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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第二卷 傭兵から商人へ② ――戦場の裏側で金を動かす

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第68章 獰猛!

最前列を突進してきた豚頭族が、無限の慣性のままに投槍を受け――その巨体ごと地面に倒れ込んだ。

轟音と共に広い空き地が一掃され、敵の戦線は優に十メートル以上押し戻される。

しかし、混乱はすぐに広がった。

「ブモォォォ!」

豚頭族たちは恐怖に騒ぎ立てるが、隊列の中に控えていたボア・マンが容赦なく巨大な両手斧を振り下ろす。

肉を裂く音と共に、怯んだ豚頭族は容赦なく胴体を真っ二つにされ、血飛沫と共に臓物が地面へと流れ出した。

――その惨状に、血に慣れたはずのフィルードですら胃の奥がひっくり返りそうになる。

「ぐっ……!」

視界を赤黒く染める殺戮に、新兵たちは青ざめ、手にした投槍すらまともに支えられなくなっていた。

それでも、古参兵の怒鳴り声に背中を押され、震える手で二列目の長槍兵と交代していく。

ちょうどその時、我を取り戻した豚頭族が数歩突進。

しかし――

「放てぇッ!」

正面から投げ槍の雨を浴び、再び大勢が地に伏した。

フィルードはその短い隙を見逃さず、八名のボア・マンを次々と矢で射抜いた。

……だが、投げ槍による見せ場はここで終わる。

なぜなら――距離はもう、目と鼻の先だった。


「前列は踏みとどまれ! 後列は長槍を構えろ!」

轟音と共に両軍が激突。

古参兵たちは素早く槍を突き出し、豚頭族の喉や胸を容赦なく貫いていく。

新兵たちは必死に筋肉の記憶を頼り、震える腕で槍を突き出す。

中には呆然と立ち尽くす者もいたが、伍長に怒鳴りつけられて我に返った。

その中で――二十余名のボア・マンたちが雄叫びを上げ、怯んだ豚頭族を押し分け、巨大な斧を掲げて突撃してきた。

「フィルードォォ!」

彼らの狙いは明確。

――あまりにも多くの仲間を屠った、人間の少年に復讐すること。


「くっ……!」

ボア・マンの斧が唸りを上げ、前列兵の槍を絶えず叩き砕く。

その衝撃は、後列の兵士たちすら左右に揺さぶるほどだった。

もちろん、長槍に貫かれて倒れる個体もいる。

だが――それは主に古参兵の槍だけ。

この獰猛な巨躯は、胸を貫かれても突進を止めない。

長槍が体に刺さったまま、咆哮と共に前進し、隊列の中へと突っ込んできた。

「止めろ! 止めろォ!」

後方の兵士たちが慌てて再度槍を突き出し、胸や腹を無数に穿つ。

それでも倒れるまでに、数人の命を持っていく。


新兵が多い区域では、劣勢が目立ち始めた。

それを敏感に察したのは――ボア・マンの首領。

「ブモオオオォッ!」

残された五名の親衛兵を率い、彼は戦場を切り裂くように突進する。

振り上げられた鉄斧に、フィルードは魔力の閃きを感じ取った。

「まずい……!」

轟音と共に、五、六人の兵士の槍先が一斉に叩き折られる。

続けざまに隊列へ突入し、狂乱の殺戮が始まった。

その巨大な斧に掠るだけで――兵士は即死。

あるいは、即座に戦闘不能。

彼らは、まさに無人の境地を突き進む獣だった。


「……っ」

フィルードは愕然とする。

今まで、獣人は総じて人間より劣ると考えていた。

だが今――精鋭獣人の真の力を目の当たりにし、その価値観は粉々に打ち砕かれた。

――これは、人間の精鋭でも一対三でなければ渡り合えない。

拳を握りしめ、フィルードは振り返り、剣盾兵と弓兵の十人隊長たちに叫んだ。

「部下を連れて新兵の負担を減らせ! 特に左前方、崩壊しかけている!」

「はっ!」

頷いた隊長たちが走り去る中、フィルードは弓をつがえ、腕に魔力を込める。

満月のように弓が引き絞られ――

「放つ!」

鋭い矢が、殺戮を繰り広げるボア・マンの首領へ。

だが。

「パシィッ!」

矢は途中で砕け散り、木片となって飛び散った。

「くそっ……!」

あまりの品質の低さに、フィルードは弓を投げ捨てそうになった。

だが踏みとどまり、再び矢をつがえる。

狙いを、隣にいた半身鉄甲の精鋭戦士へ。

――だが、体は疲労困憊。

魔力の補助なしでは、もう弦を引くことすらままならない。

「はぁ……はぁ……!」

呼吸を整え、二人の体が重なった瞬間、矢を放つ。

鋭い破空音――。

矢は一人目の首筋を貫き、そのまま二人目の後頸部へ突き刺さった。

「グァアッ!」

血は思ったほど流れなかったが、戦士の動きは鈍った。


「……!」

傍らの弓兵の古参兵が、その妙技に驚愕の声を漏らす。

首を射抜かれたボア・マンはよろめきながらも矢を引き抜いた。

その隙を逃さず、古参兵が雄叫びと共に大剣を振り下ろす。

刃は血管を断ち切り――巨体が地面に崩れ落ちた。


「ブモオオオオッ!」

首領が怒号を上げる。

周囲には、もはや二名の親衛兵しか残っていなかった。

先ほど六人で突入した際、彼は圧倒的な防御力を頼りに暴れ回り、傭兵たちを寄せ付けなかった。

――だが、フィルードの矢によって三名が討たれた。

それはすなわち、退路を失ったことを意味する。

「……!」

新旧の恨みが重なり、首領は狂乱と化し、一直線にフィルードを狙って突撃した。


「来るか……!」

恐怖でまぶたが痙攣する。

それでもフィルードは弓を構え、魔力を注ぎ込み、一人の精鋭を射倒した。

弓を投げ捨て、隊列の中を走り抜ける。

崩壊していない隊列を盾にすれば、首領といえど追いつくのは容易ではない。

だが――残された唯一の親衛兵も、古参兵の大剣と槍により瞬く間に串刺しにされ、絶命した。

それでも首領は止まらない。

フィルードを追い、追い、追う。

古参兵がその行く手を阻もうとするが、すべて魔力で薙ぎ倒される。

二つの集団を吹き飛ばした時点で――彼の進撃はついに止まった。

数名の古参兵が、武器を捨てて飛びかかり、その巨体にしがみついたのだ。

「今だ――押さえろ!」

戦場の轟音の中、フィルードの鼓動もまた爆音のように鳴り響いていた。

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