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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第二卷 傭兵から商人へ② ――戦場の裏側で金を動かす

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第62章 鹸水と石鹸

峡谷の後方へと歩みを進めると、まずフィルードの目に入ったのは――領地に並ぶ水車だった。

「……もう四基もあるのか。」

二基は絶え間なく木材を切断し、残りの二基はライ麦と大豆を粉にして澱粉を作っていた。どうやら近いうちに、この領地は完全に自前で製粉できるようになりそうだった。

「順調だな。」と彼は満足げに頷き、さらに奥へと進んでいく。

やがて二人はいくつかのテントの前へ到着し、適当な一つを選んで中に入った――その瞬間。

「……っ! く、臭ッ!」

強烈な悪臭に、思わず気を失いそうになる。慌てて口と鼻を押さえ、フィルードは近くの羊毛を一掴みして観察した。

「これは……灰黒色……いや、汚れに覆われていて本来の色が分からないな。」

鼻をつまみながら彼は判断する。

ダービー城での未加工の羊毛価格は、1ポンドあたり3銅フェンニー。しかし今は獣皮価格が暴落しており、羊毛も例外ではなかった。

「この品質なら……1ポンド1銅フェンニーが妥当だろうな。」

彼は冷静に見積もりを下す。

もっとも、このままではどうしようもない。漂白する必要がある。そこで必要なのが――鹸水けんすい

「草木灰を燃やせばすぐ手に入る。簡単だな。」

だが次に必要になるソーダ灰は少し厄介だ。石灰石を焼かなければならず、窯の建設が必須となる。

「この作業は……あの63人の少年少女に任せよう。」

そう心に決める。ソーダ灰さえ手に入れば、石鹸の製造も可能になる。

「石鹸……この世界ではまさに大いなる武器だ。利益も軍資金も、一気に解決できるかもしれん。」

もし実現できれば、大量の奴隷や農奴を買い取り、真の軍隊を育てることすら夢ではない。


十日後。傭兵募集に出ていた隊が続々と帰還し、報告を受けたフィルードは目を丸くした。

「……四百人以上だと?」

だが喜びも束の間、彼はすぐに現実を直視する。

「……このうち二百人は体が虚弱すぎるな。療養が必要だ。」

残る二百人だけが、かろうじて戦える程度の体格だった。

彼は彼らをもてなし、二日間にわたって良い食事と酒を振る舞ったのち、広場に集めてこう告げた。

「明日から任務に出てもらう。ただし危険はある。覚悟のない者は残っても構わない。」

その一言に、新兵たちはざわめいた。

「……やっぱり危険なのか?」

「どうする……?」

結果、百人が即座に退却を選んだ。

「労働者になる道もある。食事はライ麦1ポンドとオート麦1ポンドだ。それが嫌なら立ち去ってもいい。」

そう説明すると、残ったのは七十人だった。

さらに八十人以上が「行けるが、しばらく休みたい」と表明する。やはり体力不足が響いていた。

「……ふむ、まあいいだろう。」

要求を受け入れると、百人以上が前向きに参加の意思を示した。残りの百人も、しぶしぶながら参加を決意した。

「……やはり質は落ちていくな。」

内心でそう結論づける。募集するたびに勇気ある自由民は減っていき、やがて遠方まで探しに行かなければならないだろう。

こうして人員を整理したのち、フィルードは大型馬車を駆ってダービー城へ向かい、雇い主に三百人以上の傭兵を引き渡した。

「裏切り? そんな心配はない。」

彼は確信していた。提供している待遇は他では真似できず、栄養を重視した訓練方針は唯一無二だ。

とはいえ雇い主たちは渋い顔をしていた。

「半分以上は戦闘力が低い……」

「だが、払っている額を考えれば仕方ないか……」

結局、彼らは歯を食いしばって受け入れるしかなかった。

フィルードはその足で馬の飼料を2車、ライ麦を10車購入し、再び峡谷領地へ戻っていった。


その時点で手元に残った兵士は163名。正規傭兵が143名、見習いが20名。そして体が弱い新兵が80名。

「……彼らが使い物になるには、あと一ヶ月は必要だな。」

さらに大規模な募集が不可欠だと悟ったフィルードは、思い切って老兵60名を派遣する決断を下した。

「金貨2枚を持たせて南方へ。募集条件は厳しくしろ。戦えない者は即解雇、知力に欠ける者も不要だ。」

競争が激しいこの時代、勝ち抜くには工夫も必要だった。

「他領主に負けそうなら、日給6銅フェンニーで募集しろ。ただし食事はなしだ。」

破格の条件だが、とにかく人を集めることが重要だ。

「一ヶ月以内に戻って来い。」

そう命じると、老兵たちは準備を整え、出発前に盛大な送別会が開かれた。

「資金を持ち逃げ? そんなことは気にしない。奴らの家は把握してある。」

フィルードは冷静にそう考えていた。


その後しばらく、領地には穏やかな時間が流れた。

フィルードは少年たちと共に石灰を使って鹸水を作り、時にはシャルドゥンと技術的な話を交わす。水車は十基に増え、小麦粉も自給可能になった。

さらに豚頭族奴隷の労働で森は急速に切り開かれ、数百畝に及ぶ広大な空き地が広がっていく。伐り出された丸太は木造の家へと加工され、やがて村の建設へと繋がるだろう。

数日間の試行錯誤で鹸水は完成した。量は少ないが、羊毛の洗浄には十分だった。

「次は……石鹸だな。」

だが、問題は油脂の入手だ。食料として重要なため、交換するには高い代償が必要だった。

それでも彼はダービー城で少量を購入した。

「……1ポンドで10銅フェンニーか。高すぎる。」

痩せた羊からは少量しか取れず、ほとんど食用にされる。せいぜい貴族の蝋燭に使われる程度だった。

フィルードは30ポンドの油脂を確保し、試験的に石鹸を製造。

「……おお、効果はいいな。ただし……臭いが酷い。」

強烈な獣臭が漂った。豚脂を使えば改善されるだろうが、近隣に養豚はなく、仮にあっても羊脂より高価になるのは目に見えている。

「となれば……獣人部族か。」

ローセイにジャッカル人を派遣し、協力関係にある小部族と羊脂を交換させることにした。

提示する条件は――羊脂1ポンドに対して麦酒1ポンド(つまり1カップ)。同意しなければ少しずつ値を上げるつもりだ。

さらに、新鮮な羊皮も買い取る計画を立てていた。羊皮1枚につき麦酒1カップ。そこから煮出せる油脂は半ポンド程度だが、確実な手段である。

「これで……石鹸生産への道筋は整ったな。」

フィルードは静かに息を吐き、次なる展望を思い描いていた。

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