第33章 訓練と増員
刀盾兵たちも、数日間の対抗訓練で目に見える進歩を見せていた。
以前はただ盾を構えて無謀にぶつかり、力任せに斬りつけるだけだったのが、今では敵の動きを見極め、守りから反撃に転じることを覚えたのだ。
弓兵も同様だ。数日前まで牛にすら当てられなかった矢が、今では的確に命中するようになり、さらには一斉射撃まで形になってきている。両手武器も一応扱えるようにはなったが、まだぎこちなさが残り、本番になればまた素人の我流に戻ってしまうだろう。
フィルードは本来なら肉体鍛錬──重りを背負って走らせたり、腕立てや腹筋を追加したいと思っていた。だが、この世界の環境と限られた食糧事情では無理があった。筋肉を酷使すれば、その分だけ大量のタンパク質と脂肪が必要になる。補給が追いつかない以上、無理な鍛錬は兵士を弱らせ、万一の戦闘で命取りになる。
負傷者の中で、重傷者二人が亡くなった。感染が原因だった。一方で、軽傷者たちは驚くほど早く回復し、炎症の兆候もなかった。この世界の人間の頑健さには、フィルードも舌を巻かざるを得ない。前世ならば確実に感染症と高熱に苦しむような傷口だったのだから。
その日の昼。兵たちを訓練させつつ、フィルードは各隊長の帰還を待った。
最初に戻ったのはユリオンだった。彼の後ろには三十人もの男たちがついている。皆、ぼろぼろの服をまとい、手には粗末な木槍を握っていた。
「ユリオン兄弟、お疲れ様。……随分と連れてきたな。待遇の説明は済ませたか?」
水をがぶ飲みしながら、ユリオンは力強く答えた。
「ええ、全部説明しましたよ。驚くほど簡単でした。たった二つの町を回っただけでこれだけ揃ったんです。しかも体格のいい者を選びました。食べるに困り、農奴になろうとしていた連中ばかりでしたから。『黒パンを毎日一ポンド以上出す、よく働けば給料もある』──そう言ったら、みんな喜んでついてきました!」
「……よくやった。昼食はまだだろう。豆と羊肉を煮させてある、しっかり食べろ」
ユリオンはよだれを垂らしながら大鍋へと駆けていった。
続いてブルースが三十人を引き連れて戻り、その後ゾルン、マイク、ケビンもそれぞれ三十人を連れてきた。
野営地は一気に人で溢れ返る。
こうして傭兵団の総数は一気に百九十七名へと跳ね上がった。
だが、寄せ集めの群衆をそのまま連れて旅立つのは無謀だった。フィルードは判断を改め、まず一週間の徹底訓練を行うことにした。
鹵獲した獣人の粗末な革鎧を配り、古参兵を中核に据えての訓練が始まる。課題は三つ。
一つ目は隊列を組み、規律を学ばせること。
二つ目は長槍を持たせて突撃させること。
三つ目は投槍器の使い方を覚えさせること。
厳しい訓練に耐えさせるため、フィルードは大盤振る舞いで毎日全員に生肉を三分の一ポンド支給した。
数日後、三十二人が脱落した。体が弱すぎて耐えられなかった者、知的な欠陥を抱えた者、あるいは問題児。特に六人は集団の秩序を乱したため、フィルード自ら追放した。武器を突きつけられると、彼らは黙って去っていった。
知能の低い八人については、働き手としての価値は低いが、無害だったため養うことにした。彼らは最低限の黒パンを与え、雑務を任せることにした。将来自分の領地を得たとき、農作業くらいなら任せられるだろう。
体の弱い十八人には訓練を軽減し、回復の余地を与えた。残る百十八人は基準を満たしたが、それでもまだ脆弱だった。
七日後。新兵たちの様子は一変していた。初めの混乱は消え、秩序が芽生え、行軍の形も整ってきた。
二百人近い大隊列を成して進軍を始めると、道沿いの獣人たちは影を潜め、遠巻きに覗くことさえなくなった。
四日後、一行はダービー市に到着した。三台の荷車に積んでいた豆はすでに底を尽きていた。
豆の価格はライ麦の倍以上だったが、栄養価は圧倒的に高かった。フィルードは試行錯誤の末、ライ麦七割と大豆三割を混ぜた行軍用の黒パンを考案する。
「これならエネルギー密度も高く、タンパク質も十分……肉の代用品としても使えるな」
この世界では油は肉よりも高価であり、庶民の手に入るものではなかった。だからこそ、大豆は干し肉に代わる小さな希望でもあった。
こうして、傭兵団は数だけでなく、食と訓練の基盤をも強化していったのだった。




