第43章 最強の小部族を滅ぼす
フィルードは眼前の光景に瞳孔を収縮させ、即座に弓を取り矢を番えた。
同時に怒鳴る。
「マイク! 隊列から離れるな! 敵の騎兵が多すぎる! 馬から降りろ、弓で奴らを射て! 他の小隊長たちは騎兵を無視しろ! まずは正面の豚頭族の少年兵を打ち破れ!」
轟音のごとき騎兵突撃は新兵たちを震え上がらせ、古参兵ですら顔を強張らせる。
だが百メートルに迫った瞬間、豚頭族騎兵たちは一斉に両翼へ散開。
「ヒュン!」
風切り音とともに、フィルードの矢は最前列の騎兵の首を貫き、そのまま馬から叩き落とした。
マイクの矢は駄馬に命中し、苦鳴をあげさせたが致命傷には至らない。
「やったぞ!」
数名の小隊長が歓声を上げる。
――まさか当たるとは。
フィルード自身も驚いていた。瞑想法を修めて以来、感覚が研ぎ澄まされ、矢が獲物を引き寄せるかのようだ。自信があったからこそ狙った首、その射撃は見事に成功したのだ。
怯んだリーダーは大声で叫び、騎兵たちは慌てて馬の背に体を伏せる。
フィルードは矢をつがえ、次なる標的――ぼんやりした様子のイノシシ男の兵士を狙い撃つ。
「ヒュンッ!」
矢は首から肺へと突き刺さり、イノシシ男は声を上げる間もなく崩れ落ちた。
「……っ!」
リーダーは目を剥き、震えながら隊列後方へと退がる。
マイクの二射目は外れたが、すでに脅威は削がれていた。
やがて、敵の騎兵は隊列の側面十数メートルまで迫ると、投げ斧を振りかざし一斉に投擲。
「ぐあっ!」
六本の斧が三名の傭兵を倒し、隊列に動揺が走る。
だがフィルードはすかさず矢を放ち、また一人を射落とした。距離が縮んでいたため、マイクも命中させ二人目を撃ち落とす。
残る騎兵は四人。
歩兵隊列と豚頭族本陣との距離は、もはや百メートルを切っていた。
「弓兵! 正面の敵へ放物射撃だ!」
フィルードの声と同時に、また一人の騎兵が矢に倒れる。
しかしその瞬間、彼は三本の投げ斧が自分に迫るのを感知。咄嗟に矢を捨て、地面を転がる。
直後、彼がいた場所の兵士が斧に倒れた。
「団長!」
ブルースが叫ぶ。「刀盾兵! 団長を守れ!」
冷や汗を垂らしつつ、フィルードは片膝をつきながら矢を取り、敵のリーダーへ狙いを定める。
「ヒュン!」
矢は鋭く空を裂き――だがリーダーは警戒しており、首を覆って馬上に伏せる。矢は腕を貫通させたものの、命までは奪えなかった。
痛みに呻きつつ、リーダーは馬から振り落とされそうになりながら必死にしがみつく。
残った騎兵が再び斧を構えるのを見て、フィルードは恐怖を覚え、兵士の列へ身を潜める。
だが味方弓兵の矢雨が続き、豚頭族側は混乱。数人は武器を放り出し部族へと逃げ帰っていった。
三度の斉射で距離は三十メートル以下に縮まり、隊長たちが一斉に叫ぶ。
「投槍の準備!」
疲弊した兵士の三分の一はすでに恐怖で呆然と立ち尽くしていたが、それでも訓練の成果か、手は自然に動き投槍器を取り出していく。
「放て!」
ブルースとユーリオンの声と共に、槍雨が空を覆い尽くす。
「ぎゃあああ!」
豚頭族の少年兵たちは次々に倒れ、陣形は瞬く間に崩壊。
「撃ち続けろ! 止まるな!」
隊長たちが鼓舞し、二斉射目も浴びせかける。
悲鳴と混乱の渦の中、残ったのはわずか五十名あまり。恐怖で硬直した彼らは、まるで死神に背を押されるかのようだった。
「長槍に持ち替え! 突撃!」
号令と共に隊長たちが先頭に立つ。フィルードは後方で弓を収め、兵の動きを見届けた。
リーダーは最後の一騎を連れ、無様に部族へ引き返す。
一方、兵士たちは叫びを上げ、混乱する少年兵へ突撃。
衝突直前、少年兵たちは耐えきれず武器を投げ捨て、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
血に塗れた戦場を一度も経験したことのない彼らは、すでに理性を失っていた。
「武器を捨てた者に手を出すな! まずは獣舎を制圧、抵抗する者はすべて倒せ!」
フィルードの命令に従い、兵たちは怒涛のように部族内部へ雪崩れ込む。抵抗は弱く、ほとんどが泣き叫ぶ子供。ごくわずかな勇敢な少年が刃を取ったが、焼け石に水だった。
遠くからこれを見届けたリーダーは、もはや為す術もなく絶望の咆哮を上げると、ついに背を向け去っていった。




