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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第一卷 傭兵から商人へ① ――異世界サバイバルと最初の血

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第27章 新たな戦いへの備え

フィルードは手にした金貨を見つめ、心がわずかに揺らいだ。まさかコボルトの家畜が、これほどの価値になるとは思っていなかったのだ。

しかし、すぐに首を振り、迷いを打ち消す。

「兄貴、その提案はありがたいですが……今の俺には決まった拠点がありません。大都市では物価が高すぎて長居できない。かといって、小さな町では地元の貴族に警戒され、居場所を失うでしょう。どちらも長続きする策ではありません。

それに、豚頭族の掃討には必ず死傷者が伴う。傭兵を募集するためには各地を渡り歩かなければならない。だからこそ、今の俺には商隊をやるのが最も現実的で、確実な選択肢なんです!」

彼はさらに続ける。

「それに、コボルトのように弱い種族は例外です。ほとんどの豚頭族はブタ頭人やジャッカルマンのように戦闘力が高い。今の俺では到底太刀打ちできない。下手をすれば全滅です……。まあ、これはいつか必ず挑むべき次の目標になるでしょうけど。」

ブライアンは腕を組み、弟の言葉をじっと聞き、やがて頷いた。

「道理だな。考えなしに突っ込むより、地盤を固めるのが先決か。」

こうして二人は契約書に署名した。

その直後、不意に一組の母子が入ってきた。ブライアンは無言で袖をまくり、懐から鞭を取り出すと、そのやんちゃな子供を容赦なく打ち据えた。

甲高い悲鳴が部屋に響き、子供は魂が裂かれるように泣き叫ぶ。

やがてブライアンは鞭を下ろし、傍らで涙を堪える母親に銀貨二枚を手渡すと、優しげな笑みを浮かべて子供に告げた。

「坊や、今日のことを一生忘れるな。今この瞬間、私はフィルードと借金の契約を結んだ。もし覚えが足りないなら……もう一度鞭をくれてやってもいいぞ?」

涙に濡れた顔で、子供は必死に頷いた。ブライアンは満足そうに頷き返す。

フィルードはその光景を呆然と見つめていた。

――これが、後に伝説となる「公証人」の始まりなのか……?

騒動が収まった後、二人は二階へ上がり、食事を取りながら夕方まで語り合った。

ブライアンは、今回だけ商隊に同行するつもりで、ダービー城に着いたら別れると説明した。そこには彼の家族と財産があり、今後はそこで暮らす予定だという。

翌朝。

フィルードは街で評判の木工所を探し、まず親指ほどの太さの投槍の柄を百八十本注文した。さらに、前世の記憶を頼りに、投槍の威力と飛距離を高める道具――投槍器アトラトルを六十本製作するよう依頼したのだ。

何度も考えた末の決断だった。

なぜなら、彼の傭兵団には遠距離攻撃の手段がほとんどなかったからだ。本来ならクロスボウを入手したかったが、これは管理品で自由には手に入らない。それに、この世界の弓や弩は威力が弱く、実戦では心もとない。

そこで、誰でも扱える投槍器を選んだのである。

投槍器の欠点は射程が短いこと。せいぜい五十メートル、有効殺傷距離は三十メートル程度で、投げられるのは二回が限界だ。

それでも殺傷力は十分で、訓練次第で戦局を変える武器になり得る。

フィルードはさらに、矢羽のようにガチョウの羽を付け、安定性を高めるよう注文した。店主は不思議そうにしたが、深くは問わなかった。金を嫌う者はいない。

交渉の末、一本六銅フェニーでまとまり、二日後に受け取りとなった。投槍器は一本十銅フェニーまで値切り落とし、金貨一枚を前金として支払った。

続いて鍛冶屋に向かい、投槍専用の穂先を注文する。提示価格は十銅フェニーだったが、粘り強く交渉し、八銅フェニーに抑えることができた。こちらも二日後の受け取りだ。

この時点で、銀貨百枚以上の支払いが必要となった。フィルードは銀貨八枚を前払いし、工房を後にする。

城外に戻ると、既に辞めた傭兵たちは去っており、負傷兵は治療を受けていた。残るのは十七名。しかし、そのうち二人は重傷で戦えず、商隊に同行できなかった。

フィルードは彼らに給与を支払う。軽傷者には四十フェニー、より重い傷を負った者には五十フェニー。重傷者には銀貨二枚、戦死者には銀貨五枚の弔慰金を遺族へ渡すよう託した。合計で銀貨七十枚。ブルースとマイクに託し、彼らの故郷の家族へ届けるよう命じた。

さらに、彼は傭兵団の制度を改めた。

食費は一日六銅フェニー以下に落とさず、月給制を導入することに決めたのだ。毎月銀貨二枚、食事付き。これにより、兵士たちの生活は安定する。

計算によれば、一人を一か月養うには銀貨八枚。傭兵団六十人を維持するには莫大な費用がかかるが、ブライアンから受け継いだ商路なら二か月で三往復でき、利益は一回につき三十から四十枚の金貨に達する。

もちろん、フィルードは商売だけに専念するつもりはなかった。彼の真の目的は兵を鍛え上げることにある。そのため、一か月に一度の往復に留め、残りの時間を訓練に充てるつもりだ。

そして、ブライアンへの返済は副収入――すなわち小規模な豚頭族掃討で得る報酬から行う。そうでなければ、いつまでも借金が残ってしまうからだ。

二日後。

すべての装備が揃い、馬車一台分の飼料も積み込まれた。

こうしてフィルード率いる一行は、新たな旅路へと踏み出した――。

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