第38章 奴隷の購入
「値段は幅広いですよ。力仕事しかできない連中なら、だいたい二~十枚の金貨ってところですな。体格や体力次第です」
奴隷商人は慣れた調子で答えた。
「では、技術を持つ奴隷は? 木工職人とか、石工や鍛冶屋のような」
フィルードが問いかけると、商人の目がわずかに光る。
「お目が高い。ですがその分お高いですよ。木工職人なら二十~百枚、鍛冶屋は四十~二百枚が相場です。石工はやや安く、十~五十枚。もっとも、私が持っているのは見習いばかりですがね」
商人は胸を張って言い、指を折って数える。
「石工見習いが八枚、木工見習いが十五枚。そして鍛冶屋見習いは最低でも四十枚。これ以上は勘弁してください」
フィルードは腕を組み、短くうなずいた。値は張るが、領地を築くなら技術者は必須だ。
「獣人語を話せる奴隷は?」
「……いますとも。コボルト語、ハイエナ語、ピッグマン語。それぞれ十~二十枚。ただし、畑仕事なんてまるで知りませんし、反抗的です。安く済ませたいなら、ただの少年なら四枚で出しますが?」
商人は半笑いを浮かべ、フィルードを値切り狙いの田舎者と決めつけたようだった。
だがフィルードは気にせず、淡々と答える。
「木工と石工の見習いをひとりずつ。あとは、醜い女中を四人と、ハイエナ語ができる通訳を一人だ。見積もりを出してくれ」
商人は舌打ちし、歯ぎしりしながら提示する。
「……女中は十八枚の銀貨。ほとんど原価です。獣人語の少年は三枚の金貨。職人見習いは、それぞれ二枚ずつ値引きしましょう。ただし、まだ半人前だとご理解を」
「分かった。この条件を覚えておこう。他も見て回ってから、戻ってくる」
フィルードは短く返し、一行を連れて市場を見て回った。
――結論から言えば、最初の商人が一番誠実だった。
他の店は値段をふっかけるばかりで、質も大差ない。最終的にフィルードは彼のもとに戻り、取引を成立させた。
総額二十三枚の金貨。残りの所持金は三十八枚にまで減ったが、技術者と女中、通訳を手に入れたのは大きい。
さらに道具や百ポンドの塩を追加購入し、一行は城下を離れた。今回は峡谷へ戻り、拠点の整備に腰を据えるつもりだ。
道中、フィルードは新しい奴隷たちと簡単な会話を重ねる。
石工の見習いはフランク。十六歳。まだ不慣れだが、石臼くらいなら作れるらしい。
木工の見習いは十四歳のスティーブン。基礎は身についているが、技術は凡庸。
四人の女中は力仕事担当で、料理の腕は……期待しない方がいい。
そして最後に、獣人語を理解する少年。
「俺の名はリトル・ロバート。……元は商家の息子でした」
彼は淡々と語った。幼少期に家にいたハイエナ奴隷から言葉を学び、今では流暢に話せる。だが盗賊に両親を殺され、親戚の借金のために売られてきたのだという。
「……災難だったな」
フィルードは短く言葉をかけるにとどめた。
そのロバートの通訳で、フィルードはハイエナの首領と対話できた。
「名はローセイ。雪狼部族の生まれで、父が現首領だそうです」
フィルードは頷き、低く告げる。
「伝えてくれ。遠からず人間と獣人の戦が起きる。この荒野で独立を保つのは難しい。だからこそ……私は峡谷に領地を築き、同盟を結びたいと考えている。互いに危機を乗り越えるためにな」
ローセイはしばし黙し、やがて鋭い眼光を返してきた。
その目に宿るのは、反抗ではなく、わずかな希望の光だった。




