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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第二卷 傭兵から商人へ② ――戦場の裏側で金を動かす

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第40章 脅威を退ける

 沼地に阻まれたフィルードは、これ以上の探索は無理だと判断し、やむなく引き返すことにした。

 ただ――沼地に面するこの森の土壌は驚くほど肥沃らしく、根を張りめぐらせた大木が幹を太く成長させていた。

 「焼き払ってしまうか?」

 一瞬そんな考えが脳裏をよぎったが、火事は規模が大きくなりすぎる。下手をすれば周囲の部族に気づかれる危険があったし、地下に広がる根を完全に取り除くのも骨が折れる。

 前世の記憶がふと甦る。スラブ民族が西ヨーロッパの土地を開発した手法――幹の皮をぐるりと剥いで自然に枯死させ、数年で木を倒す方法だ。枯れ木となれば根も水分を失い、ほどなく腐り落ち、開拓の難度は一気に下がる。

 (だが、今はまだ時期じゃない。谷間の入口に木壁が完成してからだ。他人に労力を横取りされるような真似はごめんだ)

 ◇◇◇

 十日後。

 遠征していたマイクが隊を率いて戻ってきた。フィルードは領地建設の細々とした事柄をケビンに任せると、新たに一つの任務を下した。

 「フェランテに石臼の製作を急がせろ。粉が自給できれば、傭兵団の経費は大きく削れる」

 さらに木工の弟子たちには塀の建設を手伝わせる。領地を形にする準備は着実に進んでいた。

 その後、フィルードは四十一人の正規傭兵、一〇八人の補佐兵、そしてジャッカルマン戦士十人を率いて商隊を編成した。二台の馬車には干し草を満載し、道中はジャッカルマンたちを奴隷風に縛り上げる。人間の領地で武装したまま堂々と歩かせれば、小貴族の目に余り、余計な騒動を招きかねないからだ。夜になると縄を解いて自由にさせた。

 わずか二日でダービー城に到着。手持ちの金貨は残り三十六枚。無駄遣いは許されない。だが今回は、ジャッカルマン部族との交易で得た家畜を連れてきていた。家畜市場に売れば、二十枚前後の金貨になるだろう。

 家畜を売り払った資金で、大豆を馬車五台分、馬の飼料を二台分買い占め、さらに金貨八枚と十五銀貨で半月分の食料を確保する。残金は二十四枚。まさに緊急時用の心許ない蓄えだ。

 それでも七台の大荷馬車を連ねた商隊は、見た目にも十分な規模を誇っていた。城外を出ると、すぐに背後から貪欲な視線が商隊を追うのを、フィルードは感じ取った。

 ◇◇◇

 国境付近に到達したのは日暮れ時。製粉所で特注したパンの仕上がりを待ったため、時間を食ってしまったのだ。夕食を終えると早々に幕営し、フィルードはいつものように瞑想に入る。

 一日六時間が限界。それ以上は集中が続かない。だが、確かに自身の力がゆっくりと伸びているのを感じていた。瓶頸を突き破る時も近いだろう――。

 翌朝。兵たちは麦粥をかき込み、再び出発する。

 しかし、森を抜けかけたところで、突如として百人ほどの集団が飛び出してきた。痩せこけてはいるが、全員が血走った目で、命知らずの雰囲気をまとっている。

 「ボ、ボス! やばいっすよ……ブラッディ・クリスの隊です!」

 ゾーンの声が震える。

 貴族すら襲うことで悪名高い強盗団。その頭目は一度も失敗したことがないとも噂される。

 (こちらは人数で勝っているが……新兵ばかりだ。士気では奴らに劣るかもしれん。だが、ジャッカルマンがいる以上、怯むわけにはいかん)

 フィルードは一歩前に出て叫ぶ。

 「おそらく、あなたがクリスだな。通りすがりか? それとも俺たちを待っていたのか?」

 クリスの目が細まる。相手の隊は五十人以上多く、全員が鉄武器を携え、整然とした装備だ。

 「チッ……忌々しいバニックめ。犬の目は節穴か? こいつら、カモじゃなくてハリネズミじゃねぇか……」

 それでも後には退けない。歯を食いしばり、悪党じみた笑みを浮かべる。

 「まあいい。荷の半分を置いていけ。それで命は助けてやる!」

 フィルードは嘲るように高らかに笑った。

 「せっかくの縁だ。噂のブラッディ・クリスの腕前、試させてもらおうじゃないか!」

 「荷を下ろせ! 隊列を組め!」

 号令一下、三人の小隊長がそれぞれ五十人前後の兵をまとめ、三列の密集隊形を組む。大地を震わせる足音に、ジャッカルマンたちも武器を構えた。

 その威容にクリスの顔色が変わる。

 「ま、待て……あいつら、正規軍の偽装か!?」

 次の瞬間、彼は地面に膝をつき、声を張り上げた。

 「退却だ! 全員逃げろ! 相手は軍隊だ!」

 クリスは馬首を返して真っ先に逃げ出し、部下たちも一斉に散り散りになる。

 フィルードは心中で冷や汗を流しつつ、安堵の息を吐いた。

 (……張り子の虎でも、十分に通じるものだな)

 実際の戦闘になれば被害は免れなかっただろう。半年あればまともな軍を育てられる――そう思いつつ、彼は隊を前進させた。

 だが午後、森の奥から再び悲鳴のような声が響いた。

 今度は百体を超えるゴブリンが、馬を見て狂ったように飛び出してきたのだ。

 「くそっ……今度は本物か!」

 兵たちの顔が青ざめる。

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