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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第四巻 商人から領主へ ――選ばされた支配

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第372章 囮と本命――城壁を喰らう戦術

至る所で殺し合いは続いていた。

缺口だけではない。

城壁上もまた、地獄だった。

城内には大量の遠距離兵器が温存されており、守備軍団は甚大な損害を払いながら、ようやく梯子を城壁へ掛け、登攀を開始する。

距離が詰まった瞬間、ドワーフたちは上から石を投げ始めた。

……因果応報、か。

これまで自分たちがやってきたことが、今はそのまま返ってくる。

巨石が次々と落下し、梯子を登る兵士たちを叩き落とす。

骨が砕け、肉が潰れ、下で待つ者まで巻き込まれる。

だが、それでも止まらない。

フィルードが約束したのは――

「此戦の後、戦功を立てた者は貴族に列する」

一足飛びの身分上昇。

こんな機会、二度と来ない。

守備軍団の戦闘力は異様だった。

損害など、まるで存在しないかのように前へ出る。

こちらの兵力は敵の四、五倍。

四方包囲。

ほぼ全域で戦闘が発生している。

そして缺口では、大量のドワーフ重歩兵を釘付けにしている。

……布石は打った。

あとは盤面が崩れるのを待つだけだ。

やがて、城内の“人数不足”という致命的な弱点が露呈する。

守りが薄くなった箇所を、守備軍団兵士たちは見逃さなかった。

梯子を登り、隙を突き、城壁へ飛び乗る。

最初の数波は叩き落とされた。

だが後続が増え続ける。

数が質を凌駕する瞬間が来る。

ついに、城壁上に小さな足場が確保された。

そしてそれは、疫病のように広がる。

一人が立ち、二人が続き、十人、百人――。

あっという間に拡大した。

フィルードは城外からその光景を見つめ、静かに息を吐く。

……読み通りだ。

戦争が始まって以来、ドワーフは致命的な誤算を犯していた。

フィルードは四方同時攻撃を一切行わず、缺口が開くまで本格攻城を控えた。

当然、敵は思う。

本命は缺口だ、と。

でなければ、ここまで時間をかけるはずがない、と。

だが――。

違う。

あのミノタウロス重歩兵は、囮だ。

あるいは餌。

今回、その餌には十分な重みを持たせた。

敵の主力を引きつけるために。

本当の殺し手は、圧倒的な数を誇る守備軍団兵士たち。

個の力は弱い。

だが数は力だ。

ミノタウロスよりも、突破の可能性は高い。

敵が軽視すれば即座に崩す。

敵が重視すれば、別の場所が空く。

どちらを選んでも、詰みへ近づく。

……選択肢を与えた時点で、勝ちは見えている。

城内のドワーフ将軍も、異変に気づいた。

大量の敵が城壁に登っている。

顔色が変わる。

「騙された! 缺口に一万五千を置いたが、城壁上は一万強しかいない!」

焦りが声に滲む。

「あの獣人どもが、ここまで訓練されているとは……! 五千の重装を割き、城壁へ回せ! 必ず殲滅せよ!」

命令は迅速だった。

だが――遅い。

大量のドワーフが缺口側に引き寄せられた結果、他の守備はさらに薄くなった。

第二の足場が奪われる。

それも急速に拡大。

三十分も経たぬうちに、南側城壁は完全制圧された。

フィルードは即座に次の手を打つ。

床弩隊を城壁へ登らせ、弩車を吊り上げる。

城壁上から城内へ射撃開始。

一面を失ったドワーフ兵たちは、もはや大勢が決したことを悟る。

それでも将軍は、最後まで抗う。

床弩隊が陣地を構築。

最初の標的は、缺口付近でミノタウロスと激闘する重装精鋭。

他の兵とは鎧が違う。

明らかに選抜された部隊だ。

「シュシュシュ……!」

弩矢が降り注ぐ。

フィルードは食い入るように見つめる。

だが――。

矢は命中する。

衝撃で吹き飛ばす。

しかし、貫通しない。

……何だと?

瞳が細まる。

「魔法は感じない……。純粋な材質か?」

床弩の矢頭は、鹵獲したドワーフ鎧を溶かし再加工した最高級品。

それでも抜けない。

ドワーフの製鉄技術が、ここまで進んでいるとは。

……危なかったな。

もしミノタウロスの剣を切れ味重視のままにしていたら、鎧で止められていただろう。

打撃特化へ改良した判断は正しかった。

フィルードは即断する。

「小型投石機を城壁へ上げろ!

三台の魔鉄砲もだ! 奴らに砲撃を教えてやる!」

まず火砲が引き上げられる。

据え付け、導火線に火。

「ドン! ドン! ドン!」

三連射。

砲弾が左右城壁を吹き飛ばす。

城垛が崩れ、土煙が舞う。

下へ撃てれば重装部隊を狙いたい。

だが角度がない。

それでも心理的圧力は絶大だ。

援護を受け、兵士たちが東西の城壁へ殺到。

士気は頂点。

さらに十数台の投石機が上がる。

石弾がドワーフ隊列へ叩き込まれる。

黒鉄の鎧が弾き飛ばされる。

フィルードは投射位置を後方へ限定。

誤射は許されない。

火砲と弩車、投石機。

三重の圧力で、両翼の敵軍は崩壊を始める。

数時間後――

四面の城壁、すべて制圧。

城内で抵抗するドワーフは、もはや瓮中之鳖。

ミノタウロスは盾陣を組み、缺口を封鎖。

攻撃はしない。

逃げ道を断つだけ。

ドワーフ兵は城門へ殺到する。

だが城壁上には投石機と床弩がずらりと並ぶ。

逃げ場はない。

フィルードは魔力を込め、声を響かせた。

「城内のドワーフ兵よ!

無駄な犠牲を払うな! 完全に包囲されている!

城壁上には大量の投石機がある!

まだ抵抗するなら、石弾を投射する!

その時の損害は――覚悟しておけ!」

……選択肢は与えた。

あとは、相手がどう動くか。

だが結末は、もう見えている。

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