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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第一卷 傭兵から商人へ① ――異世界サバイバルと最初の血

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第29章 皮革と血の値段

豚頭族たちは実に慎重だった。

こちらの商隊の人数が多く、武器も精良であることを悟ったのだろう、直接襲いかかることはせず、ただ遠巻きに尾行してくるだけだった。

「気味が悪いな……」

誰かがぼそりとつぶやく。

フィルードは表情ひとつ変えず、傭兵団を率いて時折牽制を行い、結局豚頭族たちは諦めて姿を消した。

こうして五日間の行軍を経て、一行はついに目的地――ドヴァ城へと到着した。

この城は王国の最西端に位置し、海を挟んでチンザ汗国と向かい合っている。

ブライアンの話によれば、数十年前には両国の間で激しい戦争があったらしい。

野戦では、圧倒的な騎兵を誇るチンザ汗国が優勢だった。

だが彼らも、アモン王国の堅牢な都市を落とすことはできなかった。

結果として双方は決定的な一撃を与えられず、攻めては退き、退いては攻め……泥沼の末、ついに妥協に至ったという。

モニーク城と比べ、ドヴァ城ははるかに大きく、人口も豊かで、街並みも賑やかだった。

馬車の車輪が石畳をきしませ、活気あふれる市場の喧騒が耳に飛び込んでくる。

「まずは穀物を売ろう」

ブライアンの助言に従い、フィルードは豆を商店に持ち込んだ。

買い取り価格は一ポンド銅貨四フェニー。

以前より一フェニー高い。

「豚頭族の南下が影響してるのかもしれん」

ブライアンがつぶやく。長年この商路で商売をしてきた彼でさえ手を引いたほどだ、これからはもっと値が上がるに違いない。

金貨十一枚が、瞬く間に十四枚と二十銀貨へと増えた。

フィールデは内心で小さく拳を握る。

次に訪れたのは皮革工房。

彼が求めていたのは特殊な牛から採れる極厚の皮革だった。

一枚で三十ポンドもの重さがあり、三十七枚積めば馬車が一台いっぱいになる。

「これなら鉄板を象嵌すれば鉄鎧に劣らぬ強度になる」

目を細めて革を撫でるフィールデ。

値段は一枚十銀貨。モニーク城に運べば二倍の二十銀貨以上になる。まさにこの商路最大の利益商品だった。

干し肉も破格だ。牛肉や羊肉は一ポンド銅貨五フェニー。干し肉でも十フェニー。

モニーク城に持ち帰れば、倍の二十フェニーで売れる。

だがフィルードは全て皮革に資金を投じた。――人間と豚頭族の戦が近いと感じ取っていたからだ。革鎧の需要は必ず爆発的に伸びる。

だが問題は資金だった。

必要なのは三十七枚で金貨三十七枚。だが手元には二十二枚と少ししかない。十五枚も不足している。

「……半分しか積めないのは痛いな」

悩んだ末、フィルードは街の武具屋に足を運んだ。

半身鉄鎧は、中古でも六枚の金貨を要求される。モニーク城より一、二枚高い。

涙を呑みながら三着を売却し、十八枚の金貨を手に入れた。

「まるで身を削るようだな……」

それでも商売のためには背に腹は代えられない。

こうして必要分の皮革を買い揃え、さらに隊員一人あたり二ポンドの干し肉を補給。

帰路に就こうとしたとき、ゾーエンが息を切らせて駆け込んできた。

「頭! 伯爵邸から開拓法令が公布されました!」

開拓法令――それは国境を侵す豚頭族に対抗するため、三つの部族を滅ぼし、その証拠を領主邸に持ち帰れば開拓証明書を与える、というものだった。

「……なるほどな」

フィールデは口元を歪める。

「牛や羊を奪って兵士も物資も手に入れる……うまい手を考えるものだ」

魅力的な話ではあったが、彼は首を横に振る。

この地で腰を据える気はまだなかった。

まずは情勢を見極めるべきだ。

貧しい懐を抱えたまま、商隊は夜を過ごさず城を後にした。

夕暮れの荒野に野営を張り、翌朝早く帰路へと出発する。

途中、マイクが報告してきた。

「頭、三つの豚頭族部族を発見しました!」

一つは商隊を発見したが、武装を見て追跡を諦めた。

フィールデの隊には、二人の鉄鎧兵、二十一人の象嵌革鎧戦士、八人の弓兵、二十九人の槍兵――見かけだけなら十分すぎる兵力だ。

大半は烏合の衆にすぎなかったが、それでも小部族にとっては脅威となる。

正午、昼食を取ろうとした時、マイクが血相を変えて駆け戻ってきた。

「頭! 前方で商隊が豚頭族に包囲されています! 激戦中です!」

「人数は?」

フィールデが鋭く問う。

「敵はジャッカルマン、五十ほど。人間側は六十以上いますが、二十人以上が逃げ惑ってます。まともに戦っているのは三十人程度。傭兵の質は最低です」

フィールデは思案する。

頼れるのは、最初から共にいる十数人とユーリオンの部下数人――精鋭は二十足らず。

残りは烏合の衆、ジャッカルマンに襲われれば即崩壊だ。

だが――

「軍は血と火の中で鍛えられるものだ」

彼は小さく呟き、決意した。

そのときゾーエンが口を挟む。

「頭、あの連中が全滅してから出ていけばいいんじゃないですか? そうすれば物資も馬車も全部手に入ります」

「……理屈はそうだ」

一瞬心が揺れるフィルード。

だがすぐに首を振った。

「駄目だ。この道を通る商隊は限られている。そんな真似をすればすぐに俺たちの仕業だと知れ渡る。立場を失うのはごめんだ」

ゾーエンは顔を赤らめて頭を下げる。

「僕の考えが浅はかでした……」

「気にするな。積極的に意見を出すのはいいことだ」

フィルードは笑みを浮かべ、肩を叩いた。

その視線はすでに、前方の戦場に向けられていた――。

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