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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第四巻 商人から領主へ ――選ばされた支配

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第363章 不可避の転輪――決戦はすでに始まっている

それはもはや、かつての爆撃を単なる攻撃ではなく――

一種の「疫病」へと変えたに等しかった。

一度広がれば、恐怖は自動的に増殖する。

爆弾そのものよりも厄介なのは、「次はいつ来るか分からない」という不安だ。

……戦争とは結局、物資ではなく精神を削る競技だ。

俺は最初から理解していた。

相手を屈服させるには、中途半端な打撃では意味がない。

決定的な一撃。

「まだ戦える」と思わせている限り、交渉は永遠に引き延ばされる。

だから――ここで折れる選択肢は存在しない。

そう判断した俺は、あえて感情を爆発させたように振る舞った。

「貴様らの条件など、天方夜譚もいいところだ。」

幕舎の空気をわざと凍らせる。

「帰ってドワーフ王に伝えろ。

和平を望むなら、最低でも五千名のドワーフ捕虜を残せ。

そして即座に元の領土へ撤退しろ。

ミノタウロスは好きにしろ。ただし――今後この件に一切関わるな。」

使者の表情が完全に固まった。

予想外だったのだろう。

彼らから見れば、俺の基盤はまだ脆弱。長期戦になれば崩れる存在のはずだった。

……だから譲歩を引き出せると踏んだ。

甘い。

沈黙の後、使者が低く言った。

「フィルード陛下、どうか慎重に。

あなたは現在、我々とアモン王国、双方と戦っています。

基盤が固まらぬ中で消耗戦になれば、不利なのは明白です。

先ほどの条件も、王国内の長老たちが必死に説得してようやく成立したもの。本来、我が王は和平など望んでおりません。」

俺は思わず笑った。

――なるほど。

つまり「これが最後の譲歩」だと言いたいわけか。

「ご苦労なことだな。」

椅子にもたれながら手を振る。

「遠慮はいらん。戦いたいなら戦え。

北にミノタウロス大勢力を築く?

それは我が国の根を掘り返す宣言と同じだ。

我が多種族王国には大量のミノタウロスがいる。

そんな看板を立てて、私が同意すると本気で思ったか?」

視線を鋭く向ける。

「しかも捕虜一、二万のうち数千だけ返す?

質までそちらが選ぶ?

戦争開始以来、負け続けているのはどちらだ。

まるで私が劣勢のように振る舞うな。」

短く言い切る。

「条件は先ほど述べた通りだ。復命しろ。」

手を振ると、衛兵が使者を退出させた。

使者は怒りを隠しきれないまま去っていった。

――予想通りだ。

翌日、報告を受けたドワーフ王は激怒したらしい。

羊の脚を投げつけ、怒号を上げたという。

「卑劣な人間め!」

そして領主たちを見回し、低く言った。

「見たか。あの男の野心を。

数度の勝利で天下無敵のつもりらしい。

……私の戦略計画に、まだ異論はあるか?」

幕舎は完全な静寂に包まれた。

誰も口を開かない。

それが答えだった。

「全員黙るなら、計画通り進める!」

即座に魔獣騎兵へ命令が下り、犬頭族の大規模動員が開始された。

――そして数日後。

敵から使者は来ない。

交渉は終わった。

俺は机の上の地図を眺めながら確信した。

来るべきものが、来ただけだ。

その時、メイヴが慌ただしく駆け込んできた。

「陛下! 辺境方面より報告です!

大量の犬頭族労働部隊が前進中。

三万人規模が一隊、護衛は数千のドワーフ兵のみ。

同様の部隊が五隊以上確認されています!」

続けて報告する。

「騎兵では完全撃破できません。散開しても再集結します。

さらに敵大営では炊煙量が増加。食糧統制も緩和されています。

……決戦準備と思われます。」

俺は頷いた。

驚きはない。

すべて想定内。

長い沈黙の後、静かに命じた。

「偵察を継続。

マイクたちに伝えろ。戦力温存を最優先。

正面衝突は禁止だ。」

精鋭騎兵は消耗品ではない。

育成に何年もかかる。

ここで削る価値はない。

メイヴは即座に退出した。

俺はブルースへ視線を向ける。

「五千の人間兵と三万の王国直系獣人軍を率いろ。

耀獣城を迂回し、ガロと合流。

その後、運糧隊を重点的に叩く。」

一拍置く。

「徹底した隠密行動だ。

発見される時間を一刻でも遅らせろ。」

ブルースは深く頷いた。

理解している。

これは略奪戦ではない。

補給線そのものを戦場へ変える段階だ。

――戦争の強度を一段引き上げる。

彼が去ると、エレナが不安げに口を開いた。

「……全面戦争になるわね。

直属軍を北へ送れば後方は混乱する。

敵主力が救援に動けば、私たちも衝突せざるを得ない。

それこそドワーフ王の望み通りじゃない?」

俺は少し驚き、そして満足した。

状況理解が速い。

「その通りだ。」

素直に肯定する。

「彼らが動員を決めた時点で、決戦は不可避だ。

だが主導権はまだこちらにある。」

地図を指でなぞる。

「正面衝突すれば勝率は五分。

だが今は違う。

後方補給を叩けば、必ず焦る。

救援に北上すれば――」

指を弾く。

「我々が高速接近し、襲撃を繰り返す。

帰還を阻害する。

機が熟せば、そのまま決戦へ転換可能。」

相手は常に後手に回る。

対応に追われ、判断を誤る。

「選択肢はこちらにある。

問題は戦局次第だが……時間だけはもう残っていない。」

エレナは重く頷いた。

俺は軽く笑う。

「それほど心配するな。

今回の攻勢、奴らは少し意地になっている。

何度か痛い目を見れば、いずれ席に座る。」

そして最後の指示を出した。

「大鳥で北へ向かえ。

ケンタウロス勢力に連絡を取れ。

状況をすべて伝えるんだ。」

草原の狂人ども。

あいつらが、この好機を見逃すはずがない。

「参戦して牽制してくれれば、ドワーフは全力を出せない。

……戦争は、早く終わる。」

俺は地図を閉じた。

歯車はすでに回り始めている。

もはや止まらない。

来るべき決戦は――

すでに始まっているのだから。

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