第24章 義理と生存の狭間で選ぶ戦場
「追えっ!」
フィルードの号令と同時に、傭兵たちは雄叫びをあげて飛び出した。
小柄なコボルトたちは人間の脚力には到底かなわない。わずか十数分の追撃で半数以上が倒れ、捕らえられた数体だけが残された。
「……案内してもらおうか」
フィルドは冷えた声で命じる。
捕虜を先導に、隊商は慎重に尾行し、やがて彼らの集落へと辿り着いた。
「全員、構え!」
ためらいはなかった。フィルードの合図とともに、一斉突入。
悲鳴と怒号が入り乱れ、夜の集落は瞬く間に血と炎に包まれた。わずか数刻で小規模部族は皆殺しにされ、生き残りは一人もいなかった。
勝利のあと、フィルードは一人、煙に霞む空を見上げる。
(……もし相手が豚頭族やジャッカルだったら、こっちがやられていたな)
コボルトを見つけられたのも、彼らの鼻が異常に利くせいだろう。この道中、痕跡をほとんど残さなかったはずなのに。
戦利品は、牛三頭、羊七十余り、干し肉三百ポンド、牛皮十八枚、羊皮百五十枚近く――人口二百規模の部族にしては貧弱だが、それでも十分に価値があった。
「……ずいぶん稼がせてもらったな」
ブライアンは戦利品を一切合切フィルドに譲り渡した。
「いや、兄さん。そこまでしてもらうわけには……」
「いいんだ。今回は完全に君のおかげだ」
数度の辞退ののち、フィルードはすべてを受け取った。
「ただ――血の匂いが広がりすぎています。他の獣人を呼び寄せる危険がある。すぐに進みましょう。モニーク城までは、もうそう遠くありません」
ブライアンは一瞬ためらったが、力強くうなずいた。
「フィルードよ。お前の言う通りにする。私は全面的に従おう」
こうして一行は再び前進を始めた。三組に分かれた傭兵が先行して道を開き、商隊が後に続く。
数時間後――。
「団長!」
馬を駆って戻ってきたマイクが叫んだ。
フィルードの背筋に緊張が走る。(またか……!)
「前方で人間の部隊が獣人に包囲されています! 放っておけば全滅は時間の問題です!」
「……詳しく」
「敵はジャッカル、およそ百。人間は五十ほど残っており、装備は良好。半数が半身鉄甲、数名は全身鉄甲です。恐らく大貴族の親衛隊。戦場にはすでに双方の死体が散乱しています」
マイクの報告を聞き、フィルードは思わず口元をゆがめた。
(面白い……けど、こっちは雇われの身なんだよな)
隣で話を聞いていたブライアンが、顔を真っ青にして地面にへたり込む。
「終わった……! あれは間違いなく大貴族だ。全身鉄甲を何枚も抱えるとなれば、子爵かそれ以上だ。もし死なせれば必ず追跡が入る。見殺しにすれば、私たちまで処罰される!」
ブライアンは頭を抱えて嘆いた。
「まったく……呪われた旅だ……」
フィルードも思わずため息をつく。
本当は軽い気持ちで覗くだけのつもりだったのに、これでは逃げ道がない。
「……兄さんの言う通りなら、助けるしかないですね。追跡されれば一巻の終わりですから」
彼は真剣な眼差しでブライアンを見た。
「兄さん。モニーク城まではもうすぐです。マイクを護衛につけますから、先に入城してください。もし私の救援が失敗しても、あなたが生き残れば私も本望です」
ブライアンは深く息を吐いた。
「……お前、義理堅いな。私は役に立てん。だが約束する。城に戻ったら、あの提案、正式に契約しよう」
さらに、馬車から革鎧や鉄を仕込んだ鎧を取り出し、傭兵たちに譲った。
「これで少しは勝算が高まるはずだ」
思わぬ贈り物に、フィルドは頭を下げた。
「感謝します。兄さんは急いで出発を」
マイクは渋々ながらブライアンの護衛を引き受け、商隊は城へ向かう。
フィルードは遠ざかる車列を見届けると、部下に装備を着替えさせ、深紅に染まった戦場へと歩みを進めた。
血と絶叫が渦巻く戦場では、すでに人間は四十二、ジャッカルは八十四にまで数を減らしていた。
双方とも疲弊し、息も絶え絶えに剣を振るっている。
――その場に突如現れたフィルードたちに、戦う両軍が一斉に動きを止めた。
緊張が場を凍りつかせる中、フィルードは前へ歩み出る。
(さあ……この不公平な戦場で、俺が選ぶのはどっちだ?)




