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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第二卷 傭兵から商人へ② ――戦場の裏側で金を動かす

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第64章 待遇

フィルードは再び同じ戦術を使った。

――「まもなく出征だ!」

そんな言葉を投げかけると、案の定、この三百五十人の中から四十人の臆病者が飛び出した。

「……出征? 俺は聞いてないぞ!」

「死ぬのはごめんだ! 俺は労働に回る!」

逃げ腰の者たちに対し、フィルードは容赦しなかった。

「よし、ならばお前たちは今日から労働者だ。」

冷たく言い放つ。だが、今回の兵士たちは以前とは違った。

屈辱に耐えるぐらいなら、と大半がそのまま領地を去っていったのだ。

「……やはりな。腰抜けは残っても害にしかならん。」

フィルードは目を細める。

残った兵士は三百十名。さらに、かつて体が弱く兵士になれなかった八十名の新兵を見習い傭兵に昇格させることを決定した。

「お前たちは今日から見習い傭兵だ。給料は毎月銀貨一枚だ。」

兵士たちの目が一斉に輝いた。

食事の基準も正規傭兵と同じ。

領地内ではパンを自給できるようになったため、一人あたり一日のコストは五銅芬妮ほど。

軍糧パン一・五ポンド、干し肉か生肉三分の一ポンドが支給される。

「ふうん……これなら戦えそうだな。」

「銀貨一枚で腹も満たせるなら、悪くない。」

こうして領地の兵士総数は八百八十三人に達した。

大部分は見習い傭兵であり、正規傭兵はわずか百七十六名に過ぎない。

しかも三百三十人は外部任務で不在。

その食費だけで毎月百五十枚近い金貨が吹き飛ぶ。さらに傭金で四十枚以上。

「……数字を見てるだけで胃が痛くなるな。」

フィルードは帳簿を睨みつけ、歯ぎしりした。

領地に残る労働者は百十六名。

大部分は去ってしまったが、残った者たちは定着し、他に良い働き口はなさそうだ。

そこで彼は決断した。

「労働者の食事は――一日オート麦一ポンド、ライ麦半ポンド。それに塩水を少々だ。」

「えっ……塩水?」

「肉はないのか……。」

フィルードは眉をひそめた。

「肉は贅沢だ。だが、塩分は必須だ。お前たちは肉を食えない分、塩水で補え。」

こうして、労働者の毎月の消費は七金貨以内に抑えられる。


猪頭人の待遇もさらに削られた。

重労働に従事する猪頭人たちは労働者と同じ食事。

人質にされた者たちには、毎日オート麦を半ポンドから一ポンドだけ与えられる。

「……本当に生きるだけの量だな。」

「でも働ける猪頭人は四百人もいる。」

残りは子供や老人。慰撫のために最低限の世話がされるだけだ。

すべてを合わせると、一日の食糧消費は金貨二十八枚相当。

豺狼人部族に関しては、三十八名の戦士は傭兵と同じ待遇を受ける。

つまり一日五銅芬妮の価値がある食事だ。

少年はライ麦一ポンドとオート麦一ポンド。

子供と老人はライ麦一ポンドのみ。

合計すると十五金貨程度の出費になる。

「だが……彼らは働き者だ。」

豺狼人は人間兵士と共に猪頭人奴隷を監視し、さらに放牧や商隊の護衛にも協力してくれる。領地への貢献は小さくない。


全てを合算すると――領地は毎月二百四十枚の金貨を必要とした。

「……二百四十枚。」

フィルードはため息を漏らす。

だが、傭兵団のレンタル任務で七十五枚の金貨を稼ぐことができる。

つまり不足分は百六十五枚。

「……まだ、どうにかなるか。」

とはいえ、手元の金貨では長くは持たない。財源を広げる必要があった。

「もう一度、商路を行くしかないな。」


翌朝早く、フィルードは決断を下す。

「ケビン、留守を頼む。正規傭兵四十三名と、新任傭兵百七名を率いて領地を守れ。」

「了解しました、団長様。」

一方、フィルード自身は正規傭兵百名、見習い傭兵三百名、さらに豺狼人戦士二十名を連れ、交易に出発した。

総勢四百人――この地域では侮れない規模だ。

しかし、実態は水増し部隊。

新兵の多くは原始的な石槍しか持っていない。

「防具は……これしかないか。」

倉庫から見つけた粗悪な革鎧を一人一枚ずつ配るしかなかった。

それでも、ダービー城には四百本の精鉄製長槍を発注済み。四十枚の金貨が消えたが、装備は徐々に整っていくはずだ。

「人手はもう集まらない。今の規模でしばらくは持つだろう。」

今回、フィルードは特別な物資を持参していた。

「……石鹸、だ。」

合計二百六十個。一個五十グラム。

品質は並で、獣臭がするのが難点だ。

「売れるかどうかは……正直分からん。だが、汚れは確実に落ちる。」

木板を積んだ十台の荷車とともに、隊は峡谷を出発する。

久々の外出。荒野の道には新しい開拓領が点在し、数十人規模から数百人規模までさまざまだった。

「……雨後の筍、だな。」

「しかし皆、俺たちを警戒してるぞ。」

領地の者たちは、フィルード一行が略奪に来るのではと恐れているようだった。

道中、小さな開拓領から一人の人間が飛び出し、駆け寄ってきた。

「団長様! 交易に向かわれるのですか?」

その顔を見て、フィルードはようやく思い出す。

「……チェリルか!」

老傭兵チェリルだった。

「君と仲間たちは元気か? 雇い主に酷使されてはいないか?」

チェリルは慌てて手を振る。

「とんでもありません! 雇い主は我々に良くしてくれます。時には生肉まで分けてくれるほどです。私は毎日、新兵を訓練するだけで……」

そう言って彼はポケットから銀貨六枚を取り出した。

「これは雇い主が私にくれた手間賃です。断ったのですが、どうしてもと……。仕方なく受け取りました。」

フィルードは目を見開いた。

「……下級将校の月給と同じ額じゃないか。」

周囲の兵士たちがざわめく中、彼は銀貨を受け取り、静かに告げた。

「チェリル、やはり君を見誤っていなかった。これからは雇い主が金を渡してきたら、必ず受け取り、傭兵団に上納しろ。」

「団長様……?」

「私はこの数枚の銀貨が惜しいわけじゃない。だが、君たちだけが報酬をもらえば、領地に残る古株の仲間たちに不公平になる。だから、私はこの金を全ての正規傭兵に分配するつもりだ。」

チェリルは深く頷いた。

「おっしゃる通りです、団長様。私もそれを危惧したからこそ、上納しようと思ったのです。ご安心ください、私はどこにいようともブラックスウォーター傭兵団の一員です!」

「よろしい!」

フィルードの声が荒野に響く。

「勇士たちよ、私は必ずやお前たちに明るい未来を与える! チェリル、部隊に戻れ。見習い傭兵をしっかり訓練しろ。次の交代の時、私は成果をチェックする。」

「了解しました!」

力強く敬礼すると、チェリルは雇い主の領地へ戻っていった。

その背中を見送りながら、フィルードの表情は徐々に暗くなっていく。

――前回の交代勤務の兵士たち。

雇い主からボーナスを受け取っていたにも関わらず、誰一人として報告していなかったのだ。

「……俺を、欺いたな。」

彼の拳が震えていた。

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