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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第二卷 傭兵から商人へ② ――戦場の裏側で金を動かす

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第54章 騎士の開拓証明書を申請する

 ブライアンはジョッキを傾け、大きく息をついた。

「……だがな、フィルード。お前にはっきり言っておく。この“開拓証明書”ってやつ、正直おすすめはしない。」

「?」

 フィルードが眉をひそめると、ブライアンは苦笑しながら続けた。

「俺は貴族の家に生まれた。だから裏事情はよく知ってるんだよ。この政令は――表向きは“誰でもチャンスがある”って顔をしてるが、実際は貴族の次男や三男のために作られた制度だ。大商人や大傭兵団がちょっと儲けることはあるかもしれん。だが、結局のところ、彼らは貴族から見ればただの駒、砲灰にすぎない。獣人にぶつけるための消耗品ってわけだ。」

「砲灰……か。」

 フィルードはむしろブライアンが遠慮なく本音を口にしてくれたことを嬉しく感じた。心の距離が少し縮まった気がしたのだ。

「兄貴の言いたいことはわかるよ。だが、俺にはもう準備してきたものがあるんだ。」

 そう言って、彼は思い出を語るように口を開いた。

「この前、一緒に討伐した豚頭族の部落を覚えてるか? あそこは峡谷にあって地形が険しい。守りやすく攻めにくい。実はあの時から俺は動き始めていたんだ。もう木の塀も築いてある。まだ粗末だが、これから補強すれば十分にやれる。生産活動だって始められるさ。」

 ブライアンの瞳が一瞬、光を帯びた。だが次の瞬間には、険しい顔に戻る。

「……半分は成功できるだろうな。だが、忘れるな。あそこは今や獣人の領域だ。一度“大部落”が出れば、数百、数千規模の軍勢になる。お前の塀なんて木の枝同然に踏み潰されるぞ。危機は必ず来る、その覚悟はしておけ!」

 フィルードは真剣にうなずいた。

「もちろんだ。どうにもならなければ、すぐに引き上げる。命を捨てるつもりはない。……ところで兄貴、あの辺りの開拓証明書、相場はいくらぐらいなんだ?」

「詳しい価格までは知らん。ただ、あそこは危険地帯だから高くはないはずだ。」

 ブライアンは首を振る。

「食事が終わったら仲介人を紹介してやる。正確な金額を聞けばいい。」


 二人はしばらく世間話を交わし、食事を済ませた。

 その後、ブライアンはフィルードを連れて、とある大きめの酒場に入る。

 店員に事情を告げると、すぐに二階の個室に案内された。

 そこには、立派な貴族服をまとった中年騎士が、姿勢正しく座ってビールを飲んでいた。

「騎士様、お目にかかります!」

 フィルードとブライアンは同時に頭を下げた。

「……座れ。」

 騎士は手をひと振りすると、鞄から地図を取り出した。

「さて。どの土地の開拓権を希望する? ただし、この赤線の内側は選べんぞ。」

 広げられた地図を見て、フィルードは息をのんだ。赤線は人間族の村に隣接する場所をすべて囲んでいる。――つまり、安全な地域は最初から除外というわけだ。

(なるほど……安全圏は門前払い、か。)

 地図自体はあまりにも大雑把で、素人目には違いが分かりにくい。だが、ブライアンの目は鋭かった。

「騎士様、ここの区域の証明書を得るには、どれほどの金貨が必要でしょう?」

 騎士はちらっと地図を見ただけで答えた。

「ここは危険度ランク二位。安いぞ、たった100枚の金貨だ。ただしコストパフォーマンスは悪い。安全なエリアは高いが安心感がある。逆に一か八かで行くなら、最も危険なエリアが良い。わずか50枚の金貨だ。」

(……なるほど。命と財布、どっちを取るかってわけだな。)

 ブライアンは即座に媚びた笑顔を浮かべる。

「おっしゃる通りです、騎士様! ですが、この場所にぜひ欲しい地形がございまして……。どうかお力添えを!」

「ふむ。そこまで言うなら――まず手付金50枚を納めよ。伯爵府に案内してやろう。」

「はい!」

 フィルードは即座に懐から金貨袋を取り出し、50枚を恭しく差し出した。

 その後、騎士に導かれ、城の中心部――伯爵城の隣にある市庁舎へ向かう。

 手続きは煩雑で時間がかかったが、最終的にフィルードは“開拓証明書”を手に入れた。

 合計105枚の金貨が消え、手持ち資金は一気に4分の1に減ってしまった。

(……重いな。だが、これで領地が“合法”になった。)

 ブライアンに礼を述べ、さらに5枚の金貨を渡そうとしたが、彼は断固として受け取らない。少し言い合いになりかけたが、最終的に「領地が完成したら見に来てくれ」と約束することで落ち着いた。


 市庁舎を後にしたフィルードは、その足で奴隷市場へと向かった。

「証明書を得た以上、生産に取り掛からねば……今、金になるのは林業だな。」

 頭の中で計算を巡らせながら、市場を歩き回る。だが――

「職人……全然いないな。」

 木工職人を探していたが、見つかるのは徒弟ばかり。数少ない“職人”も話を聞けば素人同然だった。

 とはいえ手ぶらでは終わらなかった。市場の隅で骨と皮ばかりの少年少女を見つけたのだ。栄養失調か寄生虫か、まともに働けるかも怪しい。だが価格は異常に安い。

「一人あたり銀貨10枚……白菜並みか。」

 結局、男の子37人、女の子26人、計63人を買い集めた。総額は金貨21枚。

(労働力は確保したが……職人がいないと始まらん。)

 最後の望みをかけ、彼はデビー城最大の奴隷商館へ足を運ぶ。

「いらっしゃいませ! 本日はどのような奴隷をお探しで?」

 出迎えた店員に、フィルードは率直に告げた。

「正式な木工職人を一人。それと鍛冶師の徒弟を一人。……だが、偽物を掴ませるんじゃないぞ。」

 店員の目が一瞬で変わった。

「お客様、職人をお求めでしたか。それなら……すぐに主人をお呼びいたします。」

 やがて現れたのは太った中年の奴隷商人。

「ようこそ、尊いお客様。お探しの職人は裏庭におります。どうぞこちらへ。」

 案内された小屋の中には、簡素なベッドが並び、28人の奴隷が暮らしていた。

「ここにいるのが全員です。木工職人は9人。ただし正式な職人は4人だけ。技術と人柄に応じて値段が違います。――40、60、80、100枚の金貨。」

 奴隷商人は指を一本一本折りながら、にやりと笑った。

「もちろん、値引きは一切ございません。」

(……高ぇ……! けど、ここで妥協したら領地経営が破綻する。)

 フィルードは額に汗を浮かべながら、目の前の職人たちをじっと見据えた。

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