第4章 威信を示す
けたたましい悲鳴が響き渡った。青年は槍を放り投げ、両手で太ももを押さえ、ひたすら泣き叫んでいる。「あ、あ、あ!」
フィルードは迷わず前に出て、軽く蹴る。青年はさらに悲鳴を上げ、必死に言った。「助けてくれ、もう二度としない、しないから!腹が減って、何か食べたかっただけなんだ!」
しかし、フィルードは耳を貸さない。力の誇示が目的であり、殺すつもりはない。地面に落ちた黒パンを拾い、再びかじりながら、血の量を横目で確認する。ほとんど出ていない。
周囲の臨時傭兵たちは凍りつき、誰も止めようとしない。彼らの視線は、少年の行動に圧倒されつつも、恐怖と尊敬の入り混じった複雑な表情だった。
その時、群れの中から声が上がる。「おい、ニッキーの野郎、ついに手強い相手に当たったな。あいつ、かなり思い切りがいいぞ。ハンター、お前、仲いいだろ?怪我の具合を見てやれ」
「ジョン爺さん、余計なこと言うな。俺はあのバカなニッキーと親しくない。面倒はごめんだ」
フィルードは無視し、午後までフェリエルの募集が終わるのを待った。フェリエルは一部始終を見ていたが、手を出さない。
やがて、フェリエルが集団に戻り、怪我をした青年に告げる。「お前はもう怪我をしている。今回の任務には向かない。残念だが解雇だ」
青年は焦り、大声で頼む。「フェリエル執事、どうか解雇しないでください!小さな怪我で戦闘には影響ありません!銅ファニーを稼ぐ機会を!」
しかし、フェリエルは聞き入れず、一行を率いて立ち去った。
フィルードは村を出て、ウォーカー騎士の領地へ向かう。道中、広大な農地が目に入る。畑はライ麦で覆われているが、苗はまばらで栄養不足のように見え、農業技術の遅れが明らかだ。牛や馬の姿も少なく、農作業は人力に頼っているらしい。木製の灌漑用具があちこちに見え、風に揺れる麦の穂が夕日の光を受けて金色に輝く。
30分ほど歩き、ついにウォーカー騎士が住む村に到着した。村は簡単な木柵で囲まれ、家屋は100世帯ほど。村の外れには中規模の荘園があり、丸太で囲まれて防御力を確保している。小川が近くを流れ、子供たちが水遊びをしている。村全体に素朴な活気があるものの、貧しさがにじむ。
ウォーカー騎士は一行を熱烈に歓迎した。黒パンが配られ、粗悪なチーズが少し載っている。単価で2銅ファニーはする代物だ。20人以上の傭兵に配られたこの出費だけで60銅ファニーの価値がある。フィルードは口にしてみて、以前買った黒パンより味わいがあることに気づく。余計な添加物はなく、素朴な美味さだ。
食事の間、喉を詰まらせて白目をむく者もいる。ウォーカー騎士が歩み寄ると、全員が手を止め、感謝の意を表した。騎士は軽く手を振る。「諸君、私がなぜ諸君を雇ったかはわかっているはずだ。給料から1銅ファニーも引かない。敵を倒した際には報奨金を支払う。敵兵一人につき10銅ファニーだ。上限はない。食事を終えたら早めに休め。明日の朝、あのフェインに痛い教訓を与える!」
夕食後、フィルードは農家の家に泊まることになった。室内は簡素で、ワラが敷かれたベッドが一つあるだけだが、不快感はあまりない。横になり、思案にふける。未知への恐怖、家族への心配、前世の地球での自分の身体がどうなったのか。入れ替わっていることを願うが、確証はない。両親の安全を祈るしかない。今重要なのは、この世界で生き抜くことだ。傭兵は一時の手段であり、まず初期資本を貯め、将来より豊かな生活を送るための準備をする。
深く眠りにつき、翌朝。フェリエルが集合を促す。フィルードはすでに身支度を済ませ、隊列の最も左側に立った。周りの傭兵はふざけ合い、隊列は乱れている。親衛兵の十数人だけが軍らしい雰囲気を保っていた。
ウォーカー騎士と二人の騎士従者が立派な馬で前方に現れる。傭兵の乱れた様子を見て眉をひそめる。隣の従者が大声で叱る。「お前たちの隊列は何だ!傭兵だろう!畑のマーモットのように跳ねるな!」
その声を受け、傭兵たちはようやく整列し、少し軍隊らしくなった。ウォーカー騎士は仕方なくうなずき、執事に命じる。「フェリエル、黒パンを配り、道中で食べさせろ。時間を無駄にするな。あのフェインに忘れられない朝を迎えさせてやれ!」
列の中で、フィルードは仲間たちの不真面目な様子を横目で見ながら、心の中で計算していた。これだけ無秩序な連中をまとめるには、まず自分が強さと威信を示すしかない。前世で培った戦闘の感覚、観察力、そして策略。小さな勝利を積み重ね、傭兵としての立場を固めるのだ。
朝の冷たい空気を吸い込み、彼は拳を握る。いざとなれば、短剣と弓だけでも生き残れる。戦場では計算力と素早い判断が命を左右する。この世界で、彼が失敗すれば命も資産も失う。しかし、成功すれば、自由と財を手に入れることができる。
フィルードの心は静かに燃えていた。これから始まる冒険の一歩一歩を、彼は確実に踏みしめるつもりだった。




