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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第二卷 傭兵から商人へ② ――戦場の裏側で金を動かす

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第65章 古参兵への牽制

 底辺から這い上がってきた男たちは、少しの権力や立場を得ただけで、すぐに私腹を肥やそうとする。

 ――まあ、貧しかったんだろうな。かつての俺も同じ穴の狢だ。

 だが「ブラック・スウォーター傭兵団」を築き上げ、この地域で一目置かれる存在になるために、俺はすべてを賭けている。

 そのためには、取っていいものと、取ってはならないものの線引きをはっきりさせなければならない。

 フィルードは陰鬱な視線を古参兵たちに向け、低く押し殺した声で言い放った。

「今回の任務は中止だ。まず領地に戻る。……古き仲間たちよ。お前たちに聞きたいことがある」

 その瞬間だった。

 彼が振り返るや否や、二十名以上の古参兵が一斉に地面にひざまずいた。

「団長様! 我々が悪うございました!」

「どうか団から追放だけはご勘弁を!」

 彼らは慌てて懐から銀貨を掴み出し、地面にばらまく。

 白銀の輝きは本来なら心を奪うはずだった。しかしこのときのフィルードには、まるで汚物のようにしか見えなかった。

「……わかった。もう何も言うな」

 フィルードは怒鳴りつけることもなく、無表情で答える。

「まずは領地に戻る。そのうえで、この件は処理する」

 部隊は静かに引き返し始めた。誰ひとりとして、地面に転がる銀貨を拾おうとはしなかった。

 フィルードは後ろにいたマイクに命じる。

「マイク。お前が全部拾え。……俺たちが毎日、命を懸けて戦っているのは、このためじゃないか。拾い終えたら、正規傭兵三十人を率いて、今任務についている傭兵たちと交代してこい」

「了解しました、団長!」

 マイクは力強く頷き、無言で作業に取りかかった。

 夕暮れ、部隊は領地へ帰還した。だがフィルードはすぐに会議を開くことはせず、皆に休養を命じるだけだった。

 ――急ぐ必要はない。むしろ一晩、彼らを不安のまま眠らせるのが効果的だ。

 翌朝。峡谷の外にある広場に全員を集め、フィルードは前回「隊長」を務めた古参兵を一人残らず前へと呼び出した。

 彼は一人の傭兵を指差す。

「ジョン。お前とは豚頭族の峡谷を攻めて以来、ずっと一緒だったな。……だが聞きたい。雇い主から個人的に金を受け取ったこと、なぜ報告しなかった? 俺はお前たちを不当に扱ったか? それとも家族に困窮があったのか?」

 呼ばれたジョンは目を真っ赤に腫らしていた。昨夜、一睡もできなかったのだろう。

 そして、ドスンと膝を地面に突き立てる。

「団長様、誠に申し訳ございません! 私は元は農夫の小物で、こんな大金を見たのは初めてでした……雇い主から渡された瞬間、まるで別人になったかのようでした。心は裂かれるようで……もう二度としません! 団から追放だけは……!」

 周囲を見渡せば、隊長経験者六十名全員が、不安げな表情で立ち尽くしていた。

 フィルードはため息をつく。

「……俺がしていることは、この団が地域で軽んじられず、堂々と胸を張るためだ。お前たちが苦労に慣れ、小銭を得て心揺らぐのは理解できる。だが団長として、罰を与えねばならん。でなければ新兵たちはどうなる? 同じ道を歩んでしまうだろう」

 そして処罰を宣告した。

「まず――下級士官の職を解任。半年間は再昇進を禁ずる」

「次に傭兵ランクを一級降格。三ヶ月間、昇級も禁止だ」

「戦功を立てても銀貨しか得られぬ。そして一ヶ月分の給料を差し引き、その金は見習い傭兵に均等に分配する」

「次、もし同じことを繰り返したら……お前たちがどれほど功績を立てようと、永遠に下級傭兵のままだ。二度と士官にはなれん」

 処罰を聞いた古参兵たちは顔を歪めた。しかし同時に――心のどこかで安堵していた。

(……追放ではない。それならまだやり直せる)

 全員が無言で頷き、処分を受け入れた。

 フィルードは振り返り、全員に向けて声を張り上げる。

「兄弟たち! 君たちの中には新兵も多い。だが今罰した彼らは、本来なら優秀な戦士だ。多くの者より強く、俺と共に困難を乗り越えてきた。

 だが、一時の貪欲のせいで、お前たちと同じ場所に立たされた。

 聞け! 俺はこの団を一つの集団としたい。取るべき金は銅ファニー一枚も減らさない。だが、取るべきでない金を一枚でも手にした者は、必ず罰する!

 功績があろうと、古参だろうと、例外はない!

 我らブラック・スウォーター傭兵団は真のエリートとなる! 未来を潰すな! 以上、解散!」

 兵士たちは一様に沈黙し、その眼差しは団長に対する「尊敬」に加え――「畏れ」が宿っていた

 新たな軍の構造と規定

 その夜、フィルードは小屋に籠り、筆を走らせた。

(人数が増えれば、規律なくして崩壊する。今こそ定款を作るべきだ)

 前世で知る軍隊規則を真似て、軍規を書き連ねる。

 懲罰は給料の差引き、食事制限、営倉入り。兵士は自由民であり、死刑権限はない。だが一年後、正式な騎士となれば処刑権限も手に入る。

 同時に軍の階層も定めた。

  · 班長(伙長):3人を束ねる。士官ではないが、士官昇格の前提。

  ·十夫長:10人を指揮。最下層士官。毎月+銀貨1枚。

  ·百夫長:さらに指揮権を持つ下級士官。給料+銀貨2枚。

  ·千夫長:理論上は1000人の指揮官。実際は数百を統率。

 ブルース、ユリアン、マイクの三名を千夫長に任命。

 剣盾兵42人、弓兵29人、騎兵10人はフィルードが直轄とした。残る802人を三人に均等配属し、各自267人前後を管轄する。

 平時には百人余りしか手元にいないかもしれない。それでも――責任者を定めることが肝要だった。

 さらに「連帯責任」を導入。部下が過ちを犯した場合、その上官も罰を受ける。

 翌日、任命を発表すると、農民上がりの兵たちは困惑しながらも耳を傾けた。高度な制度を理解するのは難しい。だが時間をかけて説明し、ようやく納得させる。


 騒動ののち、フィルードははっきりと実感した。

(俺の威厳は、一段と増したな……。昨日までは尊敬だった。だが今は、恐れも加わった)

 ――それは「団長」として、必要不可欠なものだった。

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