第37章 階級
「まずは、この普通の牛革から値段を聞かせてもらおうか」
フィルードが懐から取り出したのは、ピッグマンの部族から奪った牛革だった。
支配人コンドは目を細め、重たげに口を開く。
「……蛮牛の革は、これ以上せいぜい二銀貨の上乗せが限界です。これがモニーク市での最高値ですよ。もし納得できないのなら、取引はここまでだ」
さらに彼は声を潜めて続ける。
「それに普通の牛革も、戦乱の影響で値が上がってはいますが……十銀貨を超えることはない。特別に一銀貨だけ上乗せしましょう。羊の皮は従来通り一枚十五銅ファニーです。ただし条件がひとつ。今後もし品を持ち込むときは、必ず我が商会を最優先に考えていただきたい」
値段を聞き終えると、フィルードはゆっくり頷いた。
「……いいだろう。取引成立だ。今後は貴商会を優先する」
交渉は終わり、重い皮袋を受け取った瞬間、心の底から安堵がこみ上げてきた。
街を出るとすぐに牛と羊の市場へ向かい、手持ちの家畜を全て売却。結果、手元には合計で百四十五枚もの金貨が残った。――一夜にして大金持ち、と言ってもいい額だ。
まずはマックへの借金を完済し、利息も含めて返済を済ませる。
その後、粗鉄の斧百本、鍬百本、さらに柄の付属品を購入。木塀建設用に生鉄の長釘を満載した荷車、鍋六つも加えると、支出は五十二金貨に達した。
さらに、鍛冶屋に依頼して投槍五百本と投槍器を発注。これは十一金貨。
その合間にカールを訪ね、軍のコネを通じて横流し品の長槍を破格の値で手に入れた。市場では穂先だけで二銀貨は下らない精鉄の槍を、一本たった一銀貨で――しかも柄付きでだ。
「さすがに安すぎるな」
フィルードは謝礼として十銀貨をカールに押しつけた。
結果、槍を三百本購入。さらに馬の飼料や安酒、ライ麦などを買い込み、残金は六十二金貨余り。
――これでようやく、領地建設に必要な基盤が整う。
だが、それだけでは足りない。
労働力を確保しなければ。
足が自然と奴隷市場へ向かっていた。
◇◇◇
この国には明確な身分階級が存在する。
第一は王、第二は貴族。
その下に自由民、農奴、そして奴隷。
傭兵たち――フィルードも含めて――は第三階級に属する自由民だが、状況次第で農奴へと転落する危うさを常に抱えている。
農奴は半ば奴隷のような立場で、貴族への重税を課せられ、逃れることもできない。
そして、借金が自分の価値を超えれば――奴隷として売られる。
そこに人権などない。家畜と変わらぬ扱いを受けるだけだ。
市場に近づいた瞬間、鼻を突く悪臭が漂った。檻に詰め込まれた人々の呻き声と、商人たちの声が入り混じる。
「おや、そこの旦那様! 立派なお方とお見受けしました。当店の女奴隷はいかがです? 皆、美しく従順で、しかも調教済みですよ。夜の相手としても、必ずご満足いただけます」
軽薄な笑みを浮かべる小太りの商人が声を掛けてきた。
フィルードは眉をひそめたが、試しに尋ねてみる。
「いくらだ?」
「旦那様の目に留まったのは運がいい。この娘は今日が初めてのお披露目でしてね……特別に一金貨でどうでしょう!」
「……もっと年上はいないのか。料理ができる人材だ」
「ほう、なるほど! 旦那様はそういう趣向でございますか。でしたら、こちらを」
商人はにやつきながら裏庭へ案内した。そこには、すでに子を産んだことのある女奴隷たちが並んでいた。
「どうです、皆美しくて成熟した魅力もございます。しかもお値段は先ほどと同じ、一人一金貨!」
フィルードは心底呆れ、首を振った。
「勘違いするな。欲しいのは力仕事ができる召使いだ。見た目は問わん」
「……なるほど、そういうことでしたか」
商人はわざとらしく顔をしかめ、庭の隅に並ぶ奴隷たちを指し示した。
「こちらでしたら、一人二十銀貨。見た目は粗末ですが、農作業や運搬の力仕事なら問題ありません」
そこには醜悪で痩せこけた女たちが並んでいた。確かに安価だが、頼りなさそうでもある。
フィルードは一瞥したあと、さらに口を開いた。
「……壮年の男はいくらだ?」
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