第61章 領地初の産品
開拓者たちとの約束の日が近づいてきた頃――。
フィルードは、これまでに生産した木板をすべてまとめ、三台の馬車に積み込んで出発する準備を整えていた。
(……どの木材が一番高く売れるのか、実際に試してみないとな)
馬車を埋め尽くすほどの木板は、オーク材や杉材をはじめとする数種類。
そのすべてを売り払い、価格を確かめるのが今回の狙いだった。
護衛には百名の戦士。大所帯での出発である。
二日後。
一行はデビー城に到着した。フィルードはすぐさまブライアンに依頼し、物資の売却を手伝ってもらう。
結果――得られた金貨は三百枚以上。
これでフィルードの総資産は七百枚を突破することになった。
「……ふむ。思ったより良い数字だな」
木材の価格も一通り確認できた。
最も高価なのはオーク材。しかし、フィルードはその大規模伐採を望まなかった。
(ドングリの食用方法や醸造の研究にも使える……むしろ伐採より価値があるかもしれないな)
次に高価だったのは杉材。
乾燥させた雲杉の板一枚で八銅フェンニー、水分を含んだ生木板では五銅フェンニー。
馬車一台に三十枚積んでも五銀貨にしかならない。
「……まあ、無いよりはマシ、か」
食糧を買いに来る際、帰りが空車にならないだけでも価値はある。十台の馬車を動かせば金貨一、二枚程度にはなる計算だった。
(とはいえ……高価値の商品をもっと研究しなければな)
その後、軍を率いて城外に駐屯したフィルード。さらに一日待つと、約束の開拓者たちが続々と姿を現した。
面会に来たのは合計二十四名。
事前にブライアンから情報を得ていたが――彼らのほとんどには後ろ盾がなく、有力な家の者はすでに他の傭兵団を確保している。
フィルードがこれまで具体的な価格を示さなかったため、残っているのは「もしかすると安く雇えるかも」と望みを抱いた者たちばかりだった。
軍事キャンプに入った開拓者たちの目に映ったのは――。
整然と並ぶ百名の兵士たち。
特に最前列に立つ数十名の古参兵の精悍さは圧倒的で、荒々しい気迫を隠しきれない。過酷な戦場を幾度も経験したことが一目で分かる。
「……すごい兵士たちだ」
「これなら、雇う価値はあるな」
満足げなざわめきの中、フィルードが口を開いた。
「冒険心あふれる勇士の皆さん。我が傭兵団はいかがでしょうか? 獣人の部族とは五度、六度と交戦しており、豊富な実戦経験があります。雇って損はありません!」
場がややざわついたところで、半身鎧をまとった青年が一歩前に出た。
「確かに……素晴らしい兵士たちだ。ただ、雇用の価格は? 全員を雇うのは無理だ。だが、最前列にいる数十名の精鋭だけを……高値でも構わない」
すかさず隣の鎧姿の中年が嘲笑する。
「ヤーブンの若造……まったく、父親そっくりだな。どこへ行っても抜け目なく計算ばかりだ。誰が見ても、精鋭は前列の兵士たちだけだろう。お前が全部さらってどうする?」
「……っ!」
青年が言い返そうとした瞬間、フィルードが割って入った。
「皆さんが揃ったところで、具体的な話を進めましょう」
彼は笑顔のまま告げる。
「まず誤解のないように。我が部隊はこれで全てではありません。開拓領には別に二百名の兵士がおります。その三分の二を雇用に出す予定です」
「なっ……三百人……!」
驚きの声が上がる。
「ただし――価格は私が決めるのではなく、競売形式です。最高額を提示した方が雇用権を得られる」
場の空気が一変した。
(こいつ……抜け目がなさすぎる!)
心の中で悪態をつく者もいたが、仕方がない。
フィルードは小隊編成を説明した。
低級小隊:新兵主体。
10人編成は古参兵1名+長槍兵9名。
30人編成は古参兵3名+長槍兵27名。
中級小隊:古参兵が2名に増加。
高級小隊:古参兵4名を含む。
「雇用契約は毎月更新が必要です。ご希望の小隊を競売でお選びください」
何度か説明を繰り返し、ようやく全員が理解したところで――競売が始まった。
最初は通常の十人小隊。開始価格は月一金貨。
「二金貨!」
「二金貨五銀!」
予想以上の競争で、最終的に落札価格は二金貨に倍増した。
「……ふむ、悪くないな」
次は三十人小隊。開始価格は三金貨。結果、七金貨まで跳ね上がった。
中級編成、高級編成は入札がなく、結局通常小隊のみを競売にかけることに。
最終的な結果――
十人小隊:15組、平均価格2金貨15銀貨。
三十人小隊:6組、平均価格7金貨。
フィルードは、半月後にここで兵士を引き渡す約束を取り付けた。
こうして傭兵の競売会は終了した。
目的は単純――より多くの兵士を養い、自身の負担を軽くするためである。
帰路に際し、彼は黒麦を八車、酒水を二車、馬の飼料を二車購入。
さらに、正規傭兵、見習い、新兵それぞれに追加手当と一ヶ月分の食糧を支給することに決めた。
数日後。峡谷領地に戻ったフィルードを出迎えたのは、慌てて駆け寄るケビンだった。
「団長様! 留守の間に、多くのジャッカルマンが羊毛を運んでまいりました。事前の約束通り、彼らには十分な酒水を渡してあります!」
「そうか……!」
その報告を聞いた瞬間、フィルードの顔には思わず笑みが広がった。
「よし、見に行こう!」




