第31章 頼りにならない新兵たち
フィルードは荒い息を整えながら、地面に落ちていた盾と片手剣を素早く拾い上げた。まだ身体に残る疲労を押し殺し、彼は足早に戦場へと駆け込む。
残るジャッカルは三十余り──数は減ったが、その戦闘能力は侮れない。先日出会った衰弱した群れとは違い、今目の前にいる彼らは最高の状態。怪力に加え、動きも鋭く、傭兵たちをじりじりと後退させていた。
しかし、人間側にも光があった。
ブルースは長柄の巨大な斧を振り回し、群れを薙ぎ払っていく。わずかな隙を突いて斧を振り下ろすと、ジャッカルの頭蓋は粉砕され、白い液が飛び散った。
一匹が背後から長槍を突き立てるも、石の穂先は「パシッ」と砕け散る。巨体を揺らしたブルースはよろめきながらも、大斧を振り返し、その胸を鋭い突起で貫いた。悲鳴をあげたジャッカルが噛みつこうとするも、ブルースは蹴り飛ばし、転がした。
一方、ユリオンは両手剣を振るい、敵陣を切り裂く。彼を狙った三匹のジャッカルが槍と盾で押し込むも、大剣は槍を次々と両断し、圧倒的な膂力で押し返していた。
フィルードも支援に走る。迫りくる槍盾兵の突進を身をひねって避け、片手剣を斜めに振り下ろし、その腕に深い傷を与える。間髪入れずユリオンの大剣が疾風のごとく振り下ろされ、敵の片腕が吹き飛んだ。フィルードは剣先を突きに切り替え、腹を貫き、敵を絶命させた。
少し離れた場所ではマイクが馬を駆り、稲妻のように走り抜ける。馬槍は一匹を串刺しにし、なお勢いを失わずもう一匹を貫く。まるで団子のように二匹を地面へと突き刺し、そのまま駆け抜けた。騎槍を引き抜くと馬を翻し、再び戦場へ。
ゾルンも両手剣で必死に斬りつける。力は劣るものの、古参の刀盾兵たちが巧みに連携し、戦線を支えていた。
だが──問題は新兵たちだった。
まだ頼りない二十余名は、十数匹のジャッカルに追い立てられ、崩壊寸前に見えた。
フィルードは声を張り上げる。
「ユリオン、ブルース! 新兵たちを援護しろ、奴らが潰れるぞ!」
二人は即座に動き、古参兵たちが敵を引き受けて道を開けた。
フィルードはさらに叫ぶ。
「勇者たちよ、恐れるな! 槍を握りしめ、目の前の敵を突け!」
その声は新兵たちの心を支える柱となり、混乱しかけた陣形が息を吹き返す。
不器用ながら槍を繰り出す彼ら。多くはかわされるが、数で勝る分、幸運にも突き刺す者が現れた。
ブルースの斧が唸り、ジャッカルを吹き飛ばす。ユリオンの大剣が唸りを上げ、一匹を地に沈める。
皆の奮闘で新兵たちの敵は次々と斬り倒され、戦場の流れは人間側に傾いた。
やがて残る十数匹は形勢不利を悟り、背を向けて逃走する。
「追え!」
フィルードの号令に、兵たちは歓声を上げて追撃に移った。マイクの騎槍が逃げる背を貫き、古参兵たちも次々と斬り伏せる。
二匹のジャッカルだけを案内役として残し、追撃を続けること十数分。まだ部族にたどり着かないことに焦れたフィルードは、マイクへ指示を飛ばす。
「マイク! 先に戻って敗走兵をまとめ、馬車を守れ!」
「了解だ!」
マイクは馬を返し、砂塵を巻き上げて去った。
さらに五分、ついにジャッカルの部族が見えてきた。案内役の二匹は矢で射殺され、一行はそのまま突入する。
抵抗する者を斬り倒し、やがて残ったのは逃げ遅れた子供たちばかり。大半の戦士は逃げ散ったらしい。
フィルードは戦場整理を命じ、最初に商隊を襲われた場所へ戻る。そこで待っていたのは助けられた商隊の管理人、エイミーだった。
「勇者様、本当にありがとうございました! 私はこの商隊の管理人、エイミーと申します」
彼は深々と頭を下げ、財布を差し出す。
「約束の報酬、金貨三十二枚です!」
さらに馬車を指さす。
「あちらの馬車と、大豆一一〇〇ポンドも、すべてあなた方のものです!」
フィルードは頷き、受け取った。合法的に報酬を得る──それだけで十分に慈悲深い選択だった。
「約束通りですね。ところで、あなた方はどこへ向かっていたのですか? なぜジャッカルと衝突を?」
エイミーは苦い顔をする。
「我々は本来、ドヴァー城に大豆を運ぶ予定でした。ですが、道中で奴らに狙われまして……あなた方に出会わなければ、命はありませんでした」
そう言うと、逆に問い返す。
「勇者様方はどちらへ? この先には獣人の部族が無数にひしめいておりますよ」




