第229章 高台逆転・関隘攻略戦
エドモンはフィルードの言葉を聞き、わずかに眉を吊り上げた。
「ほう? フィルード子爵、何か良策があるというのか?」
フィルードは一切の逡巡なく答えた。
「臣は先ほど、坐騎に乗って関隘の周囲を一周し、地勢の開けた位置から内部を観察いたしました。その結果、城壁上に配置されているのはほとんどが農奴兵であり、正規兵はごくわずかに過ぎません」
(――やはり、だ)
内心で確信する。
これほどの関隘にもかかわらず、守備の質が明らかに低い。これは偶然ではない。
「つまり現在、関隘内の兵力は極めて希薄です。思い切って正面から攻めれば、一気に陥落させられる可能性が高いと判断しました」
エドモンは腕を組み、しばし沈黙した後、静かに頷いた。
「確かにその通りだ。北方に展開していた敵の精鋭は、すでに我々がほぼ殲滅した。
今この場で我々に抗し得るのは、王都に残る国王直属の親衛軍くらいだろうが、ここへ回すには最低でも十日はかかる」
彼は視線を上げた。
「よし、明日、試してみよう。ところでフィルード、お前は攻城戦の研究もしているのか?」
この問いを聞いた瞬間、フィルードの頭の中に浮かんだのは一つだけだった。
――一刻も早く、この関隘を突破し、敵領へ踏み込む。人口を確保するために。
全力で思考を回転させ、口を開く。
「もちろんでございます、陛下。
まず城外に簡易的な高台を築き、弓箭手を登らせて制圧射撃を行います。我が軍の弓箭手は質・量ともに絶対的な優位があります」
(矢戦で負ける要素はない)
「敵が頭を出すことすらできなくなれば、歩兵が雲梯を掛けて登攀可能となります。
時間も犠牲も最小限で済むはずです」
エドモンは一瞬、言葉を失った。
「……この関隘の城壁は十数メートルあるぞ。どうやってそれを超える高台を築く?
それほどの工事量なら、投石機で叩いた方が早い」
フィルードは即座に首を振った。
「ご心配には及びません。耐荷重はそれほど必要ありません。弓箭手を乗せるだけなら、十分な構造で済みます」
エドモンは短く息を吐き、決断した。
「よし、一度だけ信じてやろう。ただし猶予は一日だ。それで駄目なら、投石機で確実に落とす」
「御意」
フィルードは力強く頷いた。
「ただし、そのためには最初に弓箭手全員を敵の八十メートル圏内まで前進させ、敵弓兵を完全に制圧する必要があります。その間に、臣が工匠を率いて高台を築きます」
「問題ない。今すぐ軍を動かせ」
号令一下、大軍は即座に動き出した。
まず数千の刀盾兵が突進し、敵から七十メートル地点に防御陣地を構築する。
城壁上からは狂ったように矢が降り注ぎ、盾を叩く音が連続した。
だが彼らは全員、巨大盾と鉄甲で武装している。
流れ矢など意に介さない。
敵の射撃が一巡すると、今度はこちらの弓箭手が展開した。
六千余名。うち四千は正規弓兵、残りは鹵獲弓を持たされた一般兵だ。
(敵弓兵は……二千程度か)
フィルードは即座に数を割り出す。
これなら、押し切れる。
八十メートル地点から、一斉射撃が始まった。
さらに八十名の超凡者も加わり、その矢はほぼ一射一殺で敵弓兵を屠っていく。
激しい矢戦が続く中、フィルードは限界まで射撃を続けた後、後方へ下がった。
その間にも、農奴兵たちは木材を運び込み、工匠の指示で三脚構造の高台を組み上げていく。
前回と同じ、簡易かつ迅速な工法だ。
夕刻には五メートル。
翌日の正午には、ついに二十メートルを突破した。
(――これで、完全に上だ)
千名余の精鋭弓兵と超凡者が高台に登る。
立場は完全に逆転した。
城壁上の守備兵は、矢に縫い止められ、胸壁から顔を出すことすらできない。
関隘は事実上、無防備となった。
エドモンは機を逃さなかった。
鉄甲兵を前進させ、農奴兵に雲梯を担がせる。
試探なし。
初動即決戦。
雲梯が掛かり、鉄甲兵が登攀を開始する。
その全てを、フィルード率いる弓兵が死守する。
敵が顔を出した瞬間、集中射撃。
半端な腕では許されない戦いだ。
やがて敵も死を覚悟し、丸太や巨石を投げ始めた。
犠牲が出る。
その時、エドモンが怒号を放った。
「全弓箭手、射撃!
味方は全員鉄甲だ、誤射を恐れるな!
最速でこの関隘を落とすぞ!」
(――勝負を、決めに来たな)
フィルードは歯を食いしばり、再び弓を引き絞った。
PS:この章では、フィルードの立ち位置が「前線の駒」から「戦局を設計する側」へと、はっきり一段階進んだ場面になっています。
正攻法に見えて、実際はかなり綱渡りな攻城判断――その危うさと成功の境目を楽しんでいただけていれば幸いです。
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「この攻め方は好きだ」
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次章では、勝利の直後だからこそ避けられない“現実的な選択”が描かれていきます。




