第53章 開拓法案の衝撃
ケビンが頷きながら報告を始めた。
「はい、後で労働時間を割り当てに行きます。それから……団長様が不在の間に、実は3組の人間がやってきました」
「三組?」
フィルードは眉をひそめる。
「ええ。彼らは私を試すようにして、団長様の情報を引き出そうとしたんです。それだけじゃありません……この峡谷を金で買い取ろうとまでしてきました。最高で金貨60枚の提示がありましたが、もちろんすべて断りました」
その言葉に、フィルードの表情が一瞬で引き締まる。
心臓がどくりと高鳴った。
(俺はただ真面目に商売をしていただけだ。それなのに、もう本拠地に目を付けられているのか……!)
「ケビン、お前の判断は正しかった。これからどんな連中が来ても、必ず断れ」
「承知しました」
「数日のうちに俺がデビー城へ行き、開拓証明書が手に入るかどうか確かめてくる。……よし、労働者の手配をしてくれ」
「かしこまりました」
ケビンが去った直後、今度はゾーンが慌ただしく駆け寄ってきた。
「団長様! 療養していた兵士たちを連れ戻しました」
「ほう……」
「ですが……3人の負傷兵は耐えられず……亡くなりました。戻れたのは15人のみです」
ゾーンの声は沈んでいた。
「その中の1人は片腕を失い、2人は足の腱を切られ、さらに1人は胸を長槍で貫かれていて……ずっと息苦しそうにしており、激しい活動は無理です。……この4人をどう処遇なさいますか?」
フィルードは一切ためらわなかった。
「彼らに聞いてみろ。家に帰りたいか、それともここに残りたいか。もし家に帰りたいなら――傭兵団が存続する限り、毎月銀貨1枚を支給する。ここに残るなら、毎日2ポンドのパンと毎月銀貨1枚、それに数日おきに肉も食わせる。もちろん、労働者の管理や兵士の訓練など、領地のための任務は果たしてもらう」
フィルードは続けた。
「もし家族がいるなら、連れてきても構わん。領地として家族に毎日黒パン1ポンドを支給する。……ケビンに伝えておけ。今後の負傷兵も同じ規則を適用するとな」
「はっ!」
ゾーンはすぐに数人の古参兵のもとへ戻り、この方針を伝えた。
だが――最終的に、誰一人として去ることを選ばなかった。
(……一気にこれほど食い扶持が増えるとはな)
フィルードは思わず頭をかきむしった。
現在の領地の総人口は――驚愕の411人。
その内訳は、奴隷9人、正式傭兵が自分を含めて119人。
見習い傭兵は18人(体質の弱い者たちだ)。
さらに訓練中の調査員が120人。あと1ヶ月訓練すれば、まともにこなせる者は見習い傭兵に加わるだろう。
労働者は144人。基本的には体質の弱い者ばかりで、少なくとも半月の療養が必要。
(……数だけ見れば立派な集団だ。だが、養うのは地獄のように大変だな)
フィルードはため息を吐きつつ、労働者たちの食事を見直すことにした。
基準は傭兵と同じ。
つまり毎日1.5ポンドの特製軍糧と肉3分の1ポンド。
「体力を回復させるには、どうしても栄養が必要だ」
しかしその費用は――天文学的な数字だった。
(毎月80枚以上の金貨……! 干し肉が比較的安価だからまだこの程度で済んでいるが……)
幸い彼は大量の家畜を所有しており、穀物だけを食べさせれば費用を半分に抑えられる。
翌朝。
フィルードは商隊を率いてデビー城へ向かった。
目的は大規模な買い付け。
城に入ると、まず向かったのは――ブライアンの店。
「おお、フィルード! 久しぶりだな。最近は一体何をしていた?」
ブライアンが笑顔で立ち上がる。
フィルードも笑みを返した。
「部下を率いて近くの地形を調べていたんです。ついでに、獣人とちょっとした商売も」
「……お前というやつは、本当にじっとしていられんやつだ」
ブライアンは苦笑し、すぐに店員に声をかけた。
「よし、兄弟、酒場でゆっくり話そう。ちょうどお前に話したいことがあるんだ。――傭兵の春が来るかもしれん」
2人は酒場に移動し、豪華な酒と料理を注文した。
席に着くと、ブライアンはいきなり本題に入った。
「兄弟、お前は本当に金持ちになるかもしれんぞ」
「……は?」
「ここ数日、ほとんどの酒場の店員が俺のところに話を持ち込んできたんだ。お前たちの傭兵団を雇いたい、と。少なくとも20以上だ」
「20……!?」
「提示された価格はさまざまだが、最低でも1人あたり1日5枚の銅ファニー。高いところでは10枚に達する。――彼らは皆、北部の荒野に開拓領地を建設しようとしている」
「開拓、か……」
「もちろんある程度危険はある。だが価格は確かに悪くない」
フィルードは考え込んだ。
(俺が1級傭兵を養うのにかかるコストは……毎日6〜7枚の銅ファニー。つまり利益はほとんど出ないが、それでも軍を維持できる)
下級士官を核とし、正式傭兵を少数補助に回し、さらに数十人の見習い傭兵を加えれば――基本的な戦闘力を持つ護衛団が編成できる。
(……悪くない。これなら軍を拡大できるかもしれん)
フィルードはビールを一口飲み、ブライアンに向き直った。
「兄貴。俺が傭兵を養うコストは知っているだろう? 確かにこの価格は少し低い。だが、俺の大きなプレッシャーを軽減してくれるのは確かだ。……後で人を送って、その酒場の店員たちと連絡を取り、依頼主と会う約束をしよう」
ブライアンは満足げに頷く。
「それと兄貴。……どうして急にこんなに開拓領地が増えたんだ? 彼らはどうやって開拓証明書を?」
ちょうど料理と酒が運ばれてきた。
ブライアンはビールをぐいっと飲み干し、にやりと笑う。
「先日、ディオ伯爵が開拓法案に署名したんだ」
「開拓法案……?」
「ああ。その主な内容は、獣人部落を3つ滅ぼせば、開拓証明書を1枚手に入れられる、というものだ」
「なるほど……」
「だが、これは表向きの話だ。実際にはコネがあれば、金貨を納めるだけで直接証明書がもらえる。だから短期間で領地が一気に増えたのさ」
フィルードは驚きと同時に納得した。
(そういうことか……もし新しい開拓領が全部で3つの小部落を滅ぼすとしたら、北部の獣人は根こそぎ掃討されることになるな)
フィルードはさらに問いかけた。
「兄貴、これはいくらするんだ? 兄貴にコネはあるのか? もし安ければ、俺も1枚欲しい」
ブライアンは特に驚きもせず、淡々と答えた。
「難しい話じゃない。こういう案件を専門に扱う仲介人がいる。荒野のどの辺りかによって値段は変わる。人間族の領土に近いほど高く、遠いほど安い。全体では金貨50〜500枚の範囲だな」
「……意外と幅があるな」
「ただし――勘違いするなよ。奴隷を数人買って放り込み、獣人に殺させただけで貴族の称号がもらえる、なんて甘い話じゃない」
ブライアンの顔が厳しくなる。
「この政令には明確な規定がある。まず開拓領地に1年以上駐在しなければならない。それに50畝以上の土地を開墾する必要がある。さらに、1年守り抜いたとしても領地が落ちた場合、貴族の称号を保持したいなら――その土地から得られる小麦の2割を納めなければならない」
「……なるほど」
「平時なら一般人でも達成できるかもしれんが、今の状況では非常に困難だ。本当に基盤を持つ家族だけが成し遂げられる条件だ」
ブライアンの言葉は重く、酒場の喧噪の中でも鋭く響いた。
PS:今日は週末なので、おまけでもう一章加筆しました!✨
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