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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第一卷 傭兵から商人へ① ――異世界サバイバルと最初の血

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第34章 攻撃されたジャッカルマンの部族

まず、4900ポンドの大豆を買い、続いて6300ポンドのライ麦を仕入れた。

店主は目を丸くし、これほどの大口取引に慌てて端数を切り捨て、金貨26枚を受け取った。

「……はぁ、やっぱり財布が一気に軽くなるな。」

馬車の中で勘定を確認したフィルードは、胸の奥がチクリと痛んだ。せっかく手に入れた金貨七十余枚が、もう半分以上消えている。領地を持たぬ身の辛さ――加工や保管のたびに余計な出費がかさむのだ。

さらに加工費として金貨2枚を支払い、大豆とライ麦を混ぜて特製のパンを作らせる。

そして五日分の馬の飼料を購入、馬車は一台半がそれで埋まり、残る空きは病弱な傭兵の交代搬送に回すしかなかった。

もちろん、傭兵たち自身にも三十ポンドほどの食糧を背負わせる。二十日分に相当する重さだ。

「……これを耐え抜いたら、本物の兵士になれる。荷物運びの力も鍛えられるしな。」

フィルードはそう言って肩をすくめた。速度の出ない馬車なら、兵士たちも追いつけるはずだ。

編成も見直した。

ゾーンは商隊副長として取引を担当。

マイクは副団長に昇進。騎士訓練を受け、弓も馬も扱える彼は戦略眼も持つ。そして何より、債権者であるため責任を負わせやすい。

古参のケビンは刀盾兵を束ねる隊長に、ブルースとユリアンは槍兵の隊長に任じた。

それぞれ二十名を預かり、さらに全正式メンバーには三名ずつ新兵を付けた。

「無茶な命令はするな。ただし合理的なものなら従わせろ。……勇敢さを示した者だけを正式に加える。」

フィルードの声は厳しかった。傭兵団の上限は百人。収入が増えるか、古参が戦死でもしない限り、無闇に拡張はしないつもりだ。

辺境に踏み入ると、日はすでに暮れかけ、二日ほど慎重に進んだある夕方のこと。

仮眠を取っていたフィルードのもとへ、マイクが馬を駆けて戻ってきた。

「隊長! コボルトの部族は見当たりませんでした。ですが……十マイル先にジャッカルマンの部族を発見。その部族がピッグヘッドに襲われています。形勢は圧倒的に不利!」

「……ジャッカルマンが?」

フィルードは跳ね起きたが、すぐに葛藤に沈んだ。脳裏に甦るのは、前回の軍崩壊の記憶だ。もし二つの部族が共に人間へ矛先を向ければ、被害は計り知れない。

小隊長たちもざわめき始めた。

「隊長、干し肉も家畜もないんだ! これじゃ行軍が持たねえ!」ケビンが食い気味に言う。

「訓練は積んだ。そろそろ実戦を!」ブルースは拳を握りしめる。

ユリアンは冷ややかに笑った。「これだけ金をかけて養ってるんだ。贅沢な暮らしをしてる連中だ……そろそろ選別してもいい頃合いだろ?」

兵の目は血が騒いでいた。フィルードは深く息を吐き、頷いた。

「……よし、出るぞ!」

馬車を森の陰に置き、百五十の兵を率いて接近。補助兵には見張りを任せる。

戦闘の最中だった両部族は、人間の一団に気づき、動きを止めた。だが次の瞬間、ジャッカルマンがピッグヘッドに奇襲を仕掛けた。

「――この機に乗じてピッグヘッドを叩け!」

フィルードの号令とともに、弓兵たちが一斉に矢を放つ。矢雨に晒されたピッグヘッドは次々と地に倒れた。

二十メートルまで迫ると、兵士たちは投槍を放ち、槍兵の突進が続く。

やがて残存は二十に満たず、恐怖したピッグヘッドは散り散りに逃げ去った。

追撃に走るジャッカルマンを横目に、フィルードは兵を止め、その帰還を待った。

やがて戻ったジャッカルマンの首領は、牙を剥いて笑い、大きな羊二十頭、成牛二頭、干し肉の山を差し出してきた。

「……隊長、今こそ奴らを潰せば、ほとんど代償なしで済みます!」

ユリアンが囁き、ブルースも賛同する。だがケビンは押し黙ったままだった。

フィルードは一歩前に出て、即興の身振りで「服従」を伝えようとした。指差し、胸を叩き、繰り返し示す。

首領は歯噛みしつつも「ウラワラ」と叫び、羊十頭、牛一頭、干し肉をさらに差し出した。

「……なるほど。服従はせずとも、財で災厄を避けたいわけか。」

フィルードは冷ややかに目を細め、大きく手を振った。

「前進。ただし攻撃はするな。」

兵が一歩進むたびに、ジャッカルマンの顔色は蒼白になっていく。

やがて五十メートルの距離に迫った時、首領は耐え切れず両手を振り上げ、絶叫を繰り返した。

――交渉の天秤は、完全に人間側へと傾いたのだった。

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