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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第二卷 傭兵から商人へ② ――戦場の裏側で金を動かす

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第48章 凄惨

 敵のリーダーは険しい表情で戦況を見つめていた。そのすぐ傍らで、彼の配下である二人の小リーダーが言い争いを始める。

「マイケルソン! 少しだけ金を持っていこうって言ったのはお前だろ! 聞かなかったくせに! 今回は厄介な相手にぶつかっちまったんだ!」

「ヨーク、知ったふうな口をきくな。手ごわい敵と遭遇するたびに尻尾を巻く癖に、偉そうに騎士ぶるなよ。役立たずが。領主様にでも頼んで畑を耕す仕事に戻してもらったらどうだ?」

「貴様……! この私を侮辱する気か! 騎士を愚弄するその口、今すぐ引き裂いてやる!」

 怒りに任せてヨークが剣を抜き、今にも斬りかかろうとした瞬間――。

「やめろ! 二人とも静まれ!」

 少年の怒声が戦場に響いた。リーダーと呼ばれるその若き貴族の顔には苛立ちが浮かんでいる。

「これ以上内輪揉めを続けるなら、本当に父上に頼んで農作業に追いやってやるぞ!」

 その言葉に、二人の小リーダーは渋々剣を下ろし、口を閉ざした。

 しばしの沈黙の後、少年は真剣な眼差しで口を開く。

「お前たちは父の古参であり、数多の戦場を潜り抜けてきた熟練の戦士だ。前方の歩兵の攻撃は行き詰まりを見せている……我々騎兵が突撃して援護に入るべきだろうか?」

 マイケルソンが一歩前に出て、決意を込めて答えた。

「スロク様、この商隊……いや、敵軍はただの集団ではありません。戦力は並の傭兵団を凌駕しています。特にあの投げ槍の威力、鉄板付きの革鎧すら貫くほど。勝利を望むなら、援護に出るほかありません!」

「マイケルソン、状況をよく見ろ。周囲は木々で覆われている。我ら騎兵が自由に駆け回れると思うか? 狭い森で突撃したところで、歩兵と大差ない。むしろ犠牲を増やすだけだ」

 ヨークは冷ややかに言い放つ。その皮肉混じりの口調に、マイケルソンは再び激昂しかけたが、スロクが慌てて手を振った。

「ではどうすればいい! ここで座して待つことはできない。刀盾兵はすでに壊滅寸前、長槍兵も半数近く失っている。このまま歩兵を見捨てれば、父上にどう説明するつもりだ!」

 ヨークは一瞬黙り、そして落ち着いた声で答えた。

「坊ちゃん……私はやはり歩兵を退却させるべきだと思います。あの投げ槍が現れた時点で、我々の負けは決まっていた。せめて開けた場所で騎兵を使い、撤退を援護するべきでしょう。そうすれば歩兵の大半を救えます」

「ふざけるな!」マイケルソンが怒鳴った。「これだけ損害を出しておきながら、敵を全滅させずにどうやって埋め合わせる! 怖いなら一人で逃げ帰ればいい!」

 二人の口論に、スロクの顔も険しさを増していく。

「……これだけ兵を失ったのだ。引き下がるなどできぬ。森を迂回し、木々がまばらな場所を探せ。そこから突撃する! 彼らの陣を突破できれば、この市民あがりの軍など脆く崩れるはずだ!」

 少年の決断に、二人の小リーダーも渋々従うしかなかった。

 ――その動きを、遠くからフィルードはじっと見ていた。敵の騎兵隊が大きく迂回し、森の隙間を抜けて突撃してくるのを。

 前線ではすでに刀盾兵が十人足らずにまで減り、長槍兵も半数近くが倒れていた。

(やはり……彼らは貴族連合軍か)

 フィルードは確信した。これほどの死傷者を出してなお崩れぬ軍勢、山賊の類ではあり得ない。貴族に縛られた農奴軍だからこそ、逃げることも許されず戦い続けているのだ。

「ブルース!」フィルードは鋭く叫ぶ。「兵を率いて突撃を防げ! 槍の柄を地面に突き立てろ!」

「ゾーン! 刀盾兵を率い、敵の長槍兵の両翼を攻めろ! ジャッカルマン戦士はゾーンに従え!」

 ここ数日の交流で、ジャッカルマンたちは簡単な戦闘合図を習得していた。命令はすぐに伝わる。

「ブルース! 一人をマイクの元へ走らせろ。騎兵を率いて戻れと伝えるんだ! 敵の騎兵が歩兵と交錯した瞬間に突入させろ!」

「了解!」

 ブルースが迅速に兵を配置する。敵の騎兵はすでに百メートルの距離に迫っていた。

 フィルードは弓を構え、矢をつがえる。

「――ッ!」

 放たれた矢は風を裂き、先頭の騎兵を馬から落とした。暴走した馬が後方の二人を巻き込み、突撃の勢いは鈍る。

 フィルードは矢を次々に射ち、わずかな時間で十一本を放った。狙うは首、頭部などの急所。五人の騎兵が次々と落馬し、隊列は混乱に包まれる。

 指揮官の怒声が飛び、騎兵は二十メートル圏内まで突入してきた。

「投げ槍、放て!」

 ブルースの号令に、空を裂く唸り声が重なる。数十本の槍が飛び、先頭を駆ける騎兵を次々と打ち倒した。馬が複数の槍に貫かれ、暴れて騎兵を振り落とす。その重い鎧に押し潰され、立ち上がることはできない。

 怒りと焦燥に駆られた騎兵たちは、それでも突っ込み、陣列に衝突する。槍が馬体を貫き、馬も騎兵も倒れる。だが同時に、騎兵の槍が傭兵の体を串刺しにし、悲鳴が戦場に響き渡った。

 前列は混乱し、ベテラン兵の多くが倒れた。後方の新兵たちは恐怖に震え、動きを乱す。

「怯むな! 槍を突き立てろ! それがお前たちの唯一の盾だ!」

 ブルースの声が響くが、その刹那、再び騎兵が突撃。間に合わなかった兵は次々と貫かれ、地面に縫い付けられた。

 戦場はまさに凄惨の極みと化していた。

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