表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第二卷 傭兵から商人へ② ――戦場の裏側で金を動かす

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/287

第63章 蛮北詐欺センター

羊毛は鹸水で丁寧に洗われ、ふわふわとした新しい光を取り戻していた。

その様子を見つめながら、フィルードは満足げにうなずく。

「よし……。この中から手先の器用な連中を選んで、糸を撚らせるんだ。」

彼は戦争を望まない領民の中から、器用そうな者を集めて作業を始めさせた。

さらに記憶を頼りに、シャルドゥンと一緒に原始的な織機を組み立てていく。

「こんな形だったはずだ……いや、こっちのほうが効率がいいかもしれない。」

シャルドゥンは器用に手を動かし、木材と糸を組み合わせていく。結果的に、効率は従来の織り方の三倍にしかならなかったが、それでも十分な進歩だ。

「……まだ改善できる余地はあるな。」

フィルードは腕を組み、頼もしげに笑った。

「シャルドゥン、もう一段階の改良を頼む。」

北からの報せ

開拓領は順調に成長していた。そんな矢先、食糧の買い出しに行っていたマイクが、顔を真っ青にして駆け込んでくる。

「団長様! 大変です!」

「どうした、そんなに慌てて。」

「モニーク城近くの開拓領が……壊滅的な打撃を受けました。北方の大部族が――三千人の獣人軍団を動かしたのです!」

フィルードの表情が固まる。

「……三千? まさか。」

「ボア・マンの軍団です!」

その言葉に場が一瞬凍りついた。

ボア・マン――豚頭族のような亜種とは違い、背丈も体格もひとまわり以上大きく、強靭な肉体を誇る本物の獣人だ。人間を遥かに上回る身体能力と、恐ろしい食欲を持つ彼らは、十数か所の開拓領を襲撃し、住民を「食料」として食らい尽くしたという。

「……準備が整ってないこのタイミングで、開戦か。」

フィルードは立ち上がり、拳を握りしめる。

彼の頭の中には、北方に数十種類も存在する獣人たちの姿がよぎる。

支配者と呼ばれるのは「ブラッドミノタウロス」「ボア・マン」「ケンタウロス」の三種族だけ。ジャッカルマンはブラッドミノタウロスの眷属で、豚頭族はボア・マンの眷属に過ぎない。

――最初に遭遇した豚頭族たち、あれは本当に「純粋な」種族だったのだろうか?

フィルードの胸に嫌な想像がよぎる。

ボア・マンに強制的に占有された雌から生まれた混血……。

「……いや、考えるのはやめておこう。」

彼は頭を振った。

「絵に描いた餅戦略」

時は流れ、一か月。

フィルードは領地に大量の食糧を運び込み、すでにライ麦五万ポンド、大豆二万ポンドを蓄積していた。金貨百八十枚が消えていたが、まだ持ちこたえられる。

そして、外に出て傭兵を募集していた兵士たちが次々と帰還。フィルードは峡谷の外に並ぶ人々を見て、思わず頭を抱えた。

「多すぎる……!」

だが、彼の口元にはわずかな笑みも浮かんでいた。

「月給を銀貨六枚――ふむ、こう書いておけば……」

結果、競合相手は呆然とし、住民たちは熱狂。あっという間に大勢が集まった。最終的に六百人の新兵が加入。

「誠実さが通じないなら、策略を使うまでだ。」

フィルードは胸中でつぶやいた。

これで領地の総人口は千人を超え、豚頭族とジャッカルマンを含めると二千人近くになる。ただし、その大半は雇われ兵士だ。

北境詐欺センター、始動

新兵たちは老兵の指導で厳しい訓練を受けた。

だが昼食の時間になると――

「腹減った……!」

「俺もだ……!」

新兵たちがよろよろと並ぶと、ユリアンが鬼の形相で立ちはだかる。

「待て。お前たちが選んだのは『高給制度』だろう? ならば食事は自腹だ!」

「はぁ!?」

「黒パン一ポンド二銅芬妮! 軍用パンは二ポンド五銅芬妮! 干し肉は十五銅芬妮! 食べたければ買え!」

老兵たちはフィルードの合図で銅貨を受け取り、笑顔で黒パンを購入していく。

新兵たちは渋々銅貨を取り出し、最も安い黒パンを選んだ。

「……詐欺だろ、これ。」

「でも食べないと死ぬし……。」

フィルードは腕を組み、満足げに頷いた。

「よし、午後も訓練だ。」

策略の成果

三日三晩続いた訓練で、新兵たちは腰を痛め、背中を丸め、次々と脱落していった。

「団長様……もう無理です……!」

百人が辞職し、さらに百人以上が「食事付き制度」を選択。

「食事込みで給料は月銀貨一枚。それで良ければ残れ。」

最初は頑固に拒んでいた連中も、飢えと疲労に押し潰され、次第に折れていった。

「……もう、やるしかないか。」

「うん……死ぬよりマシだ……。」

最終的に六百人いた新兵のうち、残ったのは三百五十人。

「ふふ……これで本当に使える兵が揃ったな。」

フィルードは静かに笑みを浮かべた。

領地は今や、北境最大の「詐欺センター」と化していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ