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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第二卷 傭兵から商人へ② ――戦場の裏側で金を動かす

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第59章 ブルースの負傷

ちょうどその時だった。

敵の豚頭族騎兵も、マイクたちに向かって手斧を投げつけてきた。だが距離が遠すぎたのか、その刃は空しく地面に突き刺さり、誰一人として命中しなかった。

「よし、このまま抜けろ!」

マイクは号令をかけ、馬隊を率いて一気に通り過ぎていく。

大きく旋回した後、彼らは再び戻ってきて、今度は準備していた投槍を一斉に放った。鋭い金属音とともに、数本の槍が敵陣に突き刺さり、豚頭族の騎兵を二名、馬ごと地面に叩き落とす。

残った十一名の豚頭族騎兵は一瞬で意気を失い、もはや攻勢を仕掛ける気配をなくした。彼らの士気は瞬時に反転し、攻守は完全に逆転する。

丘の上でも同様だった。人間側の隊列に押され、豚頭族の兵は次々と後退させられていく。

豚頭族の首領はその光景を見つめ、眉間に皺を刻んだ。

(……勝ち目がない。このままでは全滅だ)

しかし、彼は即座に撤退を命じることはできなかった。すでに両軍は入り乱れ、戦場は混沌の只中。ここで背を向ければ、待っているのは秩序なき大敗北だった。

「……ならば、後方を叩くしかない!」

首領は護衛の豚頭族に命令を飛ばした。敵軍の両翼をすり抜け、後方の混乱している兵を襲撃せよ、と。

その命令を受けて突撃したのは、この部族の中でも選りすぐりの精鋭たち。

彼らは巨躯を誇り、全員が蛮牛の革鎧を身につけていた。前線の古参兵たちが必死に進撃を止めようとしたが、厚い鎧に阻まれ、突破を許してしまう。

「くっ、止めきれない……!」

数十名の豚頭族兵が突破に成功し、後方の軍陣に乱入した。

その光景は、まるで羊の群れに狼が紛れ込んだかのようだった。

「うわあああっ!」

「た、助けてくれ!」

新兵たちは悲鳴を上げ、次々と石斧に斬り伏せられていく。

鋭い刃はまるで死神の鎌。訓練の浅い彼らでは抵抗もままならず、戦場は瞬く間に大混乱へと変わった。

「……やばい、崩れる!」

その惨状を見たフィルードは、即座に決断した。

「ブルース! お前が部下を率いて新兵を支援しろ! 弓兵は全員、両手武器に持ち替えて同じく援護だ! ――絶対に後方を立て直せ!」

叫びながらも、彼自身は弓を手に、迫り来る豚頭族兵を射抜いていく。次々と矢が放たれ、敵兵が地面に崩れ落ちた。

「了解!」

命令を受けたブルースは、大剣を構えた数十名の古参兵を率いて後方へと走る。弓兵たちも武器を大剣へと持ち替え、戦列に加わっていった。

フィルードはその隙を突き、再び豚頭族の首領に狙いを定める。

「今度こそ仕留める……!」

弦を放つ音が戦場に響き、矢は一直線に首領の首筋を目がけて飛んでいった。

だが――。

「……ッ!」

魔力を失ったとはいえ、超凡者の感覚は常人とは桁違い。首領は本能で危険を察知し、頭を横にそらす。矢は急所を逸れたが、それでも肩甲骨に深々と突き刺さった。

「やっと命中したか、このクソ野郎!」

フィルードは思わず罵声を吐き出した。無理もない。戦いの最中、彼は少なくとも八本の矢を放っていたが、そのすべてをかわされてきたのだから。

矢を受けた首領もまた尋常ならざる胆力の持ち主だった。苦悶の声ひとつ上げず、無造作に矢を引き抜き、肉片ごと投げ捨てる。

「来い!」

ブルースが大剣を振りかざし、首領に切りかかる。

だが相手は左手に矢を握り、右手の斧を振り下ろして応じてきた。

「ドカッ!」

衝撃音が響き、ブルースはたまらず後退を余儀なくされる。

次の瞬間、首領は素早く踏み込み、手にした矢を突き出した。

「しまった――!」

体勢を立て直したばかりのブルースには、完全に避ける余裕はなかった。

辛うじて身をひねったものの――

「ブスッ!」

鋭い音と共に矢が腕に突き刺さった。

「ぐっ……!」

「ブルースッ!」

それを見たフィルードは、歯を食いしばる。弓を投げ捨て、盾を掴むと全力で駆け出した。

首領が斧を振りかざし、ブルースに止めを刺そうとした瞬間――

「うおおおっ!」

フィルードは全身の力で体当たりを放ち、首領の巨体を地面に突き倒す。

「今だ!」

傍らの古参兵が即座に反応し、槍を突き込む。

「ブスッ!」

鋭い穂先は首領の太腿を貫通し、そのまま地面に縫いつけた。

「ぐ、うああああああっ!」

さすがの首領もついに悲鳴を上げる。

さらに弓兵あがりの古参兵が駆け寄り、大剣を振り下ろした。首筋を狙った一撃を、首領は必死に斧で受け止める。火花が散り、両者は力比べに入った。肩の負傷がなければ、兵士など瞬時に叩き伏せられていたはずだ。それほどまでに、この首領は怪物だった。

「ぐっ……ここで終わらせる!」

フィルードも駆け寄り、片手剣を振り下ろす。刃が肉を裂き、骨を断つ感触が手に伝わる。

「はああああっ!」

ためらうことなく強引に切り裂き、首領の首筋から鮮血が噴水のように吹き出した。

「ゴボッ……ゴボ……!」

壊れたふいごのような音を漏らしながら、首領の瞳孔がゆっくりと収縮していく。そして、ついに力尽きた。

「……終わった」

フィルードは剣を数度振り、最後に首領の首を切り落とすと、それを呆然と見ていた通訳に押し付けた。

「叫べ! お前たちの首領は死んだとな! 無駄な抵抗はやめろ、降伏しろ! さもなくば一人残らず殺す!」

通訳の声と同時に、高く掲げられた首領の首。

それを見た豚頭族の兵士たちは、戦意を一気に喪失した。

「そ、そんな……」

「首領が……!」

中には狂気に駆られ、最後の抵抗とばかりに人間の兵を切り伏せる者もいた。だが、大半は武器を捨て、蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。

残ってなお戦おうとした者は、瞬く間に兵士たちに囲まれ、ハリネズミのように槍で突き殺された。

「追撃せよ! 一人残らず仕留めろ!」

フィルードの声に応じ、兵たちは一斉に敗走する敵を追いかけた。

「はぁ……はぁ……」

走りながら、フィルードは息を切らしていた。心の中で、馬に乗れるマイクたちを羨ましく思う。

三十分に及ぶ追撃の末、生き残って逃げ続ける豚頭族は五十名にも満たなかった。

やがて、馬を駆るマイクたちが戻ってきた。

「隊長! 我々は豚頭族騎兵を八名討ち取りました! 残りの七名は森に逃げ込みましたが……木々に阻まれて追撃できませんでした!」

「よくやった!」

フィルードは満面の笑みでうなずいた。

「今すぐ騎兵を率い、逃げ残った敵を追え! 一人でも多く討ち取れば、我々が奴らの本拠地を攻める時の負担が減る!」

「承知!」

マイクは力強く返事し、再び騎兵を率いて敗残兵を狩りに走った。

その連携は見事で、秋の風が枯れ葉を掃くように、逃げ惑う豚頭族は次々と斬り伏せられ、森へ逃げ込んだごく一部を残して殲滅された。

戦いの後、フィルードは新たな指示を飛ばす。

「マイク! 騎兵を率いて先にあの部族を封鎖しろ! 年寄りや子供どもが家畜を連れて逃げ出すのを防ぐんだ。

ユリアン! お前は五十名の新兵を連れて負傷者の手当てをしろ。戦場整理もだ。投槍や矢を一本でも多く回収しろ。……ブルースも負傷している、連れて行ってやれ。

俺は先に部族を包囲しておく。投槍を運んできたら、総攻撃だ!」

部下たちはそれぞれうなずき、行動を開始した。

二時間後。

フィルード率いる兵士は、ついにその中規模の豚頭族部族の拠点に到達した。

中はすでに大混乱。フィルードは通訳に命じ、大声で叫ばせる。

「豚頭族どもよ、聞け! お前たちの首領は討ち取られた! 武器を捨て、すぐに降伏せよ! さもなくば、老いも若きも一人残らず殺し尽くす!」

動揺に包まれた部族の中では、叫びが混乱をさらに広げていく。

やがて数人の年長者が必死に叱咤し、かろうじて秩序を取り戻し始めた。

白い毛を生やした一人の豚頭族が、震える声で部族から現れる。

「に、人間よ……我ら『赤いレッドファング』部族は、何を差し出せば見逃してくれるのだ?」

「交渉の余地などない!」

フィルードは即座に切り捨てる。

「今すぐ降伏しろ! さもなくば皆殺しだ! 俺のそばにいる鉄甲兵の力を疑うな。お前たち老いも若きも……鶏を屠るより容易く殺してみせる!」

その言葉に、場の空気は凍りついた。

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