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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第四巻 商人から領主へ ――選ばされた支配

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第370章 血煙の中で盤面を読む者

数千名の弓弩騎兵は、わずかに開けた空地を見つけると、即座に馬から飛び降りた。

三組に分かれ、間髪入れず三段射撃を開始する。

……よし、判断は悪くない。

俺がマイクなら、同じ手を打つ。機動を捨て、一瞬で火力を最大化する。今は“速さ”より“制圧”だ。

大角羊騎兵たちも、山麓の空間が狭く、退路がないことを悟っていた。彼らもまた距離を取り、加速をつけて再突撃の構えを取る。

騎兵同士の激突――。

それは長い戦いではない。一瞬で決着がつく、運命の交錯だ。

雷鳴のような轟音とともに、両軍が正面衝突した。

わずか一合。

その一瞬で、双方から大量の兵が鞍から弾き飛ばされる。

地面に叩きつけられ、踏み潰され、悲鳴が土煙に呑まれる。

だが――それで終わりではない。

ちょうどその時、近くで待機していた弓弩手たちが、大角羊騎兵隊へ向けて直射を開始した。

「シュシュシュシュ……!」

空気を裂く音が連なり、弩矢が疾風のごとく降り注ぐ。

矢はドワーフの鎧の隙間を穿ち、あるいは大角羊の首や胸に突き刺さった。

射抜かれたドワーフは即座に落馬する。

傷を負った大角羊は狂乱し、主を乗せたまま暴れ回り、味方の隊列をも乱す。

……流れが、こちらに傾き始めた。

マイクが命を顧みず牽制し続けたおかげで、山上の直属軍団戦士たちも勢いを取り戻し、登ってきた大角羊騎兵の掃討を加速させた。

三、四人一組で長槍を構え、呼吸を合わせて突き出す。

騎上のドワーフは高さの優位を持つ。最初は押し込まれる場面もあった。

だが――数だ。

こちらは圧倒的多数。

落馬するドワーフが増えるごとに、戦場の天秤は静かに傾く。

やがて、一部の弓弩隊が山下へ向けて再び射撃を開始した。

ガロも混沌の極みに達した戦況を瞬時に見抜き、山上の投石機へ攻撃命令を下す。

兵士たちは数十ポンドの石を装填し、拉力と慣性を利用して崖下へ放った。

巨石は唸りを上げ、攻城中のドワーフを次々と弾き飛ばす。

骨が砕け、盾が割れ、陣形が歪む。

遠方の見張り台でその光景を見たドワーフ将軍は、明らかに表情を歪めた。

敵の弓弩隊が、再び動き出した。

送り出したはずの大角羊騎兵は、ほとんど成果を上げられなかった。

マイクに翻弄され、急速に数を減らし――十数分後、両側の崖を攻めていた騎兵はほぼ壊滅した。

盤面は、再び振り出しに戻る。

だが犠牲は重い。

今、ドワーフは木寨の城壁の半分を奪取していた。

残る半分を、重装ミノタウロスたちが死守している。

その足元には、すでに死体が小山のように積み上がっていた。

……この消耗、想定以上だ。

幸い、山上の弓弩と投石機が後方増援を抑え込み、城壁も少しずつ奪還し始めている。

だがドワーフ将軍も愚かではない。

このままでは再び攻城は失敗する――そう悟ったのだろう。

彼は即断した。

隣の将軍へ向けて怒号を飛ばす。

「二万を率い、両側の山脊から敵弓弩陣地を攻撃しろ! 奪取は不要! ただ射撃を止めさせろ!」

命じられた将軍は顔を曇らせる。

「将軍、あの弩矢は鋭すぎます。我らが登る前に鎧を貫きます。大量の損害が出ます!」

正論だ。

だが戦場において、正論は必ずしも最適解ではない。

ドワーフ将軍は冷たく言い放つ。

「盾を掲げ、ゆっくり進めばいい。損害は避けられん。だが好き放題撃たせるよりはマシだ。長引けば士気が削られる。命令に従え!」

……決断力はある。

敵ながら、侮れない。

やがて、二万のドワーフが二手に分かれ、山脊を登り始めた。

一方、大角羊騎兵は完全に崩壊。

数千が命からがら本陣へ戻る。

マイクもまた、二千以上の騎兵を失っていた。

この戦いが、いかに苛烈かを物語っている。

城壁上でそれを見ていたブルースは、目を細めた。

兵は何度も交代を繰り返し、限界に近い。

こちらが二交代すれば、敵は四交代。

一人で二人分を戦っている計算だ。

……それでも、崩れない。

ドワーフの猛さは想定以上だった。

これほど戦える種族が、なぜ長年ケンタウロスに抑え込まれていたのか。

理解が追いつかない。

だが今は分析より対処だ。

ブルースは伝令に命じた。

「山上へ行け! 弓弩陣地を死守せよ! 退くな!

それと万夫長に伝えろ――石で叩き潰せ! 今こそ使う時だ!」

二万のドワーフが中腹へ到達する。

山上の兵は、あえて無視した。

頂上まで二、三十メートル。

そこで初めて、石を落とし始める。

ゴロゴロと、重い音。

次の瞬間、巨石が盾へ激突した。

「ドン! ドン! ドン!」

精巧な盾も、慣性の前では無力。

砕け、押し潰され、後列を巻き込む。

フィルード軍団は石投げの熟練者だ。

一度に投げ切らない。

数秒おきに、波状で落とす。

恐怖を持続させるために。

石は有限。

投石機にも残さねばならない。

ドワーフは損害を出しながらも、止まらない。

まるで死を命じられた軍勢。

どれほど倒れようと、前進を続ける。

距離はゆっくり、だが確実に縮まる。

山上の兵は驚くほど冷静だった。

陣形を崩さず、計算通りに石を落とし続ける。

……いい。統制はまだ生きている。

正面では、投石機と弩車の集中投入により、木寨はようやく奪還された。

だが、もはや城壁を奪い返すかどうかに大きな意味はない。

城下には死体が積み重なり、城壁の高さに迫っている。

ドワーフは梯子すら不要になりつつあった。

同族の死体を踏み台にし、飛び上がってくる。

血と肉が階段となる戦場。

……ここからが、本当の勝負だ。

俺たちは持久で勝つ。

敵は勢いで押す。

だが勢いは、必ず尽きる。

その瞬間を、俺は待つ。

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