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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第二卷 傭兵から商人へ② ――戦場の裏側で金を動かす

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第67章 ボア・マンとの遭遇

ライ麦は――ついに 1ポンドあたり1.7銅ファニー。

大豆は 3.5銅ファニー。

そして燕麦でさえ 1.1銅ファニーにまで高騰していた。

(……これはまだ卸売価格だっていうんだから、恐ろしい世の中だな)

フィルードは荷馬車の揺れに身を任せながら、現実の厳しさに眉をひそめた。

その後、一行は大々的に出発。

事前に偵察しておいたルートを着実に進んでいく。

しかし――。

「……獣人の部族、多すぎないか?」

フィルードの視線の先、道沿いには大小様々な獣人部族が増えていた。

その多くは小規模だったが、油断はできない。

彼は 400人の隊を率いているにもかかわらず、これらを可能な限り避けることを選んだ。

(状況が分からんうちは無駄に刺激する必要はない……)

同時に、人間の開拓領地も次々と目に入る。

彼らはフィルードの荷車に積まれた大豆を羨望の眼差しで見てきた。

しかし――。

「申し訳ないが、売るつもりはない」

全て断るしかなかった。


道中で三度の戦闘に遭遇。

そのうち二度は、獣人が人間を襲っている場面だった。

フィルードが通りかかっただけで、獣人の群れは彼の存在に気づき、直接退散してしまう。

「助かった! 勇士殿!」

「これを受け取ってくれ!」

二人の小領主から、それぞれ5~10枚の金貨を感謝の証として贈られた。

ただし、人間が獣人を攻撃している場面では、フィルードは介入せず黙って通り過ぎた。


こうして四日が過ぎたある日。

馬を駆けて戻ってきたマイクが声を張り上げる。

「団長様! 前方に木造の砦を発見しました! その構造は我々の砦に似ており、三面が絶壁になっていて木の壁を築いています。……ですが! 現在その砦は大量の獣人に包囲されています!」

「……ただの獣人じゃない。あの中に――ボア・マンがいます!」


「なに……?」

うとうとしていたフィルードは一瞬で目を覚まし、すぐに指示を飛ばす。

「隊はここで停止! 案内しろ、見てくるぞ!」

彼と数名の千人隊長は慎重に砦の近くまで忍び寄る。

遠目に映った光景は、まさしく地獄そのものだった。

砦の前に大量の獣人戦士。

木造の砦は地形を巧みに利用して築かれ、上には人影が密集していた。

人数は少なくない。

ユリアンが低く告げる。

「団長様……獣人の数は600を超えています。しかもその中に100人ものボア・マンが……。非常に強力な勢力です。……どうしますか? 迂回しますか?」


フィルードは黙考した。

砦の守備隊と協力すれば勝機はある。

だが――。

(利益もない戦いに首を突っ込む必要はない。勝ってもこちらの損害は大きい……全く割に合わん)

頷こうとした、その時。

視界の隅。

砦の横の石壁が 赤褐色に染まっているのが目に入った。

「……しまった! 鉄鉱石か!」

高揚した心臓はすぐに冷えた。

(だが、道のりを考えれば……手を出せる段階じゃない)

そう判断し、立ち上がって撤退しようとした――その瞬間。


「……!」

草むらから数名の豚頭族が立ち上がった。

思わず双方が凍りつく。

「チッ!」

フィルードは即座に弓を引き絞り、矢を放った。

一本の矢が唸りを上げ、豚頭族の一人を地面に沈める。

マイクも追随し、もう一人を仕留める。

ユリアンは両手大剣を抜き、真っ直ぐ突撃。

残る一人に迫り、斬り殺そうとした――。

「ギィィィィィィィィィィッ!!」

耳をつんざくような悲鳴。

(……雌か!?)

一瞬の疑念と共に、フィルードは再び矢をつがえ、容赦なく射殺した。

全身が硬直する。

(なぜ……なぜ、こんな場所に豚頭族が……?)

その答えはすぐに来た。

先ほどの悲鳴が、前方の大部隊の注意を引いてしまったのだ。

「行くぞ! まずは離脱が先だ!」

数人は急ぎ商隊へ戻る。

(……しまった。善良な女性を巻き込んじまった。戦いたくなくても、もう戦うしかねえ)

比較的安全な場所に荷車隊を隠し、ロウセイたちに見張りを任せた。

(俺がジャッカルマンを統率できることだけは、知られたくない……)

そう考えたフィルードは部隊を率い、木造の砦へと直行する。

正面衝突を避けるため、大きく迂回して。

まもなく砦の近くへ到着。

フィルードは大声で叫んだ。

「お前たち無法者の獣人ども! よくも人族の領地を攻撃する気になったな!」

「命知らずめ! 私に遭遇したからには――今日、生きて帰れると思うな!」

その時。

砦の上から、柔らかな女性の声が降ってきた。

「勇士様、力を温存なさいませ。……彼らはあなたの言葉を理解できませんよ?」

「……!」

図星だった。

しかしフィルードは全く動じず、隣の通訳に冷静に言い放つ。

「今の俺の言葉、全部覚えたか? 今すぐ翻訳しろ!」

通訳はしどろもどろ。

当然覚えておらず、結局フィルードにもう一度繰り返させられる羽目になった。

その時、ボア・マンの頭領が憤怒に燃え、軍を率いて突撃を開始。

「長槍兵! 隊列を組め! 傭兵と見習い傭兵は分散配置! 騎兵は馬を降りて長槍兵の後方に隠れろ!」

瞬時に防御陣形が展開。

そして――。

獣人軍団が100メートルの距離に迫った瞬間、砦の門が轟音と共に開いた。

「なっ……!」

中から飛び出してきたのは300人を超える兵士。

しかもその装備は豪華そのもの。

鉄甲兵だけで50人以上。

鉄鋲付きの皮鎧を着た兵士が100人超。

さらに騎兵も30人近く。

貴族の旗印まで掲げられている。

この光景に、人間側の兵士たちの緊張は一気に解けた。

(……仲間にこれだけの兵力がいるなら、恐れる必要はない!)

「弓兵! 放物線射撃パローベラ!」

「投槍兵、準備!」

フィルードは自ら弓を引き、隊列の中央にいる ボア・マンの巨体を狙う。

通常の豚頭族より半身は大きく、2メートルを優に超える巨躯。

堂々と歩み、矢など意に介さぬ様子――。

「ヒュッ!」

矢は空を裂き、まっすぐに首筋を貫いた。

「ブスッ!」

怒号と共に首から鮮血が噴き出す。

数歩よろめき、巨体は音を立てて倒れ込んだ。

「……ッ!」

フィルードはすぐに次の矢をつがえ、大声で叫ぶ。

「マイク! 騎兵を率いて後方から突撃しろ! 向こうの騎兵を援護しろ! 豚頭族の騎兵を殲滅するんだ!」

「ただし! 機を見て動け! 我々人間の騎兵はまだ未熟だ! 戦果を欲張るな! 最優先は兵士の死傷者を出さないことだ!」

「了解!」

マイクは力強く頷き、馬に飛び乗る。

他の九人の騎兵も次々と続いた。

その間にもフィルードは矢を放ち、また一人のボア・マン戦士を射倒す。

敵軍は瞬時に隊列を二つに分けた。

300人は引き続きこちらを攻撃し、もう300人は後方の奇襲に備える。

50メートルまで突撃してきた時、豚頭族戦士たちが一斉に咆哮を上げ、突進を開始。

特に数十人のボア・マンがもたらす圧迫感は凄まじい。

(……まるで人間サイズの肉の山だ……!)

新兵たちは顔を引きつらせ、古参兵すら険しい表情を浮かべる。

「投槍準備! 見習い傭兵ども、慌てるな! これは必ず勝てる戦だ!」

「冷静さが唯一、お前らの命を守る!」

フィルードは距離を測り――。

豚頭族の群れが 10メートルに迫った瞬間、腕を振り下ろした。

「投槍――放てっ!!」

空は無数の槍で覆われ、雨のように獣人の軍へと降り注いだ――。

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