表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第四巻 商人から領主へ ――選ばされた支配

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

369/450

第364章 歩兵、盤上に躍る――補給線を断てば戦は半ば終わる

エレナは静かに頷くと、風のようにその場を去っていった。

私――フィルードは、その背中が完全に見えなくなるまで視線を外さない。

そして誰の目も届かなくなった瞬間、表情を一変させた。

……甘い顔は、ここまでだ。

先ほどは軽く言ったが、実際のところ今回はこちらが追い詰められている。

あの高性能の魔法武器が完成すれば、私の大鳥部隊にとって致命的な脅威となる。空の優位が崩れれば、戦局は一気に拮抗する。

こちらは数では勝る。だが、装備の質は明確に劣る。

数だけで押し切れるほど、相手は甘くない。

しかも、私の勢力内部はまだ百廃待興の段階だ。

支配は広がったが、民心は完全に固まっていない。

もし大きな敗北を喫し、連鎖的に不安が広がれば――

内乱は一瞬で燃え上がる。

外敵よりも恐ろしいのは、内部崩壊だ。

正直に言えば――

もし相手がミノタウロス勢力の成立を要求しなかったなら、私は妥協していた可能性もある。

ドワーフ捕虜を手放すことすら、選択肢に入れていた。

だが、あの要求は違う。

あれは私の急所を正確に突く一手だ。

ミノタウロスを独立させれば、私の軍事中枢は崩れる。

妥協?

あり得ない。

これは盤上の勝負だ。

一歩でも引けば、即詰み。

私は賭ける。

食糧さえ確保できれば、大規模な反乱は起きない。

各地から青壮年を前線へ吸い上げ、後方の不穏分子を徹底的に抑え込む。

反乱の芽は、育つ前に刈る。

建国戦争とは、そういうものだ。

血の雨も、狂風も、すべて織り込み済み。

歴史上、穏やかな空気の中で生まれた王国など存在しない。

この戦いは五分。

勝率は半々。

だからこそ、慎重に。

冷静に。

一手ずつ、相手の呼吸を奪う。

さもなくば、本当に峡谷領地まで押し戻される。

それだけは、絶対に許さない。

七日後――

五万の人獣連合軍が、密かに山脈を越え、獣人王庭北部へと侵入した。

完全なる孤軍。

補給は牛の群れに依存。携行食糧は限られている。

長期戦は不可能。

だからこそ、狙うは補給線。

行軍中、伝令兵がガロとブルースのもとへ駆け込んだ。

「両軍団長殿、北方にドワーフの運糧隊を確認。規模三~四万人。うちドワーフ戦士は一万以上。現在、南進中!」

ブルースとガロは一瞬視線を交わす。

迷いはない。

「北方侵入後の初戦だ。必ず撃破する。」

ブルースは続ける。

「マイク軍団長への伝令は?」

「既に連絡済み。二日以内に合流可能。高速で接近中です!」

完璧だ。

ブルースは五万の大軍を前進させ、敵の必経路を塞いだ。

数時間後、敵運糧隊が視界に入る。

先頭のドワーフ将軍は、突然現れた大軍を見て即座に理解した。

――待ち伏せか。

だが彼らは重荷を背負っている。

食糧を捨てなければ、逃げ切れない。

数秒の逡巡。

そして決断。

「全ドワーフおよび犬頭族!荷を捨てろ!全力撤退!

ここでの事態、陛下に報告せよ!」

食糧が次々と地面に投げ捨てられる。

逃走開始。

ブルースはそれを冷静に見ていた。

動揺はない。

「前進。」

捨てられた食糧は膨大。

だが彼は欲張らなかった。

数日分だけ確保し、残りは焼却。

補給を断つ。

それが目的。

逃げる敵は追わない。

マイクが来るまでは追撃しても意味がない。

犬頭族の耐久力は高い。無理に追えば損耗する。

焦りは愚策。

二日後、ついにマイク軍と合流。

戦域は一気に拡大した。

斥候網は方円百里を覆い、小さな動きも見逃さない。

やがて――

もう一つの運糧隊を発見。

規模三万超。

情報が入った瞬間、ブルースは直進。

再び必経路を封鎖。

マイクは騎兵を遠方に配置し、監視と牽制を担当させる。

一日後、両軍遭遇。

敵は再び荷を捨て、逃走を選ぶ。

だが今回は違う。

マイクの騎兵が即座に展開。

間合いを保ちつつ牽制。

弓弩が多いため接近しすぎない。

だが圧をかけ続ける。

犬頭族は隊列内で混乱。

速度は著しく低下。

その間に、ブルース本隊が背後を遮断。

退路、完全封鎖。

指揮官も理解した。

逃げ切れない。

降伏すれば責任は確実。

ならば――戦う。

ドワーフ兵と犬頭族で簡易陣形を構築。

場所は丘の近く。

本来なら高地を取るべきだが、ブルースは隙を与えない。

動けば即座に接近し、矢で威嚇。

完全に主導権はこちら。

戦闘は一触即発。

敵はドワーフ、犬頭族に加え、数千のミノタウロスを含む。

装備は精良。

対するブルース軍にも数千のミノタウロス。

距離が縮む。

百メートル。

――来る。

次の瞬間、矢の雨が滝のように降り注ぐ。

だが。

フィルード配下の兵は一斉に盾を掲げた。

私は全軍に盾を支給している。

背中に常備。

軽量木材に獣皮を重ねた対飛び道具用。

食糧を削ってでも、これは持たせた。

理由は単純。

この世界の医療水準を、私は知っている。

汚れた矢傷。

小さな裂傷。

軽視すれば感染し、後に死ぬ。

戦場で即死しなくとも、数週間後に兵は消える。

それが最も厄介だ。

目に見えない損耗。

だから防ぐ。

盾は、命の保険。

敵のドワーフ戦士は、こちらの盾の多さを見て射撃を止めた。

距離五十メートル。

大型弓弩が発射される。

前列のミノタウロス重装歩兵が重盾で受け止める。

しかし威力は凄まじい。

盾に亀裂。

時に兵ごと吹き飛ばされる。

ブルースは歯を食いしばる。

だが――

隊列は崩れない。

それが救いだ。

精良装備のミノタウロスだからこそ耐えられる。

もしジャッカルマンが前列なら?

盾ごと貫通。

即壊滅。

やはり編成は正しかった。

……盤面は整った。

歩兵同士の正面衝突。

ここからが本番だ。

私の読みが正しいことを、戦場で証明してやる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ