顕著だ。前世でも、大事な学習はほとんどこの時期に集中していた。適応力が桁外れだからこそだ。

「……ケビン、お前は本当にこの短期間で大きく成長したな」

フィルードは深く頷いた。

「分かった。そこまで決めてるなら、領地の管理はお前に任せる。数日中に、読み書きできる奴隷の助手を買ってやろう」

「ありがとうございます!」

ケビンの顔に久しぶりに安堵の笑みが浮かぶ。だが、フィルードはすぐに別の話題を切り出した。

「さっき板材の売れ行きが悪いって言ったな。いい策がある」

フィルードの目が光る。

「うちの板材は生産コストがほとんどゼロに近い。売れさえすれば利益になる。一部を利益から還元してみろ。ダービー城じゃ湿った板材が1枚5銅フェニーだ。村や町ならもっと安いだろうが……仮に4銅フェニーで計算しよう」

「ふむ……」ケビンが眉をひそめる。

「大量に仕入れる客、たとえば60枚以上買うやつには、1枚2銅フェニーで卸せ。これが卸売価格だ。それ以下なら、1枚3銅フェニーだ」

「そ、それだと……儲けが少なくないですか?」

「表面上はそう見えるが……考えてみろ」フィルードは口元を歪めた。

「安売りを続ければ、周囲の加工所は全滅する。最後に残るのはうちだけだ。そしたら適正価格に値上げして独占できる」

「ど、独占……?」

ケビンの脳裏には「?」が乱舞していた。資本寡占なんて言葉を知るはずもない。

フィルードは苦笑して手を振った。

「難しく考えるな。要は、安く売っても儲かるってことだ。最大の弱点は、運べないこと。だからこそ、極端に安い値段で人を呼び寄せろ。来た連中に板材を買わせろ。あと、少年たちには板材を使って水力切断機をもっと作らせろ」

「な、なるほど……!」

ようやく腑に落ちたケビンは力強く頷いた。

フィルードはさらに問いかける。

「それで、小麦粉の加工料はどうしてる?」

「はい! 10ポンドごとに1銅フェニーいただいてます。前はダービー城も同じだったんですが、今は2銅フェニーに上がっています」

「……半分に下げろ」

「えっ!?」

「20ポンドで1銅フェニーだ」

ケビンが呆気にとられている間に、フィルードは畳みかける。

「この仕事はついでだ。象徴的に少し取ればいい。むしろ頻繁に領地に来てもらえた方が得だ。生活必需品の加工で市場を握れば、周辺の開拓領を放射状にカバーできる。人が集まれば商業は勝手に繁栄する。覚えとけ、大量で安価な商品だけが人を縛りつける」

「……なるほど、団長」

ケビンの目が輝いた。

「さあ、領地を見て回るぞ。ずいぶん長い間、まともに視察してなかったからな」

二人は小川に沿って北へ歩き出す。谷の外れには、整備された数百畝の空き地があり、牧草の芽が顔を出していた。収穫は来年だろう。

さらに進むと――。

「……すごい数の水車だな」

フィルードは目を見張った。小川には50〜60台の水車が高速で回転している。管理しているのは、ほんの数人の少年奴隷だけ。

森の手前では、大勢の豚頭族が働いていた。以前のような抑圧感は消え、笑い声すら聞こえる。まるで奴隷ではなく、仕事を楽しんでいる牛馬のようだ。ただし、監視は緩めていない。完全武装した傭兵50人が巡回していた。

ケビンは小声で囁く。

「団長……実は領地に新しい施設を建てたんです。見に行きませんか?」

「お、新しい施設?」フィルードが目を輝かせる。

「ええ。以前、団長が『家禽を飼え』って言ってましたよね。あれを実現しました。理想の場所を見つけたんです」

「ほう……それは楽しみだ。案内してくれ」

二人はさらに北へ。途中、カシの木の林に差し掛かる。

「ドングリがたくさん実ってるな……」

フィルードは指を差し、ケビンに命じた。

「伐採隊に伝えろ。この領地内のカシは一本も切るな。秋になったら獣人たち総出でドングリを集めさせろ。これも食料になる」

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