第28章 商隊始動、そして迫る影
荷馬車に貨物を積んでいなかったため、フィルードたちは人間の町を経由する比較的安全なルートを選んだ。
そして町に着くたび、彼は地元の傭兵を募り、選抜を始めた。
「体が丈夫で、素直で誠実な者……欲を言えば朴訥で、裏切らない人間がいいな」
面接のように一人一人を観察し、条件に合わない者は断った。
最初は不満を漏らす者もいたが、フィルードが笑顔で「団の規則は厳しい」と告げると、誰も逆らわなくなった。
やがて故郷ルビンを通り過ぎる頃には、傭兵団はいつの間にか総勢四十七人。
商隊の従業員三人も「傭兵」として数えられた。
――そして隣町。
「おおっ!? フィルード兄弟!」
迎えてくれたのは、旧友ユーリオンだった。目を丸くし、再会を喜んで駆け寄ってくる。
「数日ぶりかと思ったら……え、傭兵団、もうこんなに大きくなってるのか!?」
フィルードは満面の笑みで頷いた。
「隠すつもりはないんだ。最近ちょっとした財を成したからね。そのおかげで団を拡大できたんだ。
実は今回、ユーリオン兄弟を仲間に迎えに来たんだよ。規則も改定したんだ。食事だけじゃなく、ちゃんと給料も払う。資本がもっと増えれば、リーダー格にはさらに報酬を引き上げるつもりさ」
「な、なんだって!? 飯付きで給料まで……!」
ユーリオンの目は輝き、即座に頷いた。
「聞くまでもないさ! 今すぐ家に戻って荷物を――」
「ま、待った待った!」
慌ててフィルードが袖を掴む。
「兄弟自身はもちろん大歓迎だ。でも、できれば知り合いの傭兵にも声をかけてみてくれ。今回、団を六十人規模まで拡大するつもりなんだ」
「六十人!? 本気か!?」
ユーリオンは口をあんぐりと開け、次の瞬間には興奮を隠せず大声で答えた。
「もちろんやる! 土地を持たず、行き場のない平民なんて山ほどいる。毎年何人も餓死してるんだ。声をかければ、腕っぷしの強い奴らもきっと集まるさ!」
フィルードは真剣な表情で念を押した。
「体が丈夫で、まじめで、言うことを聞く者を優先してくれ。暴れ者や酒癖の悪い奴はいらない」
「了解だ!」
数刻後。
ユーリオンは八人の屈強な若者を連れて戻ってきた。彼らの顔つきや体格を見て、フィルードは満足げに頷く。
こうして一行はさらに進み、数日後にはついに六十名の傭兵団へと成長した。
やがて最初の目的地――ダービー城に到着する。
ここで、同行していたブライアンとも別れの時が訪れた。
「ここで俺は下りる。家族もいるし、財産もあるからな」
ブライアンは信頼できる穀物商人を紹介し、穏やかに助言を残す。
「小麦と大豆は一ポンド三フェニー、ライ麦は一・五フェニー、馬の飼料用カラス麦は一フェニーだ」
その価格は確かに破格だった。
「……じゃあ、三千三百ポンドの大豆を」
フィルードは即断し、金貨十一枚を支払う。運べば三枚以上の純利益が出る計算だった。
さらに千二百ポンドのライ麦を黒パンに加工させた。焼きたてのパンが並んだ瞬間、傭兵たちの目は輝いた。
「これが……俺たちの十日分の食料か」
黒パンを抱え、皆どこか誇らしげだった。
だが、喜んでばかりはいられない。
馬の飼料代が重くのしかかる。五頭の馬を維持するだけで、兵士二十二人分の食費に匹敵した。
「……贅沢はできないな。駄馬は一頭だけ残す」
ため息をつきながらも、冷静に計算を重ねる。残る資金は金貨八枚余り――決して余裕はなかった。
翌朝、ブライアンは城外まで見送りに来てくれた。
「フィルード弟よ。君には大志がある。だが今は焦るな。初期の蓄積が最も大切だ」
「ええ、分かっています。来月また戻ってきたとき、兄貴と心ゆくまで飲みましょう」
笑顔で敬礼し、仲間たちを促して商隊を北へと進ませた。
やがて国境地帯。
人間の集落はほとんどなく、緊張が漂い始める。
フィルードは慎重に命じた。
「マイク、偵察を頼む。周囲を注意深く探ってくれ」
昼前に一度休憩を取り、進軍を再開して二時間ほど。マイクが馬を走らせて戻ってきた。
「頭! 前方に小さなジャッカルマンの部族がいる! およそ二百、戦士は七十ほど!」
「……避ける。今の俺たちは新兵ばかりだ。まともにぶつかれば壊滅する」
フィルードはきっぱりと指示を下した。
「戦うのは後だ。まずは鍛え上げて、兵士として形にしてから――」
マイクは渋い顔をしつつも、理解して頷く。
商隊は危険を避けつつ進軍した。だが別の部族にも遭遇し、しかも移住してきた形跡があった。
「……豚頭族たちが南下している」
その確信が、フィルードの胸に重くのしかかる。
「このままじゃ、大規模な戦争は避けられない……」
だからこそ、彼は心に誓った。
――戦争が始まる前に、この六十人を鍛え上げる。必ず。
しかし数日後。
ついに商隊は、一つの部族に発見されてしまうのだった――。




