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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第二卷 傭兵から商人へ② ――戦場の裏側で金を動かす

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第58章 初めての超凡者との交戦

「全軍、撤退を急げ!」

フィルードの鋭い声が戦場に響いた。軍隊に迅速な後退を命じた後、彼は馬車の中に腰を下ろし、目を閉じて瞑想を始める。今は一刻も早く魔力を回復することが何より重要だった。

やがて一行はしばらく進み、小さな土の丘を見つけた。傾斜は緩やかで、天然の要塞というには頼りないが、急場しのぎとしては悪くない。

「……ここだ。周囲の岩や丸太を集めろ。重いものなら何でもいい」

兵士たちは慌ただしく動き出し、丘の周辺に散らばって転がっている岩や倒木を運び始める。騎兵たちはさらに外側を巡回し、敵の動向を監視していた。

フィルードは地面に腰を下ろし、再び深く息を整えた。魔力が少しずつ満ちていく感覚が心地よい。時間との勝負だ。

約一時間後──。

「来たか」

遠方に土煙が立ち、敵軍の影が見えた。豚頭族たちの部隊である。彼らは他の小部族とは違い、装備が一段上だった。特に目を引いたのは、百名近い戦士たちが身につけている蛮牛の革鎧。その頑丈さは、並の武器では貫けそうにない。

だが、奇妙なことに彼らはすぐに攻撃を仕掛けてはこなかった。敵軍全体が腰を下ろし、丸々三十分も休息を取っている。

「……ふん、余裕を見せているつもりか」

フィルードは目を細め、魔力の回復を急ぎながら敵の動きを観察する。やがて豚頭族の騎兵十数名が先行して動き出した。彼らの狙いは明らかだった。人間側の騎兵を叩き潰すこと。

数で劣るマイクは、正面からの衝突を避け、巧みに外周を回り続ける。まるで獲物を追い詰める狼と、必死に間合いを外す鹿のような攻防だった。

一方で、豚頭族の歩兵も前進を開始したが、その隊列はお世辞にも整っているとは言えない。だらしなく、隙だらけだ。

フィルードは静かに立ち上がり、声を張り上げた。

「今だ!岩と丸太を落とせ!この豚頭族どもを粉砕しろ!」

その号令と同時に、丘の上から無数の岩や丸太が転がり落ちていく。ごろごろと響く轟音。

「ぐおおおおおっ!」

豚頭族の首領が血相を変え、怒鳴った。

「散れ!散開しろ!」

だが命令は遅すぎた。勢いを増した岩と丸太は、まるで狂った獣の群れのように中腹を襲い、悲鳴と骨の砕ける音が混ざり合う。

「……よし、少なくとも数十は潰したな」

フィルードの目が細められる。視界に映るのは、無惨に転がる豚頭族たちの姿。だが首領の必死の叱咤によって、敵は再び陣形を立て直し、丘を登ろうとしていた。

「……もう少し準備できていれば、大損害を与えられたんだが」

悔しげに息を吐くフィルード。しかし今は考えるより動く時だった。

「隊列を組め!ユリアン、お前は部隊を率いて最前線だ!弓兵は丘の上へ!刀盾兵は前へ!槍兵は中央を固めろ!」

号令は瞬時に浸透し、兵士たちは秩序立って動く。フィルード自身も弓を手に取り、矢を番えた。体内の魔力は完全に回復している。だが撃てる矢は三本だけ──ここぞという場面で使わなければならない。

「……狙うは首領。ただ一撃で仕留めれば終わる」

距離は150メートル。フィルードは深く息を吸い込み、弓を引き絞る。放たれた矢は音を切り裂き、一直線に首領へと飛んだ。

だが──。

「チッ……!」

首領の腕に巻かれた小さな盾が光を帯び、矢を弾き砕いたのだ。

「……やはり、そうか。こいつも超凡者か!」

フィルードの心臓が跳ねる。戦場において、また一つ危険な変数が増えた。

彼は迷わず再び矢を放つ。しかし結果は同じ。盾の魔力が矢を防ぎ止める。

「ならば……削るしかない。魔力を消耗させるんだ!」

もし近接戦闘になれば、相手の膂力と魔力強化が合わさり、ブルースですら一撃で倒される可能性がある。だからこそ遠距離から矢で牽制するしかなかった。

矢と盾の攻防が繰り返されるうち、敵は100メートル圏内に突入。フィルードは弓兵に命じる。

「放て!」

矢の雨が空を覆い、放物線を描いて敵陣に降り注いだ。高所から放たれた矢は威力を増し、豚頭族の戦士たちを次々と地面に沈める。

敵も反撃の矢を放つが、その弓は粗悪品ばかりで威力も精度も低い。人間の兵士たちは頭を下げることすら面倒がるほどだった。

「……ふん、脅威にはならん」

矢の応酬が数度続いた後、両軍の距離は30メートル。すでに豚頭族の死傷者は八十を超えていた。

「投槍、準備!」

フィルードの合図とともに、兵士たちが槍を構える。敵が十メートルに迫った瞬間──。

「放てぇぇ!」

轟音と共に投げられた無数の槍が、豚頭族の前列を薙ぎ払った。突撃の勢いは一気に削がれ、戦線は後退する。

「勇士たちよ!突撃だ!敵を殺せば羊一頭!首領を仕留めた者には牛を一頭やる!」

首領の叫びが響き渡ると、豚頭族たちは再び雄叫びを上げ、怒涛の突撃を仕掛けてきた。

だが、それを待ち構えていたのは第二波の投槍だった。熱狂に駆られた彼らの身体は、鋭い槍に貫かれ、屠殺場の豚のように地へと転がる。

「……来い。丘は我らの刃だ」

一部の幸運な豚頭族が前線まで辿り着いたが、鋭い長槍が彼らの胸を貫き、瞬時に息絶える。丘は血に染まり、戦場の臭気をさらに濃くしていた。

やがて首領の顔に焦りが浮かぶ。撤退を考え始めたその時──。

遠方に新たな土煙が上がった。

「……戻ってきたか」

フィルードは目を細め、大声で命じた。

「隊列を保て!ゆっくり前進だ!奴らを丘から追い落とせ!マイクたち騎兵を迎え撃つぞ!」

兵士たちは鬨の声を上げ、前進を開始。人間側の騎兵も正面から突撃し、数十メートルの距離で一気に散開した。

「今だ、投槍!」

次の瞬間、三人の豚頭族騎兵が馬上から落ち、戦場に叩きつけられた。

戦いは、ついに白熱の極みに達しようとしていた。

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