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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第一卷 傭兵から商人へ① ――異世界サバイバルと最初の血

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第2章 生き延びるための唯一の選択肢──傭兵

「俺のことは知らないだろうけど……町の住人だ。フィルードって呼んでくれ」

そう言って彼は息を整えた。

「君に聞きたいことがあって来たんだ。もしよければ、どこか場所を変えて話さないか?」

振り返った少年は鋭い視線を向けてくる。全身に緊張を漂わせながら――。

「まともな話なら構わない。だが……もしお前が変態だったら、その役に立たないものを切り落としてやる!」

「いやいや、ちょっと待て!」フィルードは思わず苦笑した。

「誤解だ。俺にはそんな趣味はない。ただ……君の傭兵としての経験について聞きたいんだ。とても興味があってな」

少年はしばらくじっと見つめたあと、わずかに肩の力を抜いた。

「……ならいい。けど、報酬はもらうぞ。その黒パン、よこせ」

やっぱり来たか、とフィルードは心の中でため息をつく。

「わかった。半分ならどうだ? 聞きたいことは簡単なことだけだ。そんなに時間は取らせない」

少年は即座にうなずいた。まるで、パンが逃げてしまうのを恐れているかのように。

二人は木陰に腰を下ろした。まだ昼だというのに、町の喧噪から少し離れるだけで静けさが広がる。

「それで、聞きたいのは?」と少年。

「君が傭兵としてどんな経験をしたか、全部知りたい。物語じゃなくて、本当の体験をね」

「本当の……?」少年は頭をかきながら、少し戸惑った様子を見せる。

フィルードは、町の人々がほとんど虚ろな目で生きているのを思い出していた。まともに言葉を交わせる相手は少ない。

――だが、この少年は違う。先ほど中年の募集人に歯向かっていた姿が、その証拠だ。

「緊張しなくていい。ただの雑談だと思って話してくれ」フィルードは優しく促した。

「じゃあ、まずは君の家族のことを教えてくれないか?」

少年はすぐに答えた。

「ラットランド村に住んでる。家族は母さんと兄さんだけだ」

「そうか。じゃあ、町に来た理由は?」

「仕事探しさ。銅貨でも、食べ物でもいいから稼ぎたかった。でも、結局なにも見つからなかった」

――言葉が滑らかになってきた。もう大丈夫だ。

フィルードは軽くうなずき、さらに聞いた。

「普段はどうやって暮らしてるんだ?」

「山に小さな畑があって、ライ麦を植えてる。でも収穫が少なくて……。農繁期は畑を耕し、農閑期はこうして仕事を探しに町へ出てくるんだ」

やがて、警戒心が完全に消えた少年は、傭兵としての経験を語り始めた。

「たいした話じゃないよ。去年のことだ。町で仕事を探していたら、傭兵の募集があった。腹が減りすぎてて、考える暇もなく飛びついたんだ」

言葉に合わせて少年の顔に苦笑が浮かぶ。

「ウォーカー騎士の領地に連れて行かれて、最初は石や丸太を運ばされた。それが二日。で、次は木の槍を渡されて、川辺に連れて行かれた。向こう岸には別の騎士と、その兵がいた。……で、罵り合いが始まって、すぐ戦闘になった」

少年は袖をめくり、噛み跡を見せつける。

「混乱の中で一人に絡まれてな、槍なんて使う暇もなく、取っ組み合いになった。……で、そいつが俺を噛みやがったんだ」

そのときの怒りが蘇ったのか、少年の声に力がこもる。

「結局、多くの連中が逃げ出して、俺もついて逃げた。だが三日働いたのに、もらえたのは二日分だけ。『臆病者だから』って理由で、一日分の報酬を差し引かれて……。たった四銅フェニーだぜ!? 命がけで稼いだ金なのに!」

――なるほど。命懸けの割には、ずいぶん割に合わない仕事らしい。

フィルードは黒パンを半分に割り、その一方を少年に差し出した。

「これは報酬だ。大切な話をしてくれたお礼だと思ってくれ」

少年は感激したように目を見開き、両手で黒パンを受け取った。

「……ありがとうございます! もし必要なことがあったら、いつでも俺を訪ねてください!」

フィルードは手を振って笑った。

「気にするな。俺は町の東の端に住んでる。困ったら来いよ」

そう言い残し、彼は少年のもとを後にした。

フィルードは家に戻らず、その足で町の金持ちの家を回った。

――家を売るためだ。

大半は「ボロ家なんて要らん」と門前払いだったが、最終的に三軒が興味を示した。中でも一番高値をつけたのは、町の猟師。七十銅フェニー。

予想以上の金額に、フィルードは即座に取引を成立させた。

「もし俺が買い手なら……野営用のテントを選ぶけどな」

心の中でそう呟きつつ。

さらに猟師の家で数本の粗末な弓を見つけ、交渉の末に三十銅フェニーで単一弓と矢五本を手に入れた。矢の方が高価なのは、矢じりを鍛冶屋から買わねばならないからだ。

領主の館で正式に契約を交わした後、フィルードは早速弓を試した。

「三十ポンドくらいか……質は悪いけど、使えないほどじゃない」

有効射程は数十メートル。大型の獲物に致命傷を与えるのは無理だが、ないよりははるかにマシ。前世で弓を嗜んでいた彼にとっては、馴染み深い感覚だった。

矢を数本射ってみると、手ごたえは悪くなかった。

その後、古物市場で大きな鍋の蓋を五銅フェニーで買い、さらに鉄の釘や麻縄を二銅フェニーで購入。武器らしいものは見つからなかったため、町の唯一の鍛冶屋を訪ねることにした。

店先では、中年の鍛冶屋が鉄を打つ音を響かせていた。

「おや、小フィルードじゃないか」鍛冶屋は顔を上げる。

「悪いが、日雇いの仕事はないぞ。他を当たってくれ」

フィルードは首を振った。

「ヨゼフおじさん、仕事を探しに来たわけじゃない。俺はもう日雇いなんてできない。この体じゃ誰も雇ってくれないからな。だから――傭兵になる」

鋭い音とともに、鉄槌が鉄を叩いた。

その響きが、彼の決意を試すかのように町に広がった。

※追記

初期稿の改稿に伴い、人物の呼称や登場順を整理しました。

本話より、ケビンはここで名乗る形にしています。

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