第57章 中型部族への積極的な攻撃
「団長、今回デビー市に行った時、ブライアンがあなたへの伝言を頼んできました」
マイクが真剣な顔で切り出す。
「……伝言?」フィルードは眉をひそめる。
「はい。多くの開拓者たちが団長に会いたがっているそうです。もしお時間があれば、7日後に酒場で彼らと会って、雇用の件を相談してほしい、と」
「ふむ……」フィルードは少し考えてから、静かに答える。
「わかった。その時に考えよう。雇用を受け入れるかどうかは、この戦いの結果次第だ。損害が多すぎたり、逃げ出す者が多すぎたりしたら、見送るしかない」
「了解しました」
マイクは頷き、仲間たちはそれぞれ兵を動員するために散っていった。
翌日の早朝。
峡谷の外には、すでに300人を超える兵士が整列していた。今、動員できるすべての戦力がここに集まっている。
昨晩、臆病風に吹かれた40人は、フィルードによって「一生涯の労働者」として扱われることが決まった。昇進の機会は一切なし。嫌なら勝手に出て行け――そう突き放したのだ。
戦列を眺めながら、フィルードは冷静に頭の中で数を整理する。
「正式な傭兵は……俺を含めて119人。見習い傭兵は216人。そして、ハイエナ戦士が30人か」
十分すぎる戦力だ。だが、この戦いに敗れれば全てが水泡に帰す。
フィルードは決断を下した。
古参傭兵10人と、意識の高い見習い傭兵30人を領地防衛に残し、残り全軍を率いて中型部族へと進軍する。
一行は日が暮れるまで歩き続け、そこで野営を行った。
夕食を終えるとすぐ休息に入り、周囲には多くの歩哨が配置される。
フィルードの胸中には明確な作戦があった。
「明朝、敵が反応する前に、小型部族をひとつ潰す。そうすれば、少なくとも敵の戦力を50は削れる。運がよければ二つ、いや全部……」
しかし、もし敵が素早く反応すれば、正面衝突は避けられない。
覚悟を決めたまま、夜は更けていった。
夜明け。
部隊は静かに出発する。
小型部族に近づいた時――
「グァァッ!」
狩りに出ていた豚頭族の戦士と鉢合わせになってしまった。
奴らは一瞥するなり、大声で叫びながら部族の方角へ走り出す。
「……バレたか!」
もはや隠す必要はない。フィルードは即座に号令を下す。
「全軍、急行!」
数分後、部族の外にはすでに50人近い豚頭族戦士が集結していた。
フィルードは通訳に命じる。
「彼らに伝えろ――武器を捨てて降伏すれば、命は保証する」
通訳が必死に叫ぶが、豚頭族の首領は怒声を返すばかりだった。
「卑しい人間どもめ! 黒森部族を侵すなど万死に値する!」
「すでに大首領に使いをやった! ここで震えて待つがいい、首領が来たら誰一人逃がさん!」
フィルードは鼻で笑う。
「無駄だな。……隊列を組め!傭兵団、前進開始!」
兵たちは補給品を地面に置き、迅速に方陣を形成する。
ゆっくりと前進を始める彼らの中心で、フィルードは弓を引き絞った。
魔力を二本の指に集中させると、全身の力が一気に高まる。
矢は満月のようにしなり――
「ヒュッ!」
音を裂いて放たれた矢は、150メートル先の豚頭族の胸を正確に貫いた。
「ぐあっ!」
悲鳴と共に倒れる豚頭族。
呆然とする首領。
「なっ……遠距離から一撃で……!?」
常識を超える命中に、首領の顔から血の気が引いた。
「盾を構えろ! 敵には魔術師がいるぞ!」
叫び声が響いた瞬間、豚頭族たちは混乱に陥った。
だがフィルードは止まらない。二射目、三射目と次々に矢を放ち、敵兵を確実に仕留めていく。魔力が尽きた時、すでに距離は100メートルを切っていた。
「弓兵、射撃開始!」
一斉に放たれた30本の矢が空を覆い、イナゴの群れのように敵陣に降り注ぐ。
たちまち5人が倒れ、悲鳴が戦場を満たした。
首領の顔に浮かぶのは恐怖のみ。
「退却だ! 部族へ退け! 大首領が来るまで持ちこたえろ!」
しかしフィルードは冷徹だった。
「投槍用意――投げろ!」
矢の雨に続いて放たれた槍が、豚頭族たちを次々と貫き倒す。二度の投槍で戦列は崩壊。
「突撃!」
鉄甲兵が先頭に立ち、ユリアンとブルースが巨剣を振るいながら突入する。
「どけええぇ!」
「まとめて斬り伏せてやる!」
ブロードソードが振るわれるたびに豚頭族の血が飛び散り、部族の防衛線は一瞬にして瓦解した。
中央で叫び続けていた首領。
――その喉元を、フィルードの矢が正確に貫いた。
「……っ!」
首領が崩れ落ちると同時に、豚頭族たちは完全に戦意を失った。
次々と武器を捨て、地面にしゃがみ込む。
「降伏か……なら徹底的に縛り上げろ!」
フィルードは的確に指示を飛ばしていく。
「ブルース、戦場を片付けろ!矢や投槍の回収も忘れるな!」
「ユリアン、降伏者を拘束しろ!」
「マイク、騎兵を率いて中型部族の様子を探れ。援軍までの距離を確認しろ!」
「ローセイ、ハイエナ戦士を率いて家畜を追い出せ!」
矢継ぎ早に飛ぶ命令に、兵たちは迅速に行動を開始する。
この戦いで殺した豚頭族は62人。そのうち戦士は30人、残りは老人や子供だった。
対してこちらの死者はゼロ。負傷者も軽傷二人だけという圧倒的勝利だった。
だがフィルードに余裕はない。
部隊はそのまま進撃し、もう一つの小型部族を壊滅させた直後――
「隊長!」
マイクが馬を駆って戻ってくる。
「敵の大部隊は、我々から二十里足らずの距離にいます!人数はおよそ三百、騎兵は十六!」
「……やはり来たか」
フィルードは冷静にうなずきながらも、胸中には緊張が走る。
――ここからが本当の勝負だ。




