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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第四巻 商人から領主へ ――選ばされた支配

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第401章援軍交錯、戦局反転の臨界点

レーガンは、今日という一日を何とか凌ぎ切ったと理解していた。

(……これでいい)

明日には援軍が来る。

確実にだ。

もしこの劫掠隊が今夜のうちに撤退しなければ――

(あいつらに逃げ場はなくなる)

それだけは断言できた。

夕食を終えた後。

クルミの花が、疲労の色を隠しきれない顔で近づいてきた。

声は低く、かすれている。

「……今回は、さすがに大損だな」

レーガンは何も言わず、続きを促した。

「連れてきた六、七百……三分の一も残ってない」

淡々とした口調だったが、その内容は重い。

「二、三百はさっきの乱戦で死んだ。地元の連中はもっと酷い。四、五百が行方不明だ」

一拍置く。

「敵も楽じゃなかったはずだが……装備の差で、あっちの損害は少しマシってとこだな」

そして最後に、短く付け加えた。

「守備軍団も……半分はやられてるはずだ」

その言葉を聞いた瞬間。

レーガンの心臓がわずかに跳ねた。

(……ここまでか)

予想以上の損害だった。

だが、それでも――

(守り切った)

それがすべてだった。

この守備寨には大量の食糧が備蓄されている。

もしこれが奪われていたら――

単なる物資の問題では済まない。

敵の侵略意欲そのものを加速させていた。

レーガンは静かに口を開いた。

「……上出来だ」

クルミの花が顔を上げる。

「最初の目的は達成してる。損害は大きいが、それだけの価値はあった」

感情を抑えた、冷静な評価だった。

その時。

守備寨の方から数人の人間兵が出てきた。

その先頭に、足を引きずる男。

チャールだった。

彼は興奮した様子でレーガンに駆け寄り、その手を強く握る。

「レーガン兄弟……!」

目には涙が浮かんでいた。

「来てくれて、本当に助かった!」

声が震える。

「お前が来なければ……今日で終わってた!」

レーガンは軽く手を振った。

「気にするな」

短く、それだけ。

「同じ陣営だ。見殺しにする理由がない」

それは事実だった。

合理的な判断に過ぎない。

だがチャールは深く頷いた。

「もう大丈夫だ……!」

強く言い切る。

「明日には援軍が来る!あのクズども、一匹残らず――」

「逃がさない」

レーガンが静かに言葉を引き取った。

その時。

別の影が慌てて近づいてきた。

地元の部族領主だった。

服装はさらにみすぼらしく、表情も卑屈だ。

彼は真っ直ぐクルミの花の前へ来ると、媚びるように言った。

「クルミの花兄弟……約束通り、やったぞ……その……」

言わんとしていることは明白だった。

クルミの花は一瞬だけ目を細める。

(やっぱり来たか)

この男に好感など一切ない。

悪人というほどでもないが――

愚かで、目先の利益しか見えない。

助けてやったにも関わらず、礼もなく報酬を取りに来る。

だが、約束は約束だ。

クルミの花は無言で手綱を差し出した。

そして、わずかに皮肉な笑みを浮かべる。

それだけで、その場を離れた。

(……関わる価値もない)

チャールはその一部始終を見ていた。

(なるほどな)

援軍が来た理由を理解する。

この領主は、守備寨が落ちれば自分も終わると分かっていた。

だが、それでも動かなかった。

損害を恐れたからだ。

最後は餌で釣られてようやく動いた。

(……小物だな)

それ以上の評価はなかった。

その夜。

双方ともに、不安の中で夜を過ごした。

そして翌日。

ついに大城からの援軍が到着する。

総勢六千。

守備軍団三千。

部族戦士三千。

その装備は一目で違いが分かった。

鉄板を埋め込んだ鎧。

さらに五百名は全身鉄甲。

部族戦士ですら強化装備を与えられている。

(……これが本隊か)

レーガンは静かに観察した。

戦力としては、これまでとは別物だ。

一方。

三つの劫掠隊も動きを見せる。

彼らは再び戦おうとしていた。

まるで宿敵同士のように。

レーガンは即座に布陣を整える。

寨の外周に兵を配置し、迎撃態勢。

(焦るな)

援軍が来た以上、無理をする必要はない。

だが、到着した味方は違った。

その姿を見た瞬間――

誰もが確信した。

(勝った)

しかし。

三人の敵首領の顔に動揺はなかった。

(……おかしい)

レーガンの直感が警鐘を鳴らす。

その理由はすぐに分かった。

敵もまた、援軍を持っていた。

北の山脈。

そこに潜んでいる。

三つの劫掠隊はゆっくりと後退を始めた。

まるで誘うように。

(誘導か)

レーガンは即座に判断した。

「門を開けろ!」

「追撃する!」

敵を引き留める必要がある。

だがその瞬間。

北の山脈から再び土煙が上がった。

城壁の上から見れば、一目瞭然だった。

大軍。

しかも――正規軍団。

(……二万か)

最低でもそれはいる。

レーガンは迷わず命じた。

「撤退!」

即時後退。

そして伝令を飛ばす。

――敵援軍出現、戦力劣勢。

状況は一瞬で逆転した。

意気揚々と来た援軍も、その報を受けて動きを止める。

大城の守備官は即座に判断した。

(無理だ)

近くの小城へ撤退。

防衛線を再構築する。

この小さな寨に固執する価値はない。

去り際、彼は命じた。

「焼け」

「食糧は一粒も残すな」

レーガンは頷く。

当然の判断だった。

だが――

チャールにとっては違った。

この数日。

希望と絶望を何度も繰り返した。

そして今。

完全に折れた。

(……終わりか)

彼は倉庫へ火を放つ準備をする。

老人と子供を連れ、撤退しようとしたその時。

――大地が揺れた。

次の瞬間。

さらに巨大な土煙が地平線に現れる。

そして見えたのは――

高速で迫る騎兵隊。

圧倒的な速度。

(……騎兵?)

レーガンは直接は見えない。

だが振動と音で理解した。

(違う)

ボアマンではない。

こんな規模の騎兵は持っていない。

結論は一つ。

王国直属騎兵軍団。

歓声が上がる。

撤退しようとしていた守備官も動きを止めた。

様子を見る。

その騎兵隊の先頭。

マイクは全速で駆けていた。

山脈から出てきたばかりの敵援軍を見て、内心で息を吐く。

(……間に合ったな)

ここ数日、彼は休んでいない。

まるで火消しのように辺境を駆け回り、劫掠隊を次々と潰してきた。

上空ではエリーナとメーヴが敵軍の動きを監視。

大規模な動きがあれば、即座に彼が出る。

今回も同じだった。

敵援軍がまだ山中にいる段階で情報を掴み、ここへ急行していた。

(やり方は読めている)

獣人側の戦略は単純だ。

まず少数で襲撃し、食糧を奪う。

その後、大軍で押し潰す。

いわゆる蚕食。

ボアマン獣皇が定めたやり方だ。

(だが――)

マイクは前方を見据える。

(それもここまでだ)

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