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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第四巻 商人から領主へ ――選ばされた支配

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第382章 戦場を降りた牙――負傷老兵爵士の新たな役割

その土地がすべて彼ら自身の私有財産だと知った時――

かつてレーガンは、正直に言って羨望を覚えていた。

だが今は違う。

自分自身が二級勲爵へと昇格し、

しかも彼らより五エーカーも多い土地を与えられているのだから。

(……人生というのは分からないものだ)

レーガンは内心で小さく苦笑した。

フィルードは、下層で問題が起きやすいことをよく理解していた。

だからこそ彼は、大量の負傷老兵を町の守備団周辺に配置したのだ。

ただし都市の周囲には、ほとんど置いていない。

それは明らかに意図的だった。

ここ数年の征戦で、フィルードの手元には数多くの負傷した獣人老兵がいる。

彼らを地方の基层に配置すれば、自然と第三者的な存在になる。

どの勢力にも属さず、

だがただ一人――

王にのみ忠誠を誓う存在。

(なるほど……)

(これは見事な配置だ)

レーガンは心の中で素直に感心していた。

さらに彼らに奴隷を所有させれば、

守備軍団の戦力補充の予備層にもなる。

老兵は戦えなくても、

戦士を育てることはできる。

つまり利点だらけというわけだ。

レーガンは倉庫へ向かい、いつものように一袋の根薯を担いだ。

この根薯は流水で丁寧に洗浄され、

さらに日干しされてから貯蔵されている。

そのため毒素が抜け、長期保存が可能になっていた。

とはいえ――

(味は正直、微妙なんだよな……)

煮るとすぐ崩れる。

味は少し渋い。

食感も悪い。

だがここで役に立つのが榆の樹皮粉だ。

これを加えると歯ごたえが出て、

ほんのり甘みも加わる。

両者を混ぜると、驚くほど食べやすくなる。

(なるほど……)

(だから陛下は榆皮粉の価格を下げないのか)

レーガンは改めて理解した。

あれは単なる食料ではない。

調整材としての価値があるのだ。

袋を担ぎながら、レーガンは守備営地をゆっくりと出た。

今の営地は、以前とはまったく違う。

ドワーフたちが残した成熟した煉瓦窯技術のおかげで、

牛頭城地域の建設速度は飛躍的に上昇していた。

すでに耀獣城側の城塞は、ほぼ完成している。

もっとも規模はまだ小さい。

だがそれも計画通りだった。

フィルードは現地責任者にこう命じている。

「焦らず、ゆっくり拡張せよ」

まずは基盤を固めること。

それが最優先なのだ。

城塞完成後、工匠たちは牛頭城地域へ移動した。

そこにはドワーフが残した大量の煉瓦窯があり、

建設速度はさらに加速している。

その結果――

数ヶ月で、レーガンが駐屯する木柵砦も完全に完成した。

規模こそ小さいが、

守備軍団とその家族を守るには十分すぎる防御力がある。

(これも……陛下の計算の内か)

レーガンは歩きながら思った。

砦を出て少し進むと、

負傷した獣人老兵たちの院子が見えてきた。

この院子は町の獣人青壮年が建てたものだ。

最初はかなり粗末だったが、

人間農奴が手伝ったことで多少まともになった。

それでも――

まだ粗削りだ。

木屋の周囲には細い枝が残り、

明らかに急造の建築と分かる。

(まあ……仕方ないか)

レーガンは扉を軽く叩いた。

すぐに扉が開く。

現れたのは――

片足を引きずるジャッカルマン。

全身の筋肉は引き締まり、

手には厚いタコ。

一目で分かる。

歴戦の老兵。

だが左脚は膝から下が完全に失われている。

木の棒を縛り付けた簡易義足。

歩くたびにガクガク揺れる。

手には杖。

だが目の光だけは――

まだ鋭かった。

レーガンの顔を見ると、ジャッカルマンはすぐ笑顔になった。

「レーガン守備官!

今日はどうしたんだ?」

少しつっかえながら人間共通語で言う。

「数日前の俺の提案……考えてくれたか?

金はいらん。

食糧も余ってる。

だが今の俺は廃人同然だ。

何か仕事をくれ。

毎日家に閉じこもっていると……気が狂いそうなんだ」

レーガンは困った表情になった。

「大黒石爵士……」

ゆっくりと言う。

「その件は、私の判断では決められません。

上層部へ報告する必要があります。

もうすぐ月例会議です。

その時に私が報告しておきます」

そして少し肩をすくめた。

「ただ……あまり期待しないでください。

陛下は公文で明確に言われています。

『皆は安心して傷を癒せ』と」

つまり――

もう戦わせるつもりはない。

「ここでゆっくり過ごしてください。

本当に暇なら……」

レーガンは担いでいる袋を軽く叩いた。

「近くにジャッカルマンの貴族部族があります。

案内しますよ。

雌性を迎えて、暖を取ってもいい。

この根薯一袋なら――

美しい奥さん一人くらい交換できます」

大黒石は慌てて手を振った。

「からかうな、守備官!」

声を荒げる。

「人間の年齢で言えば、俺はまだ壮年だ!

戦うにはちょうどいい時期だ!

あのクソドワーフに足を斬られたが……」

拳を握る。

「心はまだ燃えている。

守備軍団に入れてくれれば、

俺の戦績はお前の部下を圧倒するぞ」

レーガンは慌てて手を振った。

「疑ってません!本当に!」

「あなたはタロン王国遠征前からの古参兵。

陛下に従い、長年戦ってきた英雄です。

投槍技術など、敵なしでしょう」

だが彼は首を振った。

「それでも今は足が不自由です。

王国は、

あなたのような功臣を戦場に戻すつもりはありません。

あなたたちは……もう役目を果たしました。

残りは新世代に任せてください」

そして少し笑った。

「今日は時間があります。

クルミの花領主のところへ案内します。

きっと多くの雌性があなたを見るでしょう」

レーガンは軽く肩をすくめる。

「しかもあなたは王国の英雄。

奴隷枠も一つ残っています。

二人連れて帰っても、誰も文句は言いません」

大黒石はしばらく黙った。

そして――

ため息をつく。

(……なるほど)

(これは無理だな)

レーガンの態度は完全に固い。

戦場復帰は望めない。

だが――

(まあいい)

(退屈しのぎに戦士を育てるか)

ジャッカルマンは雌雄ともに体格が強い。

軍団にも雌兵士は多い。

大黒石は頷いた。

「分かった。

案内してくれ。

伴侶を見つける」

そして目を細める。

「俺が鍛えてやる。

領地に危機が来たら、

少しは役に立つだろう」

レーガンは内心でガッツポーズをした。

(よし!)

正直、困っていたのだ。

この町に配属された十人の爵士。

彼らは毎日、家に籠るか、

守備団の訓練場をうろつくだけ。

しかも全員――

妙に使命感に満ちている。

(……まるで監視役だ)

レーガンはそう感じていた。

「王国を代表して、お前たちを見ている」

そんな空気を全員が出している。

彼らを怒らせるわけにはいかない。

彼らの意見は直接上層部へ届く。

場合によっては、自分より重要視される。

(本当に面倒な連中だ……)

だが今――

突破口ができた。

爵士第一号の結婚。

これを成功例にすれば、

他の老兵も動くはずだ。

(戦友が妻を持てば……)

(きっと焦る)

レーガンは即座に動いた。

「では行きましょう!」

そう言うや否や、大黒石の腕を掴む。

そして――

ほぼ引きずるようにクルミの花部落へ向かった。

(気が変わる前に連れて行く!)

レーガンは内心で必死だった。

やがて二人は部落の範囲へ入る。

門の哨兵はそれを見ると、すぐ内部へ走った。

すでにこの守備官の顔は有名だ。

さらに人間農奴が頻繁に根薯栽培を教えに来ているため、

部族の人間への警戒も薄れている。

やがて数人のジャッカルマン戦士が駆け寄ってきた。

そしてポケットから――

泥だらけの野果を取り出す。

差し出しながら、にやりと笑った。

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