第49章 辛勝
敵騎兵が一瞬、騎馬槍を捨てて馬から別の槍を取り出した。その瞬間、彼らはまるで無人の猛りに飲み込まれたように前へ飛び込んでいったが、すでに馬列の速度は落ちていた。列の中、見習い傭兵たちは完全に狼狽し、何人かはそのまま後方へ逃げ出そうとしている。
フィルードは抜けかけの息を呑みつつ片手剣を抜き、喉の奥から声を絞り出した。「持ちこたえろ! 持ちこたえろ! 我らの騎兵が来る! 騎兵を一人討てば金貨一枚をやる!」
――重賞の下に必ず勇夫あり。金貨という餌は、普段その手に触れたことのない者たちの胸に、凄まじい駆動を生んだ。大胆な見習いが幾人か飛び出し、長槍を握りしめて軍馬に突き立てる。フィルードも弓を手に取り、血でにじむ指先で矢を番えて射続けた。
ブルースは血まみれの顔で冷徹に斬り伏せる。逃げようとした見習い三人を、その場で斬り倒したときの彼の表情は鬼神そのものだった。「逃げるやつは許さん! 家に帰ったとしても、追ってぶち殺す!」という言葉が、その場の空気を凍らせる。だが、騎兵の突撃がもたらす恐怖は、刃の檄よりも強く、またしても臆病な者たちが列を離れかけた。
そのとき、遠方から再び馬の蹄が場内に鳴り渡る。マイクとローセイが騎兵を率いて疾駆してきたのだ。彼らは混乱の中に飛び込み、迷うことなく残る敵騎兵九名めがけ突撃した。フィルードは絶叫する。「来たぞ! 持ちこたえろ、必ず持ちこたえるんだ! この戦を乗り切れば、勇敢に戦った者は正式傭兵に昇格させる!」
しかし、パニック下の兵に恩賞の言葉が届くのは一握りだけだ。聞き入れられたのは、ほんの一握りの勇敢な者たちだけだった。マイクが率いる騎兵は敵後方に真っすぐ突っ込み、三人の小リーダーは驚愕に凍りつく。彼らは目の前に見えたのが一騎の援軍だと思っていた――まさか複数の騎兵が全力で押し寄せてくるとは思うまい。
「しまった、貴族が化けているのかもしれん! 捕まったら父上のことなど口にするな!」と、焦りが声に滲む。しかし既に遅い。二人の騎兵が馬ごと落とされ、ジャッカルマンの巧みな騎乗術が戦局を一変させた。フィルードの指は裂け、弦は血に濡れていたが、なお矢を放ち続け、さらに二人の騎兵を射抜いた。
歩兵と騎兵の挟撃は効果的だった。敵騎兵は次々と倒され、全滅に近い状態に追い込まれる。二人の騎兵が木々の間を縫って必死に逃げるのを見送ると、フィルードは追撃を命じた。マイクは味方の駑馬を軍馬と交換させ、残された重戦馬で一気に追い縋る。速度の違いは致命的だ。
正面を見れば、リーダーを失った残存歩兵四十名が、慌てて退却を開始していた。フィルードの胸に沸き上がる憎悪は冷たく鋭い。追撃部隊に命じ、彼自身は負傷兵の手当て隊に加わる。血と土と悲鳴の混じる現場で、傷を縫い、包帯を巻く。武器を置けぬ者も、誰かの命を繋ぐために手を差し伸べる。
追撃部隊が戻る頃、フィルードは所狭しと横たわる冷たい遺体の列を見ていた。心は鉛のように重い。戦果は得られた――しかし代償は余りに大きい。正式な傭兵の多くが負傷し、総死傷者は四十六人にのぼる。うち十九名が即死、二十六名が重傷で、回復は容易には望めない。
フラフラと立ち上がったフィルードの周りに、ユリアンが駆け寄る。彼の腕は布で固く縛られており、息は荒い。「隊長、今回は酷かった。死傷者は三分の一を超えた。見習い傭兵十人も逃げ出した。」言葉は短いが、その中に含まれる重みは図り知れない。
残りおよそ百名の隊列を見下ろすフィルードの顔は、深い憤りと虚脱で満ちていた。転生後、彼が直面した最大の試練と言って差し支えない。血にまみれた指で、彼は周囲を見回す。
やがてマイクが三人の捕虜を縛って連れてくる。「隊長、この三人がリーダーです。うち一人は落馬で捕まえました。残りは私が追って取り戻したもので――。」
フィルードは冷ややかにその三人を見下ろす。「なぜ我が商隊を襲った? この街に敵などいるはずがないのに」
一人の青年は嘲るように笑った。「金が足りないのだよ。だが、お前らのやり方は汚らわしい。負けたのだから、好きにして構わん」
別の若者は苦笑混じりに言った。「お前の軍は手強かった。隠れた貴族の仕業だな、商売人の顔をして――笑えたよ」
フィルードは無言で捕虜の装備を指差す。「その制式装備、軍馬――塗り替えてはあっても判別できる。一般の盗賊が持てる代物ではない。どの貴族だ? 誰の指示か? お前らの主君はどれだけ兵を出せる?」と苛立ちを込めて畳みかける。
三人は動揺する。最初は否定していたが、木の棒を用いた拷問の前に、頑なさは崩れ落ちる。叫びが荒野にこだますると、ついに三人は口を割った。彼らは実は騎士であり、領地を持つ者たちだと白状する。リーダーの少年は子爵の次男で、彼らは子爵が組織した略奪隊の一味だったのだ。今回、フィルードを襲わせたのも、まさしくその子爵の意志に基づくものだったという。
フィルードは三人の所持品を精査し、金貨二百十枚を見つける。うち一人の所持金だけで百八十七枚を越えていた。憤りは満ちるが、彼は彼らを斬り捨てなかった。なぜなら、捕虜は交渉の切り札に使える――子爵がこの事件を知れば、言い逃れは許されぬ。彼は彼らを縛り、今後の交渉材料として確保することを選んだ。
戦場の硝煙と血にまみれた昼下がり、フィルードの胸にはやはり複雑な感情が残る。勝利は手にした――だが、その代価はあまりに重く、傭兵団に刻まれた傷は深い。彼は静かに拳を握りしめ、心の中で誓う。次は、こんな無駄な血をこれ以上流させぬと。




